● Mタコさん16000ヒット キリ番企画 ●
( リクエスト : 「作品はなんでもよいので二次創作」 )
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何だかムシャクシャする日だった。 碁も思うように打てず、黒星が続いていた。 また悪い癖だ。一度思い詰めるとなかなかスッキリ立ち直れない。 こんな日は何も考えずに外をぶらつくのが常だった。 …いい天気だ。寒いけれど空は青い。こんな気分じゃなければ最高なのに。 公園のベンチに腰を下ろし、買ってきたコーヒーを開けた。 一息ついて、目を閉じる。ああ、何か… 「…何か面白いことないかなァ」 「!?」 声は突然聞こえた。びっくりして振り返ると、後ろで女の人が座って電話をかけていた。 何か、面白いこと…そう、何か… 「…あの、どうかしました?」 「えっ!あっ、いえ、何も。…すみません」 いつの間にかボーッとその人の顔を見ていたらしい。 電話を終えたその人が、不思議そうにこっちを見ていた。 「あなたがオレの考えていたことをそのまま口にしたから、驚いてしまって」 「え?」 「『何か面白いことないかなぁ』って」 「あぁ」 彼女は笑った。 「友達と待ち合わせしてるんですけど、特にやることがなくて」 「面白いことかー。たくさんあるような、何もないような」 半分独り言のようにつぶやいた。面白いことなんて… 「碁は、面白いことじゃないんですか?」 「えっ」 「この本…あなたのですよね。脇に置いてあったけど」 彼女が差し出した本は、確かに自分の詰碁撰だった。 「あぁ、オレのです、どうも」 「碁、やるんですか?」 「…ええ。あの、一応…プロなんです」 「プロ!?碁のっ?」 「はい」 なんとなく気恥ずかしくなって、小さな声で答えた。 「すっ、すごい!!」 「えっ」 彼女の顔が突然輝いたので、びっくりしてじっと見返してしまった。 「プロ!ってことは碁のスペシャリストなんでしょう?」 「スペシャリスト…」 「すごいじゃないですかー!感動!それなら碁は楽しいでしょう」 「ええ、それはまあ…」 碁は、楽しい。そうだ、楽しい。 「私、碁石の打ち方ってカッコいいよな〜と常々思ってたんですよ、ね、教えてくれません?」 「碁石の打ち方ですか」 「そう!こう、二本の指で挟んでさあ、パチ!っと。どうやってもこれは真似できなくて」 「あ〜、いきなりやろうとしても難しいですよこれは」 「やっぱり最初に習ったりするんですかね」 「ええ、とりあえずはそうかな。でもわりといつの間にかできるようになってるんですよ」 「へえ〜。ね、どうやって持つの、見せてほしいなぁ」 「いいですよ。実はポケットに碁石が…」 「マイ碁石!」 「あははは、まぁそうかな、いつも2〜3個持ってたりするんですよ」 「え、まずこう持って…?」 「うん、こうかな」 「わー!落ちるっ」 「頑張って」 「あはははは」 ……… 「ごめーん!お待たせ、えむたこォ」 「あ、来た」 どれくらい打っていただろう、彼女の待ち合わせ相手がやってきた。 気付いたら、ずいぶん二人で笑っていた。 「今、この人に碁石の打ち方教えてもらってたんだ、楽しかったよ〜」 彼女は立ち上がると、ニコッと笑った。 「ありがとう、これで私も碁打ちの仲間入り!」 「はは、ぜひ今後も続けてくださいよ」 「もちろん!…じゃ、さよなら。すごく楽しかったよ、伊角さん」 「――― えっ?」 「碁の本に名前書いてあったから」 「あ、あぁ、そうか」 「面白いこと、見つかりました?」 面白いこと…か。 「…ええ、見つかった気がする」 「よかった」 彼女が笑った。 「それじゃぁ頑張ってくださいね〜」 そう言って、公園で出会ったその人は行ってしまった。 ああ楽しかった。何だかとても、すがすがしい気分だ。 面白いこと、見つかったよ。…あなたのおかげで。 久しぶりに、こんなに笑った気がする。 「よしっ、戻るか」 気持ちのいい青空の下、思いきり伸びをして、そして歩き出した。 ポケットの碁石と引き替えに、大切なものをもらって。 ――― FIN. |