「広報いかた」に全9回(2001年10月〜2003年2月号まで隔月で)に渡って連載されたものです。
今回、筆者水本孝志さんの了解を得、ここに掲載させていただきます。


[素晴らしき伊方の自然] 第1回 「野鳥の渡り」


 「ギチギチギチ・・・!」秋告鳥のモズが、長い尾羽を 自慢げに回しながら高啼くほどに、爽やかな涼風が吹いて 来る好季節を迎えました。
 この東風を利用しながら、日本の各地で子育てを終えた 『夏鳥』たちが沢山の幼鳥を引き連れ、越冬地の南西諸島や 東南アジアを目指して、《南帰行》を始めています。
 日本一の細長さを誇る佐田岬半島は、北海道〜本州〜四国と 南下西進してきた野鳥たちを、天敵や悪天候による事故の多い海上 ルートを避けさせ、草木の実や休憩場所を提供しながら、わずか 十五キロの豊予海峡、九州〜沖縄〜南の国々へと、より安全に導く 『マイグレーション・コリドー=渡りの回廊』として、その名を 全国に馳せています。
 そんな佐田岬半島基部に位置する伊方町も、かけがえのない 国際的渡りルートの要衝として、様々な野鳥が行き交います。
 ツバメやアマツバメ、オオルリ、キビタキ、コムクドリ等の 小鳥たちが先陣を切った後は、ハチクマ、サシバ、ハイタカ等の 猛禽類がダイナミックな飛翔で続きます。そして最後を締めくくる のは、ヒヨドリたち。数百、数千の大群での渡りは、実に壮観!  彼らを狙うハヤブサやオオタカのスリリングなハンティング・シーンも 見逃せません。
 観察に最適なポイントとして、青空に映える猛禽類なら堂々山、 羽を休める小鳥なら伊方越〜九町越尾根の雑木林帯がお薦め。 亀ケ池で希少種のノジコ、女子岬で数千羽のヒヨドリを記録しています。
(2001年10月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第2回 「巨樹・銘木」


 初冬の寒空に暖かな灯し火がポッと点るかのように咲く、 伊方町花『ツワブキ』。深緑の大葉に映え、黄色の頭花が実 に美しい。サルビアやスイセン等の帰化園芸植物と異なる 日本古来の身近かな植物を町花に選ばれた先人の美意識の 健全さに、心からの拍手!
 さて、こんな可憐なツワブキを眼下に、雄々しく仁王立 ちする巨木たちが、此処かしこの山野や社寺境内で悠久の 時を刻んでいます。
 環境省の巨木調査基準によれば、地上1・3mでの幹周が 3m以上だと、「巨樹・巨木」として認定しています。
 これに基づき踏査した結果、九町の西地区から二見地区に かけての県道上の照葉樹林帯には、佐田岬半島を代表する 樹種『ホルトノキ』の大群落があり、そのうちの一本は幹周 4・38m、推定樹高は18mもあり、青石を抱く根が八岐の オロチの如く斜面を這い巨体をガッチリ支え凄い迫力!! 又、2.5〜3m級が十数本あり、地権者の合意のもと是非 保全して、後世に伝えて頂きたい伊方の天然遺産林です。
 その他、中浦・法通寺のナギとヤブニッケイ、湊浦・八幡神 社のイチョウとバクチノキ、九町久保・八幡神社のホルトノキ、 九町奥・客神社のクスノキとエノキ等を特筆しておきますが、 皆さんがウ〜ンと唸る隠れた1本があれば実測してお知ら せ下さい。瀬戸内海側が穴場ですゾ! [電話24‐4961]
(2001年12月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第3回 「ようこそ冬鳥」


 渡り鳥のうち、子育てをした北方の地から、寒さを避け るため南下飛来し越冬した後、暖かくなった春に、再び帰っ て行く野鳥は、特別に『冬鳥』と呼ばれています。
 現在、伊方町の此処かしこで、寒風をやり過ごしながら 各々のライフスタイルで春一番を待つ、美しく個性豊かな 冬鳥たちを紹介しましょう。 先ずは庭先や生活圏内で観察できる身近かな冬鳥から
 「火ッ火ッ、カッカッ!」と、まるで火打ち石を擦るかのよう に地鳴きするところから命名されたジョウビタキ(紋付)、 静かに雑草のこぼれ実を拾う愛らしいアオジ、柿の実を啄 んだり、落ち葉をガサゴソ掻き分けながらミミズなどを探 すシロ八ラや、ツグミ等の中型種がお馴染みで すね。クロガネモチやヤドリギの実が大好きなレンジャク に出逢えれば超ラッキー!
 山野では、アキニレにアトリ、オオバヤシャブシにマヒワ、 ヤマザクラの花芽にウソが群れ、暗い林林道にはヤマシギクロジが忍者の如く蠢き、明るい林縁には美形のミヤマホオ ジロカシラダカが。
 空ではハイタカが風を切り、ノスリが見事な《一点静止》!
 海上にはセグロカモメが浮き、岩礁ではウミウたちが翼 を拡げて日光浴をご満喫。
 さて、コガモマガモに続きキンクロハジロも出現した 亀ヶ池と、かつてツリスガラクイナが羽を休めた九町の 芦原が、埋め立て工事等により、沢山の水鳥たちのパラダ イスでなくなりつつあるのは本当に残念なことです。
 彼らは数千キロを旅して来た正に『遠来の客人』。温かく 「そっと」見守りましょう!!
(2002年2月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第4回 「春の妖精花」


 土の中や落葉の下で冬眠をしていた虫たちが、陽気に誘 われ一斉に姿を見せ轟き出すという「啓蟄(けいちつ)」を過 ぎ、本当に春めいてきました。
 この昆虫たちの目覚めを待っていたかのように花を開く スミレやタンポポなど、茎丈が低く実に愛らしい植物群を、 西洋では『スプリング・エフェメラル=早春のはかない妖精 たち』と、特に親しみをもって大切に保全しています。
 何故《はかない》のかと云いますと、小柄な彼女たちは、 ススキやセイタカアワダチソウなど大柄な植物たちが背を伸 ばし、光と受粉を助けてくれる昆虫を独占してしまう前に 大急ぎで花を咲かせて種子を結ばねばならないからで、そ んなチャンスは早春のほんの一瞬(ひととき)しかありませ ん。だからこそ人々は、そのうたかたの命に「妖精」の姿を 託し、慈しんだのでしょう。
 それでは、「ミニモニ」よりも超可愛い伊方町の妖精 たちをご紹介します。
 青石垣から清楚な顔を覗かせるタチツボスミレ、と てもキュートなコバノタツナミ。果樹園を縁どるキランソ ウやハハコグサ・シロバナタンポポ等は、オオイヌノフグ リやオドリコソウ・ホトケノザ等の帰化植物群と、激しい テリトリー争いを展開中!
 堂々山〜茅の峠〜九町越の鞍部では、コスミレ・ヒメハ ギ・キジムシロ・コモチマンネングサ等が精一杯輝き、海 辺では、ツルナやルリハコベが、移ろう春を謳歌します。
 庭先では、黄色い顔のカタバミが、永遠の恋人‥ヤマト シジミと静かに揺れています。
(2002年4月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第5回 「森のホタル」


 仰ぎみる青葉が本当に清々しい季節を迎え、 オオルリやキビタキ、サンコウチョウなど 伊方町を代表する夏鳥たちの子育ても真っ盛りです。
 さて、一九九四年の今日この頃の夜のこと、フクロウの 生息数調査に出掛けた筆者は堂々山の中腹で、偶然にも杉 木立林床から湧き上がる光の群れに包まれて、茫然と佇ん でいました。「ナ、何じぁあこの光の主は!?」「飛び方から すると螢だが、フラッシュのように素早く小刻みに光る螢は ゲンジボタルでもヘイケボタルでもない。おまけに川も田 ない森の中で?」・・・チンプンカンプンの闇の中。
 その後、アウトドア系雑誌で岡山県の《金ボタル》の記事 を読み、その光の主が『ヒメボタル』であることが判明。そし て西海町沖の鹿島でのヒメボクル鑑賞会がマスコミを賑わす 今日、五年間に渡る追跡調査と、三崎町の正野小学校の児童 諸君の熱心な観察によって我らが佐田岬半島の豊かな自然環境指 標種に値し、県下有数の生息密度を誇る貴重な「陸産螢」である ことも分かってきました。
 ヒメポタルはゲンジボクルの約三分の一の体長で、♀は後翅 が退化して飛べず、幼虫は陸産貝のキセルガイやカタツムリ などを餌とする《森のホタル》であることなどが特徴。
 たいした河川のない伊方町だが、水系依存螢のゲンジや ヘイケとの縄張り争いもなく、常緑樹と落葉樹が豊かに混交 する照葉樹林帯は、正に彼らの、とっておきパラダイス。
 樹床に湿気た腐葉土があり林緑に野草が茂る森ならば、 きっと貴方も出会えます!
(2002年6月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第6回 「タイドプール」


 経済大国の贅沢過ぎる化石燃料使用により、大量に発生 した二酸化炭素の混室効果が主因という、地球規模の温暖 化をヒシヒシと実感する、一段とヒートアップした灼熱の 「夏本番」を迎えました。
 さて、夏といえばプール!ダイエットや競泳用の、コン クリートや強化プラスチックなどで固められた人工プール と異なり、引き潮の時に岩場や砂浜の窪みにできるのが、 『タイドプール潮溜り)』。
 北は瀬戸内海、南は宇和海と海に恵まれた伊方には、家 族で自然観察が楽しめ、環境学習もできるタイドプールが 此処かしこに出現します。
 生命40億年・・・最初の命を宿し、今でも全生物の四分の 三を育む海は、正に《命の揺りかご》。小さなタイドプールに も多種多彩の動植物たちが素晴らしい生態系を形成し黙々 と海を浄化しています。 とてもカラフルで美しいミドリイソギンチャクやミヤコウミウ シ・イトマキヒトデ・ミズヒキゴカイ。愛嬌たっぷりに動き回 るヤドカリやヒライソガニ。グロテスクだけど憎めないクモ ヒトデやムラサキクルマナマコ。ヒジキやウミトラノオに産みつ けられた奇怪な卵塊はアメフラシの「海そうめん」。ツメタガイ の「砂ちゃわん」も面白い。をもつゴンズイ・アカクラゲ・ ハオコゼ、鋭い辣のガンガゼやハリセンボンには、ご用心!
 川の砂防堤や護岸による砂浜消失、農薬の流入、船底や網の 塗装剤から出る環境ホルモン、マナーの悪い釣り人、夥しい漂 着ゴミにもめげず、必死に生きる身近な仲間たちの「声無き声」 にも、ぜひ耳を傾けて下さい。
(2002年8月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第7回 「秋の鳴く虫たち」


 朝夕はめっきり涼しくなり自然界はすっかり秋風情・・・。 いよいよ「鳴く虫」の出番です。その主役は庭先のコオロ ギや草原のキリギリスやバッタの仲間(直翅目)たち。
 「鳴く」と言っても、野鳥のように咽を震わせて鳴くので はなく、彼ら(♀はほとんど鳴かない)は、両の翅や節足と 腹部を擦り合わせて《音を出す》と表現したほうが適切なの ですが。その鳴き声にも大きく分けて、雌へのラブソング である誘い鳴き、ライバルの雄を追っ払う脅し鳴き、自分 の縄張りを主張する地鳴きと、3通りの《音色=役割》があ るようですね。
 とりわけ雄の雌を誘う甘〜いラブソングは、種類ごとに 実に個性的でメロディアスに重なり合い、やがて素晴らし いハーモニーとなって秋を深めてゆく様は、『草原の交響楽 士』と称される由縁です。
 それでは、伊方町のレディース&ジェントルマン! 特に素 晴らしいミュージシャンを紹介しましょう。 ★エンマコオロギ(鳴く虫の閻魔大王) /ツヅレサセコオロギ(冬準備を促す) /マツムシ(チンチロリン♪) /カンタン(鳴く虫の女王) /カネタタキ(チンチンチン♪) /キリギリス(チョンギース♪) /ウマオイ(スィーッチョン♪) /カヤキリ(ジーーー♪) /オナガササキリ(ジリッジリッ♪) /ショウリョウパック(ハタハタハタ♪) /ヒシバッタ(ジー♪)
 尚、中国大陸からの帰化昆虫・アオマツムシの大量侵入、 籠抜けスズムシの遺伝子汚染、草原喪失、温暖化等々により、 伊方町在来種は駆逐され受難の時代を迎え、泣いています。
(2002年10月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第8回 「哀れ!哺乳動物」


 立冬を過ぎ早くも一ヶ月…皆さんの庭でも、ジョウビタ キやシロハラなどの越冬鳥が羽を休めていることでしょう。
 さて、野生生物界に、お母さんが乳を含ませ子育てする 「哺乳動物」がいます。伊方地区にも十数種の哺乳動物が 生息しているようですが、人間活動が盛んな昼間を避ける 夜行性動物ばかり。活き生きと躍動する姿を目撃すること はめったになく、悲惨な屍骸に出逢って、初めて彼らの存 在に気付く私たちです。
 そんな訳で、データ不足が否めませんが、伊方町の哺乳 動物の現状を概説します。
 先ずイノシシは、密かに放獣されたり、飼育場から逃げ 出したイノブタとの交雑による遺伝子汚染が進行している とともに、農作物加害の濡れ衣を着せられて、闇雲に駆除 され、佐田岬半島全域からも絶滅が近いと推定されます。
 又、けものみちをズタズタに分断するメロディーラ インでは、タヌキを筆頭に動きが緩慢なアナグマの交 通事故死が甚大であり、その屍骸を狙って二重遭難する キツネたちも多い。
 小柄な二ホンイタチは、毛皮目的で移入されたチョウセ ンイタチに縄張りを奪われて激減中。愛らしいノウサギは 少し復活の兆しがあるものの、テンリスカヤネズミア カネズミムササビコウモリ等の小型種は、環境影響調 査抜きの乱開発により自然林を奪われ、青息吐息の体。
 人間も同じ哺乳動物…伊方町の身近な《仲間》たちは、必 死で『SOS』『HELP』の白旗を、振り続けています!
(2002年12月号掲載)

[素晴らしき伊方の自然] 第9回 「自然観察の薦め」


 伊方の自然概説シリーズも、これがラスト・ワン!
 昨今「環境問題」が論議されますが、実は環境を破壊 する「人間の問題」なのです。
 体に標識や発信機を装着し管理研究すべきは、地球 生活のマナーを忘れた人間の方ではないでしょうか?
 植物6億年。昆虫4億年。野鳥1・5億年。地球生命 史40億年中、たかだか4百万年足らずの、私たち二 足歩行獣が、何をか況んや。
 自然界は在るがままでパーフェクト! 陰湿なイジ メや差別、無益な殺傷、悲惨な戦争がありません。カ ネも権力も名声もトントお呼びでなく、化石燃料も科 学文明も文化芸術も歴史も必要としません。プルトニ ュウムやダイオキシンや環境ホルモン等、後世を汚染 し、子や孫たちに禍根を残す一切のゴミを出しません
 正に地球暮らしの大先輩であり、師匠でもある、自 然界の面々に、もっと親しみもっと学んで私たちの明日 を再考してみませんか?
 『愛媛県環境マイスター制度』を活用すれば、指導料 ・講義費不要で、本格的な自然観察会は勿論のこと、 屋内でのエコロジー講座や動植物スライド上映会など を、企画し主催できます。
 お問合せや自然情報は・・・電話24‐4961まで、 お気軽にどうぞ!
 今後は、未来からのメッセージが風に舞う、大峰山 や女子岬や亀ヶ池や八幡神社境内で、双眼鏡や図鑑を 手にした貴方との出逢いを楽しみにしています。
(2003年2月号掲載)


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