グループが帰って、客は僕一人になった。
みかはグループを階下まで送り帰した後、グループが去ったテーブルの後片付けのため、ボックス席とカウンターを行き来している。
『さあ、これからtakasanとらぶらぶしょうね。』みかがママの目を盗んでカウンターに座る僕の右肩に手を置いた。彼女の腰骨が僕の左の脇腹を押していた。
どうも彼女にはかなわない。彼女に触れられると体中の力が抜けていくような感覚におそわれる。嫌いっていう訳ではないけれど(いや、その逆かもしれない)、自分本来のペースがまったく狂わされてしまうのだ。
『もう一本いただいてもよろしいかしら』ママはビールの小瓶をカウンターにおいてから、カウンターから出て僕の隣の席に腰をかけた。
(参ったな。一人取り残されてしまった。)そういえば、今日店に入ってきたとき、ママが『ようこそ。老人ホームAへ。』と言っていたのを思い出した。他に20才の短大生が二人いるが、今日は非番でママと33才のみかしかいない。こうなると次の客が来るまで、お二人の相手をしなければならない。このまま誰も来ずに最終までいるはめになるかもしれない。
ママが初めて買った携帯電話の操作を教えてあげたりしながら時間を過ごした。そのうち、みかが常連の誰かに誘いの電話をかけた。
やがて割烹着に紙製の帽子をかぶった、いかにも板前のおやじといった風情の男がやってきた。この店で何度か会ったことのある男だ。みかはいつも『おとうさん』と呼んでいる。
(助かった。)適当にカラオケの本をめくって、"緑の陽だまり(ロッキーチャックのテーマ)"をリクエストした。(これで帰れる。)
ようやく、僕は店を出てきた。
ところであのおやじ、みかの何なの?ひとまわり以上、年上のおやじに嫉妬していた。
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