02:風

あたたかい風が吹いて髪をゆらせば
凍てついたこころもとけます。

こころをとかした風はそのぶん自分が冷えてしまいます。

けれどとけたこころの持ち主のはにかんだ笑みを振り向きざまに見て
風は一抹のさみしさの中に喜びのしずくを見いだすのです。
そのしずくは大事にとってありました。

冷たいこころをとかす時、そのさみしさが風には見えます。

行き詰まって全て投げ出したくなっている彼女の焦燥も
言うつもりのなかった言葉を吐き出してしまった彼の後悔も
彼を傷つけてしまった彼女の悲しみも
彼女を許すタイミングを逃してしまった彼の悲しみも。

風はこころをとかし、手に入れた喜びのしずくを眺めました。
風は数えきれないほどたくさんの喜びのしずくを持っていました。

それと同じだけの数のかなしさがこの世界に存在していたことを考えて
風は悲しくなりましたが、誰も風のこころをとかしてくれるひとはいませんでした。

2003.5.2.



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