ここ数日間、僕はジェシーが自殺するんではないかと心配でならなかった。最後に逢ったときに彼女がした、8階にある自宅マンションのベランダから飛び降りたい衝動に駆られることがあるという彼女の話を何度も思い出して、自分の胸を締めつけられるような気持ちになった。
昼休みにマスターから電話がかかってきた。土曜日にもかかっていたが出ることができなくて、すごく気にかかっていたが、自分からかけ直す勇気を出すことができなかった。彼女が死んだという報せじゃないかと思っていたのである。
金曜日にもレニーさんから電話がかかっていたが、これにも出る事ができなかった。いつもなら伝言メモにメッセージを入れる彼女がそれをしなかったことが、僕の不安を一層かき立てた。
『あ、takasan? ジェシーのダンナと電話で話すことができたよ。』マスターの電話の声は予想に反して明るく軽やかであった。僕は第一声を聞いただけで最悪の報せではないことを悟った。
『もう彼がtakasanに電話をかけてきたり、会いに行くことはないと思うわ』
『彼が言うには、いろいろあったけど、彼女が謝るのを聞いてもう一度穏やかな人生に戻りたいって言うてたわ』
『内心、彼女がうそをついていることを悟ったんやろうと思う。彼女よりもレニーが言うことの方が本当やと思ったから、これ以上追及することをやめて、takasanとも決着をつけることもやめたんやと思うわ』マスターの推測には驚くほど説得力があった。
『彼はなかなかええ男やわ。もちろんtakasanも被害者やけど、一番の被害者は彼や。』
『そしたら、彼女ら夫婦は別れることはないんですか?』
『それはないと思うわ』
マスターの話を聞いていて僕の心いっぱいに安堵感が急速に拡がっていくのを感じた。
『彼もジェシーもtakasanに電話をかけることはないと思うけど、もしかかってきたら僕に言うて』僕はみんなに支えられ、守られていることを心から感謝した。
『takasan、もう一つtakasanの気持ちを楽にさせることを言ってあげよか』
『うちのお客さんでtakasanと同じようにジェシーのダンナから電話がかかってきていた人がいるねん』僕はそのお客さんというのが誰のことかわかっていた。
『先週金曜日そのお客さんにママが電話をして店に来てもらって話を聞いたそうやわ。そしたら、彼もジェシーと一度だけそういう関係になったそうや。でも酒の上での戯れや言うてたそうや。』
『彼女はしょうない子やわ。ダンナが穏やかな人生に戻りたい言うて夜の仕事を辞めさせたにも関わらず、前、うちの店にいたゆうこやたかよに電話をかけて店を紹介してくれ言うて廻ってるそうやわ』
マスターは僕を安心させるために言ってくれている気持ちは涙が出そうになるくらい嬉しかった。だが、彼女がそんな人間だったとはにわかに信じられず、僕の中に新たな混乱が芽生えていた。 |