法月綸太郎「法月綸太郎の功績」(講談社)
肩に力入りまくりの処女作「密閉学園」とはうって変わって、落ち着いた本格推理ミステリー短編集。なるほどねと唸らせる謎解きと、平易な文体で気軽に楽しめます。江戸川コナンが登場しても違和感がありません。推理ミステリー好きにはたまらないでしょうが、そうでない私にとっては、どうでもいい一冊です。
東野圭吾「宿命」(講談社文庫)
これも読みやすい長編推理。設定は見事だし、文章が巧いのですいすい読めますが、展開が軽快すぎます。途中で心に引っかかるものが何ひとつない小説では寂しすぎます。設定が思い切り嘘っぽくたって、ぼろぼろ泣けてしまった「秘密」を超える作品など、一生のうち、そう何冊も書けるものではないのでしょうね。
浅倉卓弥「四日間の奇跡」(宝島社文庫)
その「秘密」と同じ仕掛けを恥ずかしげもなく使った作品ですが、ストーリーも文章も抜群に上手く、とても新人とは思えない素晴らしい作品です。礼拝堂散歩の場面ではディズニー「ファンタジア」のラストシーンが、ヘリコプタークラッシュの場面では「野生の証明」の1シーンが目に浮かびました。この作品なら、トム・ハンクス主演で、映画にしてほしい気がします。自らの心の傷を見ないように、見ないようにしている多くの人にとって、心揺さぶられる作品ではないでしょうか。
佐藤正午「Y」(角川春樹事務所)
反対にこれは酷い・・・。タイムスリップ前後の設定は興味深いし、何十年にわたって思いを遂げる展開も面白いのですが、文章が致命的に下手くそ!ビレッジ・バンガード店頭POPではベタ褒めしてあった本書ですが、日本語の未熟な若い人にはあまり読ませたくない一冊です。
クリストファー・ライク著、土屋京子訳「匿名口座」(講談社文庫)
元々よくできている原作を、言葉と文章のプロである翻訳家が訳したのですから、面白いに決まっています。スイスのメガ・バンクで行われているマネー・ローンダリングに、軍隊帰りの若いアメリカ人銀行家がたった一人で立ち向かうという、いかにもアメリカ人が喜びそうな展開です。アメリカの投資銀行の傲慢さと横暴さを指摘した小説は多いですが、ヨーロッパの伝統的銀行業も、どろどろしているのでしょうね。
ロアルド・ダール著、田村隆一訳「チョコレート工場の秘密」(評論社)
今回の6冊の中では、間違いなくベストの1冊。児童書ですが、子供たちだけに読ませるなんてもったいない、最高のファンタジーです。どうやらティム・バートンの次回作!らしいです。
密閉教室 2004年6月17日
法月綸太郎「密閉教室」を、ようやく読みました。
謎解きはそれほどではありませんでしたが、生徒一人ひとりのドラマが微妙に絡み合って、面白いストーリーでした。パラグラフごとにタイトルがついていて、テンポの早いTVドラマのような展開が、ストーリーにマッチしています。
主人公は、やたらと難しい言葉や表現を使いたがる高校生探偵。事件を解決したつもりだったのですが、真実は何ひとつわかっておらず、格好悪いことこのうえなし。この年頃に共通する「一生懸命の背伸び」が、なんとも懐かしく、微笑ましいです。
舞台は、法月氏(そして私の)母校である島根県立松江北高校。私が卒業したと同時に、西川津校舎から現在の(そして本編舞台の)赤山校舎に移転したため、校舎内のディテールはよくわかりませんが、体育館ピロティや起雲館はOB面さげて遊びに行っていたので、情景は目に浮かびます。女子トイレ事件は、本当にあったことです。
「となりの寝室」 2004年5月29日
東京松江会で、久しぶりに二松まゆみさんに会いました。主婦ネットワーク組織のエムネットジャパンを主宰、現在は同社の第一線から退いて執筆生活の彼女。相変わらず、髪は黒く薄化粧で飾りっ気なく、振る舞いも自然体で、いつまでも田舎の高校生みたいな人ですが、天性のマーケッターです。
さっそく帰りに、彼女の処女作である、夫婦仲と性の相談所編「となりの寝室」(講談社)を買って読みました。これは面白いです。はじめは、清水ちなみの「女子便所の落書き」もの?あるいは、女性週刊誌連載のセックス相談室みたいなものか?と読み始めましたが、ぜんぜん違います。アンケート集計結果自体は、それほど興味をひきませんでしたが、夫婦仲と性についての主婦インタビューの量と内容に圧倒されました。恋愛−結婚−セックスというものは、世界中すべての人にとって「ドラマ」なのですね。彼女があとがきに書いているとおり、大切なことは「夫婦間の会話」コミュニケーション。
「となりの寝室」日本中すべてのご夫婦に推薦します。
「地下鉄(メトロ)に乗って」2004年4月16日
営団地下鉄が東京メトロに生まれ変わったから、というわけではありませんが、浅田次郎「地下鉄(メトロ)に乗って」を読みました。
「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブレター」といった名作短編でもそうなのですが、この作家に「せつない別離」を描かせたら天下一品ですね。ぐっときます。
銀座線神田駅地下鉄ストアや、上野駅のスロープなど、馴染みの光景がでてくるところも気に入っています。普段、何気なく通り過ぎている地下鉄構内では、何十年もの間、毎日数え切れないほどのドラマが繰り返されてきているのです。いずれ松江に帰る私ですが、何十年かのちに日比谷線に乗ったときに、いったいどんなエピソードを思い出すことでしょう?
本作ではタイムトラベルを通して過去を垣間見、真実に触れるのですが、巻末の解説にもあるように、決して映画「 Back to the future 」のような痛快なものではありません。例えば、映画「 Once upon a time in America 」でヌードルスの回想を通して感じる郷愁と悔恨、あるいは、NHK少年ドラマシリーズ「タイムトラベラー」最終回でケン・ソゴルに関する記憶が消されたあと、芳山和子がラベンダーの香りを嗅いだときに視聴者が感じるせつなさに通じるものがあります。
プチ哲学 2004年4月5日
佐藤雅彦著「プチ哲学」中公文庫がすごく良いです。仕事でも、人間関係でも、お金でも・・・プチ?悩みのある人は、ぜひ読みましょう。
「あ!なるほど」
心がスッキリします。小学生でもわかります。
2004年4月5日21時40分
オピニオン誌「テーミス」 2003年9月12日
初めてTHEMISテーミスという月刊誌を買いました。電車の中吊り広告などで気にはなっていた雑誌でしたが、政治家や企業・マスコミなどを非難するだけの、がっかりさせられる内容が多かったようです。
例えば、巻頭言「既成の図式を破る報道を」。これは、マスコミの怠慢・ダブルスタンダード・ステレオタイプを戒める、なかなか辛口の論評でした。中村修二氏が、青色発色ダイオードの特許権帰属や発明の対価を求めて、日亜化学と争った裁判についての論評で、他のマスコミが「強くて悪い企業vs.弱いけど正しい個人」という視座オンリーで、中村氏の「虚言」「うさんくささ」にまったく焦点をあてていないことを痛烈に批判しています。果たして中村氏がどういう人なのか私は知りませんが、この裁判の本質は、実は本件特許や対価の問題ではなく、ましてや中村氏の人間性の問題ではなく、いままであまりにも低く扱われていた、企業内開発や発明に関する知的財産権とその対価をクローズアップすることで、若い開発者に夢を与え、技術に強い日本を再生させることなのです。私自身、マスコミの無責任な報道姿勢には日々憤りを感じていますが、こと本件については、枝葉末節にこだわるテーミス巻頭言よりも、一般報道のほうが正しいと思うのです。
テーミス9月号に掲載されている膨大な批判記事のすべてに目を通したわけではありません。世の中の問題点を発見する感性は高い(例えば、日本政策投資銀行の不良債権に目をつけたのはさすが!)と認めますが、その取材内容や論旨展開は、多少幼稚に思えます。私には「選択」「フォーサイト」のほうが、しっくりきます。
三枝克之「恋ノウタ」2003年7月28日
三枝克之「恋ノウタ」(角川文庫)を読んでいます。
「万葉集」の中から恋愛の歌を選んで、現代語訳したもの。例えば、
「真薦(まこも)刈る 大野川原の 水隠(みごも)りに
恋ひ来し妹が 紐解くわれは」
という歌は、
「胸の奥でずっと 愛し続けてきた君の
背中のホックをいま 僕は外そうとしている」
といったぐあい。試みとしては非常に面白いですが、現代語訳に、三代目魚武濱田成夫なみのセンスが欲しいところです。妙にリアルで印象的な写真に頼ってしまったのも×。
片山恭一「世界の中心で、愛を叫ぶ」2003年5月4日
Happy Birthday to my dear sisters KAORI & HIKARI !
Are you one ? Are you two ? Are you ...???
少し前の小説、片山恭一「世界の中心で、愛をさけぶ」小学館を読みました。
「泣きながら一気に読みました。私もこんな恋愛をしてみたいなって思いました。」(柴咲コウ)
の帯につられて、ついつい買ったのですが・・・。
決して悪くはありません。文章も構成も確かで、主人公2人の言葉は深遠で哲学的で、もう一度じっくりと意味を噛みしめながら読みたいと思います。でも、泣けませんでした。これを読んで泣ける人は、主人公が白血病で死ぬ小説も、マンガも、ドラマも、生まれてから今まで一度も見たことのない人だけです。
(翌日、2回目を読みました。昨日よりはかなり感情移入できました。真面目な登場人物に好感が持てます。「人を好きになること」の意味を考えさせられます。今度持って帰って、長女Iにも読ませてやろうっと。)
貫井徳郎「慟哭」2003年3月9日
最近どこの書店でも平積みされている、貫井徳郎「慟哭」を読みました。暗く重たいストーリーを我慢しながら読み進みましたが、とうとう最後まで気は晴れませんでした。確かに最後の部分では「あ!」と驚かされましたが、それとて、なんだか作者に騙されていたみたいで、どっしりと疲れる驚きでした。
井上尚登「キャピタルダンス」2002年11月11日
井上尚登の「キャピタルダンス」読み始めました。「T.R.Y」「C.H.E」同様革命がテーマですが、辛亥革命前夜や、南米の反政府ゲリラといった、非日常的な革命ではなく、つい数年前のネットバブル時代のベンチャー革命がモチーフ。かなり生臭いストーリー展開ですが、読み進む先が楽しみです。
文中、あるベンチャー起業家の
「アメリカの現在は日本の未来だ。だからアメリカのネットビジネスをそのまま日本に持ってくるってのが大正解なんですよ。タイムマシンです。タイムマシン経営をしていれば、成功は間違いない。」
という発言に対し、主人公が
「タイムマシン経営なんて、いつの時代にもあったものだ。外国で成功したビジネスを導入する。ありふれた手だ。そして成功率はかなり高い。だが、今回はそれが危うい面を持っていることをこの秀才はわかっていない。」
と論評する段を読んで、思わずドッキリ。私自身が、今年6月頃の日記に
「〜将来私がNY支店長になったら、タイムマシン経営する〜」
なんて書いていたからです。
「ありふれた手」ですみません。でも実際ビジネスのヒントは山ほどあります。日本の土壌にあわせた調整は必要ですが、アメリカであろうが中国であろうが、「いいもの」「面白いもの」は貪欲に採り入れるべきだと思います。
思うに、竹中大臣もアメリカ製の「いいもの」を、ほとんど日本の土壌にあった調整をせずにストレートに導入しようとするから、必要以上に苦戦しているような気がします。それでも竹中氏の良い点は、密室で決めずに議論を表舞台に引き出していることです。論点や決定のプロセスが国民の目に明らかです。仮に竹中氏が守旧派に押し切られたにせよ、それは国民が自分の目で見、自分の頭で考え、(納得はしないかもしれませんが)了解した結果であり、従来よりはずっと民主的であります。
井上尚登「C.H.E」2002年11月1日
井上尚登の「C.H.E.」読みました。「T.R.Y」同様、映像を意識したストーリーがテンポよく進み、一気に読み終えました。「T.R.Y」が辛亥革命前夜のアジアが舞台であったのに対し、「C.H.E.」の舞台はリベルタという架空のラテンアメリカの国。そしてテーマはやはり革命。ラテンアメリカの「貧しさ」「行き場のない憤り」「人々の明るさとエーカゲンさ」がだんだんと絡まりあっていき、最後はちょっと悲しい結末。この作家なかなかです。
井上尚登「T.R.Y」2002年10月27日
今秋、織田裕二主演で映画化される作品。予告編見ただけでは、「インディ・ジョーンズ二作目『 Temple of Doom 』を安易に模した角川映画」という印象でしたが、この原作が予想以上に面白い!面白い!最後の武器取引場面なんて、何重にもどんでん返しが待っていて、まるで、クロードのミルクレープを一枚一枚剥がしていくような興奮(?)を感じました。
映像を想起させる高い文章力なのか?それとも、最初から映画化を意識していたのでしょうか?久しぶりに、面白く痛快な小説でした。考えてみますと、最近は例えば「ゴクセン」「リモート」など人気漫画がドラマ化されたり、浜崎あゆみ「 Voyage 」が映画「月に沈む」になったり、媒体間の垣根が低くなっているような気がします。「小説」「漫画」「音楽」「TV」「映画」「演劇」・・・。
「冷静と情熱のあいだ」2001年10月11日
辻仁成版に続き、江国香織版の「冷静と情熱のあいだ」も読み終わりました。順正・あおいそれぞれの「過去」への接し方、十分幸せなのだけど決して満たされない「現在」との訣別、来るはずのなかった「未来」の出現に対するとまどいと勇気・・・。1冊ずつでも佳作なのですが、2冊両方を読んで初めて感じられる不安感や高まりがあって、最後の数ページは本当にドキドキしながら読みました。
恋愛小説なんてめったに読まないのですが、この2冊は良かったです。toby自身は絶対に順正になれませんし、あおいみたいなタイプの女性を愛することはできないのですが、感情移入は容易でした。そうか、あおいはこんなこと考えてたんだ。早く映画が観たいです。
浅田次郎「聖夜の肖像」2001年10月4日
浅田次郎「鉄道員(ぽっぽや)」は大好きな話で、他にもしみじみと「いいなぁ」と思える佳作が多いのですが、先日読んだ「聖夜の肖像」は浅田次郎っぽくない設定がよかったです。辛い過去を引きずった善い人の話であることには違いないのですが、妙におしゃれでユーミンの歌が似合いそうな雰囲気でした。最後にほろりときたことは言うまでもありません。