陸には味方が、海には平家が見守っている。晴れがましい舞台というほかない。それだけに与一は必死であった。
矢を弓につがえて引き絞る。そして無心の気持ちが自然の呼吸と一致したと感じた時、矢を放った。
矢は鳴り響きながら飛んでいき、扇の要から一寸ほど離れたところを、ぶっつりと射通した。扇は空に飛んで、ひらひらと蝶のように舞いながら波の上に落ちた.........

平家物語りの一幕である。このとき弓を射た与一の心境はどのようなものであっただろうか。
わたしたちが日常生活を送っている中でも、ここ一番の集中力が要求される時が多い。その一時の集中力が、その後の人生の流れを左右したりもする。それはスポーツであったも試験であっても、本番でいかに集中できるかということがポイントとなってくる。たとえば優秀な能力を持っていたとしても、集中が欠けていては大事を失う。逆にごくありきたりの能力でも、それが集中されれば大変大きな力を発揮することができる。「ウサギとカメ」の話ではないが、集中によって能力あるものを、追い越すことぐらいわけないのである。

【集中とはなにか?】
世のお母さんは「この子は勉強となると全然集中力がないのに、テレビとなると集中してかじりついて離れないんですよ」とよく言う。勉強に対する集中力がないというのはOKだとしても、果たして後者のテレビに対する集中力、これは集中力があるといってよいのだろうか?この場合の集中力と、このページで述べようとしている集中力は似ているが違う。テレビにかじりついているというのは、単に情報に流されているだけである。
このほかにも、いろいろな人に集中力に関する悩みを聞いてみると、様々な解答が返ってくる。
・試験前だというのにあちこちに気が散ってしまう
・好きなことなら自然とできるのに、好きじゃないことだと頑張ってもなかなな集中が続かない
・とりとめのないことをあれこれと考えてしまう
・集中しなきゃという意識ばかりが先攻して、目的としていることが一向に進まない
・今は会議に集中しなきゃいけないのに、全く別のことを考えてしまう。雑念なのにかえってそっちの方で素晴らしいアイディアを思い付いたりする
・無我夢中、没我になって取り組んだので大変良い集中の状態だと思っていたが、後でなにをしていたのかさっぱり思い出せない
・車の運転で外には注意を払っていたのだが、警告灯をみていなかったために故障してしまった。

集中というのは、案外簡単なようでいろいろな様相がある。一見よく集中しているように見えても、実は正しい集中ではないこともある。例えば、この最後の運転の場合、運転手は全体に注意を払わなければならないのだから、良い集中とは言い難い。
今挙げた悩みから鑑みて、一般に良い集中の条件として次のようなことがいえるのではないだろうか。

・対象、主題から外れないこと
・雑念がないこと
・雑念が現れても即座に消せること
・偏った集中をしていないこと
・意識の鮮明さ
・精神の安定
・集中時間の継続
・目的の達成へ近付くこと
では次に、どのようにしたらこのような良い集中の状態を得ることができるだろうか?

【集中を妨げる要因−5つの障害】
良い集中を得るために、集中力を妨げる原因である「雑念」について考えてみよう。
この雑念について、いろいろな角度から見てみると5つあることが分かる。
例えば、

1.とらわれ
心が物や人にとらわれている時

2.怒り
怒っている時

3.愚鈍
愚鈍な時

4.情報
情報によって心が惑わされている時

5.疑惑
疑惑によって心が殺伐とした時

これが集中するために取り除かなればならない5つの障害なのである。そして、そういうものがいっさいなくなったとき、心は澄み渡り、ありのままに物事を見ることができる。これが人にとって一番いい状態である。
この状態になると、例えば明るい。そして、心に屈託がないから未来に対する不安がない。それによって思いきったことができる。それに心が雑念状態ではないから集中力も身に付いてる。

【情報に気をつける】
例えばテレビや雑誌、その他の雑念が出てくるということは、そういった情報を多く取り入れているために出てくるのである。よって、そういった情報をあまり取り入れないようにする。
余分な情報を取り入れることをすれば、雑念にさいなまれ、精神集中が妨げられることになる。余計な情報をいれない努力をするだけで、集中力に影響するものである。
よって自分の目的と関係のない情報は極力取り入れないことだ。テレビ、マンガ、雑誌・・・・これらから与えられる情報の多くがグルメ、暴力、セックスという能力の発展におよそ関係のないもの、利益をもたらさないものがほとんどである。取り込むデータと人間の精神構造とは密接な関係にあるが、簡単に言えば取り入れたデータの方に心が向かうということである。しかし、やっかいなことに取り込めば、取り込む程、さらに取り込みたくなるという習性がある。どこかで歯止めをかけないと、くだらないことのために莫大な時間を費やさせられるはめになる。

【集中力を培うための方法】
「好きこそものの上手なれ」という言葉があるが、だれでも好きなことに対しては熱中するものである。これはテレビにかじりつく子ども同様、純粋な集中とはいえないが、意識をそこに向かわせ、強い集中を得ることができる。したがって、自分の目的としていることに対して強い憧れを持つべきである。このような集中ができて、それから理想的な集中へ向かうことができる。
また、やる気と集中力は切っても切り離せない関係にあり、やる気はそのまま集中力につながる。やる気については他ページで述べているのでここでは割愛するが、より強い集中力を生み出すために、より強いやる気を培わなければならない。

【精神集中の訓練方法】
精神集中というのは外側に向かうほど楽で、内側に向かうほど難しい。この原則に従って、以下のようにちょっと集中訓練をやさしい順にしてみた。もちろん個人によって差はあるが、おおむねこの順番で集中時間も短くなっていくようである。ここに紹介している考え方を参考に、自分のレベルに合った訓練、方法を試してみてはどうだろうか。

1.身体を使って周りの対象に集中する−−−例えば、物を作る。車を運転する。
2.視覚と言葉を使って対象に集中する−−−声を出して本を読む(もちろん雑念が湧いてくる内容の本では、逆効果になってしまう)
3.視覚を使って対象に集中する−−−絵画を見続ける。あるいは本を黙読する。
4.言葉に集中−−−暗記したい英単語等などを使って行う。
5.身体と呼吸に集中−−−体操等。
6.呼吸−−−呼吸法等。
7.心の中で発する言葉に集中−−−内容としては4.と同様。
8.心の中のイメージに集中−−−最初にテーマを決めておき、雑念を抑えながらイメージについて徹底的に集中する。
9.心の中で思索について集中−−−最初にテーマを決めておき、その問題について徹底的に思索を続ける。

大切なことは、例えば音に集中しているときに、何回雑念がでてくるのかということである。それが、どんどん減っていけば、それは正しい訓練をしていることになる。また、特別に訓練の時間を設けなくても、普段の生活の中で目の前にあることを、ただひたすらやる、というのも集中力をつける道である。例えば、音なら音、視覚なら視覚、自分の手の動きなら自分の手の動きだけに集中する。あとは一切意識しない。これができることが理想である。

【雑念を落とすには】
ところで雑念をその場で消すには次の二つの方法が考えられる。
1.受け流す
2.思索によって解決する

この第2の方法は難しい。考えて解決するといっても、その考えるためのマニュアルがなければ、解決するどころか逆にどんどん雑念に巻き込まれてしまうことになる。これでは本末転倒である。
例えば、同僚から悪口を言われたことをふっと思い出して、心に怒りが湧いてきたとしよう。この際、怒りに対する処方せんを持ち合わせていないなら、下手にいじると怒りの感情に巻き込まれ、その同僚を怒鳴りつけるまで収拾がつかなくなってしまう。そこまで膨れあがってしまっては集中どころではなくなってしまう。
したがって、強い意識を持って集中し続けることが望まれる。そのときに湧いてくる雑念は放っておくのである。そうすると、その雑念がそれ以上進展することもなくなり、やがて落ちていく。つまり、集中する対象から心を動かさないで、雑念は聞き流す、ということである。

また、雑念を払うために呼吸法によって心を静める方法もある。
よくスポーツ選手や武道家が深呼吸して心を整えているのを見かける。また彼等は無意識に保息したりもする。これは呼吸と精神状態に密接な関係があり、保息の間、精神集中しやすいからだ。荒い不規則な息づかいは、心が散漫になっている状態を表す。長く呼吸をとめることができるというのは、その人が心を静めている状態を表している。