05:宝石箱
彼はもうこの世界にはいないのです。
涙の枯れた瞳で彼女は言いました。
彼女の手の中にはとても美しい宝石箱がありました。

彼は私にたくさんのことを教えてくれました。
喜びも悲しみも全て。

彼を失った今、私は生きていてもしょうがないと思うのに
どうしても自分の命を絶てないのは
彼が私に勇気や希望をも教えてくれたからなのです。
だからせめて私の中の絶望だけでも絶とうと思うのです。

そう言って彼女は枯れたはずの涙を一粒ほろりと宝石箱の中にこぼすと
白く細い指を宝石箱から離しました。

宝石箱はキラキラと光を反射しながら海の底へと沈んで行きました。
宝石箱が見えなくなると彼女は空を仰いで小さなため息をひとつ、つきました。

2003.5.5.



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