設計は矛盾の調和である。
自動車やカメラに限らず設計は矛盾の調和である。軍用機の設計を例にとって
説明しよう。
軍用機には、戦闘機、攻撃機、輸送機などの種類がある。これは、現実が矛盾
だらけの世界だからである。
戦闘機は贅肉を削ぎ落とした設計となっている。戦闘機は戦闘空間に短時間で
到達し、撃墜など敵の戦闘任務遂行を妨害するために作られる機体だからであ
る。つまり、スピード重視、燃費は最悪、最小限の兵装などがその設計思想とな
る。さらに空力特性を良くするため、鉛筆のような細長いデザインとなる。そのた
め戦闘機のコクピットは極めて狭く、身動きさえままならない。ましてやトイレなど
あろうはずもない。戦闘機パイロットにとって、大人用のおむつは必需品である。
一方、攻撃機は戦車や船舶などの比較的動きの小さな(飛行機に比べて)目標
であり、橋や発電所などの固定目標である。もちろん戦闘空間内に長くとどまるこ
とは、撃墜される可能性が増大するので、高速で駆け抜けることが望ましい。とは
言え、戦闘機ほどの速度は求められない。むしろ、目標を何度でも攻撃可能とす
る最大級の兵器の搭載量を必要とする。任務遂行のため、戦闘域外に長時間滞
空できることが望ましい。
つまり、燃費はそこそこ。必要なときはそれなりのスピードが出せることが条件と
なる。
輸送機。これはもう燃費のみと言っていい。もちろん高速にこしたことはない。し
かし、輸送している燃料をがぶ飲みするようでは輸送機ではない。安く長距離飛
べることが前提である。もちろん重荷にしかならない兵装はゼロである。
まとめると、
1.スピードと燃費は矛盾する。高速にすれば燃費は悪くなる。
2.スピードと兵装は矛盾する。兵装を多くすると機体が重くなりスピードが低
下する。
3.兵装と燃費は矛盾する。兵装を多くすると機体が重くなり燃費が低下する。
つまり、戦闘機、攻撃機、あるいは輸送機にも使える万能の飛行機を作ろうとす
ると、戦闘機にしては低速で、攻撃機としては兵器の搭載量が少なすぎで、輸送
機としては燃費の悪すぎる、いずれにも使えない駄作機ができてしまうことになる。
設計はむしろ、性格付けをハッキリさせたほうがいいのだ。
なお戦闘機は、現在ではスピードより電子戦を重要視している。最高速度はマッ
ハ2.5から3程度で頭打ちになっている。これは「音の壁」ならぬ「熱の壁」が原因
である。あるは単に「コストの壁」と呼ぶべきか。
戦闘機がこの速度に到達すると、空気との摩擦熱でアルミニュウム合金であるジ
ュラルミンが溶け始める。チタニュウムなら大丈夫だが、高価過ぎて量産機に向い
ていない。鉄なら安価だが、機体が重くなり、重くなった機体を高速で飛ばすために、
大きなエンジンが必要となり、大きなエンジンは機体をさらに重くするという悪循環
に陥る。その結果、実用化の難しい、とてつもなく航続距離の短い戦闘機とならざ
るを得なくなる。
以上、えむ氏からの受け売りである。
これらの矛盾を解決、あるいは縮小するのが、新素材開発などの技術革新であ
る。しかし、それは設計の仕事ではない。と、いちど切り離した方が物事の本質を
理解できる。
もちろん、現実には設計側からの要請による技術の進歩もあり得る。だが、それ
は設計の本質ではない。
設計はメリットとデメリットとのバランスをギリギリの線で保ちながら、効用を最大
限に発揮できるようにすること。これができるかどうかが、設計のよしあしの分かれ
目となる。
製作協力 こぶたスタッフ
最終更新日2001年7月5日