朝、出勤途中にケータイに留守電が入っていることに気づき、それを聞いて驚いた。留守電の声の主はジェシーのダンナだと名乗っていた。
声は明らかに怒りがこもり、興奮気味だった。以前に電話で話したときの丁寧な口調とはまるで違って、乱暴な言葉が続いた。
彼は、以前警告したにも関わらず、自分の嫁さんと関係を続けていることを怒っていた。明日Mに行くから店で待っていろと命令していた。全てのことはジェシーから聞いたとも言っていた。捨てぜりふにフィリピン人をなめるなとも言った。
僕は彼には申し訳けないことをしたという気持ちで、ここ数日すごしてきたが、留守電の彼の声を聞いて血の気が引くような感覚になった。
言い知れぬ恐怖に今にも崩れてしまいそうな僕は、彼の怒りに対抗するだけの、自分を支持するネタを探した。すぐにいくつかを拾い集めた。
まずは、もう彼女とは別れていること。彼女が独身であることを微塵も疑っていなかったこと。僕以上に彼女が僕のことを慕っていたこと。
少しずつ気持ちが落ち着いてきた。冷静になって、さっき無意識に削除してしまった留守電を残しておいた方がよかったんではないかという考えが浮んだ。
そこまで考えて、今いくつかあげたネタは、自分を落ち着かせるのには成功しても、実際の対決の場面では役に立たないのではないかという不安がよぎった。第一、これらのネタを言うと彼女らは夫婦別れをするかもしれない。そう考えたら、自分にこれらの事実を口にするだけの冷酷な勇気があるのだろうか?
・・・・。
(やはり言えない)僕には謝ることと彼女とは別れた事を言うことぐらいしかできないような気がしてきた。
いずれにしても、いい解決を探るためには正しい情報が欲しい。少ない情報だけを繰っていても、悲観的な解決策しか見つからない。僕の頭は必死に回転していた。
(でも、待てよ。おかしいな。何故このような電話を今かけてきたんだろう。相手の男はもう別れているのに。)僕は不思議に思った。
確かに事実を知ったら、怒るのはわかるが既に別れたという事も聞いたら、いくらかの安堵感があるはずである。そんな安堵感を越えた怒りの爆発が彼の声にはあった。
他に自分の知らない事実があるのではないかという考えが頭に浮んできて、言い様のない不安を覚えた。 |