「まず、ボールがしっとりとしたグリーン上に見事にクッキリと乗っている様子を<見る>ことにしている。次にシーンはすぐに変化して、ボールがそこに行くまでの球質、軌道、さらには落下していく状態さえも<見る>」。
これは、プロゴルファーのニクラウスが、練習前に「想像図」を思い描くことの重要性を語ったものだが、イメージの役割というものは、能力開発において大きなウェイトを占める。
イメージの役割は、能力の開発のみならず、日常生活においても、創造性を発揮する上でも、比類なく大きい。記憶、学習、創造性、運動、感情の統御、性格改善、心理治療、目的達成といったあらゆる分野にイメージが関わってくる。
右脳開発が叫ばれてから久しいが、能力の開発はそう簡単にはできるものではないようだ。ごく一部の人間だけがイメージを駆使する能力を持ち、左脳重視、知識詰め込み教育を経てきた他の多くの現代人にとって、イメージを使いこなすのはなかなか難しい。能力開発をしようという人がまずぶつかるのが、イメージ力の問題だろう。

【イメージとは何か】
ところで、イメージとは一体何なのだろうか?
イメージアップ、イメージダウン、イメチェン(死語?)、−−現代はイメージの時代と言われるくらい、イメージという言葉があちこちで使われる。イメージは心理学のみならず、美学、経営学、工学、人類学、文学、とありとあらゆる分野で登場する。
考えてみると、イメージといってもいろいろな意味があることが分かる。一般にイメージという言葉を使う場合、次のように分類できる。

1.印象−−企業イメージ、商品イメージなど。

2.知識、理解−−「○○についてうまくイメージできない」などと使う。
3.心の中で描く絵のようなもの

ここでは主に3.の意味でのイメージを扱っていこうと思うが、この三つの項目はかなり関連し合っている。例えば、「アメリカ」という言葉を聞いた時、人によってイメージするものはまちまちだろう。国旗、自由の女神、地図、街並み、などなど。それらのイメージを浮かべながら、同時に自由の国という印象を持つ人もいれば、廃退した国家という印象を持つ人もいるだろう。イメージには、心の中の絵だけではなく、印象や意味合いなどの改作も付け加わる。心理学のイメージ研究においても、イメージに対するとらえ方は、研究者によってまちまちで、統一した見解は得られていない。

普通イメージというと、夢、幻想、芸術の世界に関係する非現実的なことと考えがちだが、ふだんの生活の中でも、わたしたちは様々なイメージを浮かべながら生活し、それらのイメージに基づいて外界と関わっている。
例えば、自分の部屋にいる時に、ブレーカーが落ちて真っ暗になった時、どうするだろうか。わたしたちは、部屋の中、廊下に置いてある物と、その配置を知っているため、目が見えなくても、手探りで歩いていける。これは部屋のイメージを浮かべられるからできることである。また、電気が消えて、その原因としてブレーカーが思い当たったとき、ブレーカーのイメージが自然と浮かぶ。このように、わたしたちは無意識のうちにイメージ的に思考し、イメージによって知覚を補っている。
こうしてみると、イメージというのは極めて日常的で、重要な部分を占めていることがわかる。

【イメージの類型化】
「聖徳太子」と聞いた時、あなたはどのようにイメージが浮かぶであろうか。以前は一万円札に刷ってあったので、よく覚えている人は多いかもしれない。このようなものは、イメージの分類では記憶心像といわれている。これは、自分で対象のイメージを浮かべたり、言葉を聞いて自動的にその内容をイメージしたりするものである。
長いドライブから帰った後、床に就くと、その日走った道が延々と続いて目に浮かぶ。特に場所は特定されていないが、印象強く残って、イメージとして現れてくる。このように、長く経験したことは鮮明なイメージとして現れやすい。

【想像心像】
これは、記憶心像のように現実の知覚のコピーではなく、本人が直接経験したことのないものや、さらには現実の世界に存在しないものまでイメージとして作り出すというものである。それには、記憶心像を分解、融合したものなどがある。また、数学の問題を解こうとしたり、新しい機械の作成をしようとしたときなどに頭に浮かぶ方程式や模型などのイメージもある。
心理学者リチャードソンは、ほかにも想像心像として、感覚遮断イメージ、入眠時イメージ、瞑想によるイメージを挙げている。

【直観像】
これは、イメージが細部まで非常に鮮明で、長く続くものである。しかも、一度形成された直観像は、消失後、再びそれを再生することが可能である。そして、心の中に思い浮かぶというより、まさにそこにあるかのように体験されるため、実際の知覚と間違えてしまう例もある。例えば、直観像の能力のある人が、列車の時刻表をしばらく見続けると、対象がカメラのように焼きつけられ、その後、記憶を再生して、あたかも眼前に見ているかのように時刻表を上から読むことも下から読むこともできるという。
この能力は、子どもには多いが、大人になると少なくなってしまうことが知られている。この理由は、西洋都市文明の束縛による抑圧のせいだとされている。ただ、そこまで行かなくても、「あの時のことは、今でも目に見えるようだ」というような直観像的なイメージは大人でも持つことが知られている。
このほか、<自分を外側から客観的に見たイメージ>と<内側から主観的に見たイメージ>といった分類、<意図的に作り出すイメージ>と<自然に浮かんでくるイメージ>といった分類、<自分が傍観者になっているイメージ>と<その場面に自分が没入して体験しているイメージ>といった分類が存在する。
また、イメージというと視覚的なものが多いが、それだけではなく聴覚や嗅覚、味覚、皮膚感覚、運動感覚、内臓感覚、の七つが上げられる。
イメージは、準感覚的なものであるといわれるのだが、実際、イメージをじっくりと体験すると、場合によってはほとんど現実と変わらない体験ともなりうる。
そのほか、イメージの分類は、心理学者の水野恵一氏が諸相×層構造というかたちで行っているが、ここでは割愛し、各自、自分のイメージを観察しながら特徴をとらえていただきたい。
一口にイメージと言っても、このような分類があるのだが、個人差というものもある。鮮明度、イメージの広さ、思い浮かべる場所、思い浮かべる速度、固定しておけるかどうか、操作能力、といった点で能力差が出てくる。
一般に、これらの能力は「生まれつき」+「育った環境」で決まってしまい、その後は変わらないものと言われているが、訓練によって高めることができる。

【イメージの活用法】
では、次にイメージの活用法について見ていくことにしよう。

【記憶におけるイメージの影響】
わたしたちが記憶をする場合、イメージを活用することは大変有効である。驚異的な記憶力を持った人には、イメージが鮮明で、うまくイメージを活用している人が多い。というのも、イメージの方が、言葉に比べてずっと情報量が多く、しかも蓄えてておきやすいからである。人間は、抽象的なものよりも、具体的なもの、視覚的なものが記憶に残りやすい。
イメージの活用の方法として、記憶術と言われるものがあるが、これは言葉と言葉を結び付けるのではなく、イメージとイメージを結び付ける方法である。例えば、買い物のリストとして、バナナ、傘、時計、シャツ、・・・とあった場合に、バナナと傘を結び付け、例えば、バナナを傘の先で刺しているようなイメージを描き、ついでに傘と時計とを結び付け、・・・というかたちで順次イメージしていく。
一般にこの結びつけは、奇妙であるほどいいとされているが、実験によれば、奇妙でなくてもその二つのイメージの間に相互作用があれば良く、時間をかけてイメージを精密にすることが効果を生むとされている。このように、イメージ能力は記憶力に対して有効なのである。

【学習におけるイメージの重要性】
想像力とは、その時点で知覚していないことを考える力であるが、この力は、学習・予測・問題解決・創造といった分野で不可欠なものである。通常、何かを考える時、言葉によって考えるものと思いがちだが、イメージの力というものも無私できない。一般に左脳が言語を担当し、右脳がイメージや直観を担当していると言われるが、両者は協同で働いている。
どちらが強く働いているかによって、思考が言語的な人と視覚的な人とに分かれるが、言語的な人でも、何かの設計をする場合には視覚イメージを用いて思考する。また、抽象的思考の極にある数学や物理学においても、新発見は心の目に浮かぶ一コマの映像に動機づけられるというし、思考家の複雑な概念的思考も、一瞬のイメージから出発するという。
数学や物理などの問題を解く時、実際の物体を使って解く場合とイメージを使って解く場合がある。例えば、幾何の問題を解く場合、図形のイメージを描き出し、そこに補助線を想定し、試行錯誤を繰り返して、有効な補助線を発見していく。図によって解決する場合、紙に書くよりも、イメージの中で解決した方がスピードは速い。
また、数式を思い出す場合などもイメージが有効となる。例えば二次方程式を解くときに、解の公式

この公式全体をパッと思い浮かべられるか、それとも一つ一つ言葉で思い出していくかどうかで、処理速度は全然違ってくるだろう。
また、珠算熟練者が暗算を行う時、視覚的なそろばんをイメージして、心の中でそれを見て、操作しながら計算するということが知られているが、これもイメージを活用した良い例である。
理系の分野だけではなく、抽象的な文章を理解する場合でも、イメージがうまく浮かぶかどうかで理解力もだいぶ変わってくる。
ある本の中で、その著者が哲学書を読んだ時のエピソードが紹介されている。哲学書というものは専門語と難解な文体の嵐が襲ってくるものだが、普通に読んだだけではまるで、ちんぷんかんぷんだったそうだ。そこで、「問題がわからないとや複雑な場合は、必ず図に書いてから考えるべし」という数学で教わった教訓を思い出し、文章を記号を用いて図解してみると、少しずつわかってきたという。文章の構造もイメージ的にとらえると、難解な文章を読む時に功を奏する。それに、構造をしっかりととらえたものは記憶に残りやすいというメリットもある。

【発明・問題解決におけるイメージの役割】
「テスラは幼いころから、ひとつの幻覚に悩まされてきた。それは、なにかについて考えた瞬間、その物体が目の前に出現しているということだった。物体は確かな重感と質感をもち、現実の物体と寸分違わなかったため、現実と混同してしまうことも少なくなかった。しかしこの迷惑な能力も、数学の勉強には大いに役立った。一度問題が与えられると、それは頭から絶対に消えなかったばかりか、黒板の上には問題を解くのに必要なすべての計算と記号が瞬時にあらわれていた。」
ニコラ・テスラは傑出した物理学者・発明家であったが、しばらくの間、詳細な視覚像を思い描くことができたといわれる。何週間も頭の中で機械の「試運転」を繰り返し、問題の起こる箇所を発見したりした。このような能力があれば、現実で実験を行うより、はるかに時間、金、労力を節約できる。
フィラデーは、「場の理論」の基礎を築いたといわれるが、もとは、磁石や電流の周囲に発生する「力線」についてのイメージから発展したものである。そのほか、蛇がからみ合ったビジョンからベンゼン環を思いついたという、ケクレの有名な話など、イメージが発明において重要な役割を果たしていることを思わせる例は枚挙にいとまがない。
アインシュタインはこう言っている。
「書いたり話したりする単語や言語は、私の思考メカニズムにおいては、何の役割も演じていないようだ。確実に思考を構成しているのは、<任意に>再現させたり結合させたりできる、ある種の記号または、いくぶん鮮明なイメージのようなものではないだろうか」
物理学者は、時空の統一性とか、相対論の四次元空間、電子の粒子と波動の二面性のような次元の高い抽象概念を感じとることができるという。これなどは、単純な言語とも、イメージともいいがたいため、視覚的なイメージを思い浮かべる能力だけではなく、現象を柔軟に理解できる力も必要となる。

また、科学の分野に限らず、社会や企業においても、問題の全体像をイメージできるなら、確実にキーポイントをとらえやすくなる。例えば、何かの計画を実行する場合、その場面場面をしっかりイメージして想定できるなら、何をどのような手順で行っていけばいいのかが、はっきりしてくるだろう。

【運動・心身に与えるイメージの影響】
また、イメージは心身にも影響を与えることができる。例えば、手の皮膚温を上げようとする場合、念じるだけでは、なかなか上昇しなくても「火にあたっている」とイメージすれば上昇しやすい。イメージと心身の関係をつかんだならば、意志を使うより、イメージを使った方が、楽に心身をコントロールできることがわかる。特異な例として、大変イメージ力の強い人が、歯科の治療の際、治療を受けているのは別の人で自分はそばで立って見ているとイメージして、苦痛を全く感じないで済むことができたという。
それから、イメージ技法は、冒頭に挙げたプロゴルファーの例のように、イメージトレーニングとして技能の修得に役立つ。この項目については内容が豊富なので次の機会に検討したいと思う。

【イメージ力を高めるテクニック】
イメージの重要性というものは、以上の例から理解できたと思う。次は、どうしたらイメージ力を開発することができるかという点について述べよう。

【集中力、リラックス】
まず、鮮明なイメージができるかどうかは、心が静まっているかどうかにかかっている。イメージをしても、雑念がわいてきたのでは、イメージを維持することは難しい。対象を思い浮かべたら、一点に集中し、それ以外の対象に気を散らさないようにしなければならない。ただ、一点に集中するというと目を凝らして見ることを連想するかもしれないが、そうではなく、リラックスして、心から自然にイメージが現れるようにすることである。

【情報量】
イメージができないことの原因の一つに、そのイメージについての情報量の少なさがある。心理学の研究においても、「どれだけ多くの情報が喚起されたかということが主観的な鮮明度を決定し、鮮明なイメージほど多くの情報を含んでいる」と明らかにされている。自分の経験のないもの、あるいは少ないものというのは、イメージしづらい。よって、まず、イメージする対象について、なるべく詳細に熟知しておく必要がある。

【記憶】
また、一連のイメージを行う場合、そのプロセスをすべて覚えておいた方が良い。例えばイメージしなければならないものを読みながら、一つイメージして、また読んで、次は云々・・・というかたちでやっていったのでは、イメージを連続して行うことはできない。よって、まずイメージする内容について完全に記憶し、それからイメージすると良い。

【絵の効用】
また、イメージを作り上げる上で、そのイメージを表した絵があると、言葉→イメージという変換の手間が省けるため、便利である。絵は、先程言った情報量が言葉に比べて圧倒的に多い。言葉では概念しか表せず、細部まで表現しようとすると、膨大な綾の記述が必要となるからだ。

【残像を利用する方法】
イメージを植え付ける方法として残像を利用する方法がある。まず、対象が描かれた絵や実物を目の前に置く。そして、絵の印象を目に焼きつけてから、目を閉じる。印象が薄くなってきたら、目を開けてもう一度見つめる。これを繰り返しながら、次第に細部まで像をはっきりさせていき、目を閉じても像が浮かんでくるようになるまで続ける。これを続けると、印象が薄れることなく、常時目に焼き付いた状態になり、その像に自分が溶け込んでいくことができる。

【観念にとらわれないこと】
一般には、抑圧というより、抽象的な思考能力の発達によって、イメージ能力が低下すると言われているが、実際、抽象的な思考を得意としながら、非常にイメージ力に優れた人もいるので、これは正しくない。
実際、心理学者の研究でも、次のようなことが報告されている。「イメージ能力が低い人は、高い人に比べ、抑圧傾向が高い。そのため、イメージが抑制され、不鮮明なイメージしか体験できない。ただ、その場合でも睡眠時には鮮明度が増す。これは心身のリラクセーションによって抑制が解除されるためである」
これは、おそらく観念的なものの考え方が、イメージを抑圧してしまうといった方が正しいだろう。

【向上させるポイント】
イメージ力を向上させるためには、初めは簡単なものから取り組んで能力が上がってきたら徐々に複雑なものへ移行していくことが大切である。イメージがはっきり見えるようになるまでには時間がかかるので、うまくいかなくても焦らないことである。「なにも見えないからイメージではない」「どこに浮かぶものだろうか」「色がわからない」「鮮明じゃない」−−とかく論理的思考にとらわれている人はこのように考えて、自分の能力を抑制しがちである。イメージを抑えてしまう。しかし初めは、何となく感じがつかめただけでも満足すべきである。イメージが思い浮かばなくても、その内容を思い込んで、その内容を強く思念することが大切である。そうして続けているうちに、色がわかり、それがはっきり見えるようになってくるものである。

【何をイメージするか】
イメージ力を向上させるためには、初めは簡単なものから取り組んで能力が上がってきたら徐々に複雑なものへ移行していくことが大切である。イメージがはっきり見えるようになるまでには時間がかかるので、うまくいかなくても焦らないことである。「なにも見えないからイメージではない」「どこに浮かぶものだろうか」「色がわからない」「鮮明じゃない」−−とかく論理的思考にとらわれている人はこのように考えて、自分の能力を抑制しがちである。イメージを抑えてしまう。しかし初めは、何となく感じがつかめただけでも満足すべきである。イメージが思い浮かばなくても、その内容を思い込んで、その内容を強く思念することが大切である。そうして続けているうちに、色がわかり、それがはっきり見えるようになってくるものである。

最後に、これは最も注意すべき点であるが、何をイメージするかである。オカルト志向の強い友人が、ある雑誌に載っていた瞑想を行い、自分の右肩前方に小人を観想した。そして、毎日訓練していくうち、目を開けても閉じても存在が感じられるくらい、はっきりするようになった。初めのうちは、その小人が、いい情報を与えてくれたり、使い手になってくれたり、よき相談役になってくれたものの、ある日突然、勝手な動きを始めた。否定的な言葉を投げかけたり、自分の行動や思考を邪魔したりするようになった。しかし、後の祭り。消そうと思っても消えず、ついに彼は気が狂ってしまった。
間違った対象を自分勝手に、しかもエゴを満たすためにイメージしたのでは、必ずしっぺ返しが来る。イメージというのは効果がある反面それだけ危険性もあるのだ。ここはよく気をつけておいてもらいたい。