あーっ。久しぶりに運動すると気持ちいいなぁ。こころもちお腹が引っ込んだ感じがする。
『今日は金曜だけど、Mに行くか』少し固くなったお腹を触りながら、考えた。金曜日はどこにも行かず、まっすぐに家に帰る事にしている。家で家内とワインを楽しむのだ。(女房よゴメン)
そう決めて、ラウンジMのナンバーをプッシュした。まだ8時半だから、それほどお客は入っていないはずである。
何度かの呼び出し音の後、電話はつながった。『ありがとうございます。Mです。』電話に出たのは、チーママのゆきさんだった。
『ジェシーさんいますぅ?』名前も名乗らずに、こちらの要求だけを告げた。『はーい!takasan。』ジェシーは、僕が声を出す前に僕の名前を呼んだ。
『今日はお店忙しい?』『暇。今3人だけ。』
『行ってもいい?』『うん。来て来て。今どこ?』『梅田の駅前。』
『じゃ10分ぐらいだね。でもいいの?今日金曜日だよ。』
『うん。昨日行けなかったしね。じゃあ行くね。』『待ってまーす。』
9時前にMについた。いつもの席に僕のボトルとグラスが伏せて置かれてあった。僕は迷わずにいつもの席についた。
ゆきさんがアイスと水の入ったピッチャーを運んできた。『いらっしゃいませ』そう言いながら、満面の笑みをたたえた顔をコクリと左に傾けた。彼女はこの店一番の美人である。彼女を目当てにやってくるお客は多い。彼女が黙って伝票に文字を書き込んでいる横顔を盗み見したとき、はっ!!とするくらいの美貌の持ち主である。
でも、盗み見しているのに気が付いて、こちらを振り返ったとき、満面の笑みのゆきさんがそこにいる。いつもそこにアンバランスさを感じていた。まるで自分の美しさ(冷たさ)に必死に抵抗しているような姿がそこにあった。
彼女がこの店のチーママになってから意外に日は浅い。まだ半年経つかどうかだろうか。でも結構良くやっている。当初、彼女にチーママは無理だとママに言ったことがあった。彼女の優しさと美しさが邪魔をすると思って言ったのだが、客とも女の子とも彼女なりのやり方で、予想以上にうまくやっているのである。
やがて、広げた手のひらをこちらに向けてジェシーがやってきた。その手のひらに僕の手のひらを軽く打って挨拶をした。『いただきます』そう言いながら、僕の隣の席に腰掛けた。
今日の服は結構、露出度高いなぁ。胸の谷間が強調されてるやん。彼女に成り代わって、僕が恥ずかしがった。
あっそうか。毎週金曜日は特別の日だったね。そう言えば周りの女の子を見るといつもと違う。ゆきさんはノースリーブのワンピースだし、ママは体の線が強調されるような服(いつもやんかって誰が言ってんのん?! しーっ!!)着てるし、一番おぼこいのんちゃんだって、それなりの努力が見受けられるし。
ジェシーとはたわいもないことを話した。胸に光るネックレスは誰に買ってもらったの?とか、ボウリングでかいた汗を吸って、ジェシーからもらったハンカチがジェシーの香水と混ざり合ってくさいとか。
あっそうだ。ジェシーに今日の賞品のミニ掃除機をあげよう。もらってくれる。『うん。欲しい』『もう一つボウリング場からもらったバッグもあるけど、要る?』そう言いながらバッグの端を袋から引っ張り出して見せると、『それ要らんわ』とあっさり。
それを見ていたジェシーの友達のレニーさんがやってきて、『それ何?』
ひとことふたこと二人がタガログ語で会話を交わした後、『takasan、私も欲しい。』『こんなんでもええ?』『欲しい。欲しい。嬉しいわ。私この色好き。』と言いながら、僕が渡したバッグの黄色とレニーさんが着ているジャケットの黄色とを合わせて見せた。
ジェシーと会話をしながら、ふと隣のテーブルを見ると、チーママのゆきさんがこちらに背を向けて二人連れのお客さんの相手をしている。ワンピースの袖から出た細い腕の白さが眩しい。
二人の内の大柄の男がしきりに、ゆきさんの腕や胸に手を伸ばそうとしている。顔を見るとかなり飲んでいるらしく、赤い。
ジェシーが僕の耳元で『あの人、すごいスケベ。』僕は慌てて、立てた人差し指を口に当てて、怒った表情をして見せた。『あの人の手のひら、すごいおっきいの。私も胸をつかまれたことあるの。』
迷惑そうなゆきさんの表情を見ながら、助けようかとも思ったが、やめた。こんなお客さんのあしらい方を女の子に見せるのもチーママである彼女の仕事。
『ジェシー。今度そんな事されてるの、僕が見たら助けてあげるからね。』
『うん。お願いね。』
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