第1章 不思議の国
| 何も言えなくて・・・退院直後〜その1〜 アフター。それはサークルの後に、ファミリーレストランなどに行き、メンバーの皆でわいわいと騒ぐことである。アフターにおいて芸人としての特訓の成果が問われることは言うまでもない。 |
| おかやんは、ナイスバディに入る前の日まで、大腸に重い病気を患い入院していた。入院期間は二ヶ月。そのうち前半の一ヶ月は食事を摂ることが許されず、点滴のみで栄養を摂る生活だった。退院したとはいえ食事の制限はあり、ファミリーレストランのメニューなどは、ほとんど口にすることができなかった。 |
| 「えっ?おかやん、飯食べれへんの?ギャハハハハ!!」 おかやんの最初のアフターで前に座ったのは、自らをプリンセスと名乗る謎の女だった。そして食事制限のある人間に対して、おそらく常人では有り得ない失礼な爆笑だった。しかし、この謎のプリンセスの言動がどれほど不可解極まるものであろうが、アザラシの魔法と退院直後のバスケによって意識が朦朧としていたおかやんは、その不可解さに気づく術を持たなかった。 「うん。だからサラダだけにしとくわ。」 「嘘やー。それ以上痩せたらどうすんねん!あっ、食べられへんのか!ギャハハハ!!」 プリンセスの爆笑につられて、おかやんも笑った。入院以来の久しぶりの笑いだった。しかし、若干おかしな…。 謎のプリンセスは、この時点ですでにかなり謎めいていたのだが、まだもっと大きな秘密を持っていようとは、おかやんはまだ知ることはなかった。 |
| 「退院直後にバスケットボールをすることは、絶対勧められない」 筆者の記録によると、おかやんは後年ある雑誌の取材でこのように語っている。その日、おかやんは初めて、力が入らずに倒れるという経験をした。それは、ミッチーというやたら口の悪い男のディフェンスをしているときだった。すでに疲れきっていたおかやんは、ミッチーにドリブルで抜かれた直後に仰向けにばったりと倒れかけた。どうにか倒れないでおこうと、すがりついた先はミッチーの足だった。 「離せ!ボケ!!」 おおよそ、初対面の人間とスポーツをしているときに出るとは思えない台詞。おかやんが、ミッチーという男の恐ろしさに気づいたのはこの時だった。同時にミッチーは抜かれても、意地でもすがりつくおかやんの執念に、ある種の恐ろしさを感じた。ミッチーにとってそれは、野生動物のみが感じるような殺気に似たものだった。こいつ…、殺らねば殺られる…。 |
| おかやんは朦朧とする意識の中にあったが、すがり付く手を振り払おうとするミッチーの恐ろしい形相だけは、まるでピンぼけの写真の中で偶然に焦点に合うように写り込んだ通りすがりのおばちゃんのように、鮮明に記憶のフィルムに焼き付けられた。 |
| アフターで、おかやんは二つ向こうのテーブルに座っているミッチーを見付けた。あいつは…恐ろしい奴だ。ミッチーもおかやんの視線に気づいていた。あの野郎…何者だ? |