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12.土蔵のデザイン・ ・
・・・@ 立面寸法・・・
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1FL
2FL
敷桁上
端母屋上端
GL〜端母屋
1FL
GL〜棟木
平面寸法 柱芯々
- GL+470
1FL+2210
2FL+1795
敷桁上+365
4840
GL+470
5726
5910×3940 面積23.29u・/ / ・・・・・A 勾 配・・・・・
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屋根勾配・45/100
庇勾配・35/100・ ・ ・・・・・B 部材寸法・・・・・
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柱・140×140
敷桁・150×140
端母屋・120×120
ノボセ梁・230×115
(2重小屋構造の屋根部)
棟木・125×125・
2階梁・205×135
垂木・55×55@268
1〜2階敷板・厚30
階段側板・166×40
段板・210×21・
西立面図(破風板を除いている) ・
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???・番号名称・・・・・
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@
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
Nハキリ破風
棟木
母屋
端母屋
屋根・ノボセ梁
鉢巻3段
妻壁
水切瓦
庇腕木
腕木
柱
出入口石段
礎石
土佐漆喰壁
換気口・・ ・・
△・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・△
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・
△・・・・・・・・・・・・・・・水切瓦各部名称・・・・・・・・・・・・・・・△・ ・・
・・・・・・C 水切瓦・・・・・ ・ ・
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a・水切瓦・ ・ - 写真aはフクリンとドウである。写真bによっても分かるように、ドウに特徴がある。一般的にドウは上部がやや平らであるが、記録の土蔵の場合円に近い。地域にはこうした盛り上がりの高いドウが多い。当時地域での作風であったのかも知れない。
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b・瓦の継ぎ目・ ・ - ・
写真aとbはドウが途中から破損しているため瓦継ぎ目の隙間が見える。これは、全長に瓦幅を割り込んで隙間ができたのか、計画的なものかは分からないが、寸法は15o程度である。ドウが剥離している個所の多くは瓦どうしの隙間が少ない。つまり15o程度の目地によって上下の砂漆喰が連結された場合、強度は高まり剥離或いは落下を防ぐ効果は高まる。- ・
左官職人によって意識的に密着を避け、上下の連結を重視する左官と、全体の割を軸に施工する左官がいる。こうした施工は仕上がってしまえば分からない部分だが耐久性に大きな影響をもたらす。
写真cの先端部を『め』という。『め』幅は75o高さ63o。形としては横に広く、少し上よりも下が広い。どっしりした感じの『め』といえる。・ ・
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c・水切瓦の『め』・
d・水切瓦のセキヒ・ - ・
写真dは水切の端部に当たる『せきひ』である。この『せきひ』は半目といって施工としては簡単な仕上げである。フクリンを受け止め、上端はドウの勾配に近く、下端は直線的に処理している。瓦下部2段の台寸法は下段の出30o立上55o、上段の出30o、立上60oである。全体的にバランスのとれた水切瓦である。・・
・・ ・・・・・D 鉢巻と破風板・・・・・ - ・
鉢巻は土佐漆喰、破風板は桧の板。これはひとつの型として定着している。一部を除いて、県下では鉢巻直線げ破風板は起こり(曲線)をとる。・
・・a 鉢 巻
- 八巻の幅は260o。 下は2段で共に幅75oである。写真のように端を立水(鉛直)に、その下部を陸(ろく:水平)に施工する。土蔵の鉢巻におけるひとつの型である。
・ ・・ ・ ・ ・
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土佐漆喰の鉢巻とその周辺
番号名称 @ハキリ破風 A登小舞3段 B破風板 C端母屋 D2重ノボセ梁 E3段鉢巻 F妻壁 G水切瓦
・・・ ・ - ・外壁と水切の上部に見切りのように鉢巻を備える。1段から3段までが標準的であるが、佐川の町並みには5段というデザインがある。重量感をひきだす役割として重要である。
・・ b 破風板 - ・
破風板は板の厚み24oである。どちらかといえば薄いが当時一般的な寸法である。全体の長さは3030o(3m3p)程度。上端にわずかな起こりをとっている。実測をすることはできなかったが20o前後であろうか。幅は拝(おがみ)部が約280o、腰部(下より3分の1上部)は200o。破風尻は220oである。・ ・ ・・ ・
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土蔵切妻の各部名称
番号名称 @ハキリ破風 A登小舞3段 B破風板 C破風の眉3段 D2重ノボセ梁 E鉢巻
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写真でははっきりしていないが、眉を2本しゃくり込んでいる。上部で下段40o上段60oで腰、破風尻それぞれの破風幅に比例して眉幅を絞り込んでいる。住宅の破風板と比較すると起こりが少ない。
土佐漆喰の鉢巻を直線に仕上げているため、バランス的に破風板にこれ以上の起こりを持たすのは無理である。
これもまた、土蔵独特のひとつの型といえる。破風板の上端には木製の登小舞が2段漆喰が1段積み上げられている。破風上から順に寸法は、小舞・出30o高さ24o、小舞・出10o高さ24o、漆喰・出0o(下の小舞に同じ)高さ21oとなっている。・
・・ ・・・・・E 鬼 瓦・・・・・
写真右は鬼瓦の一部として中央に取り付けられていた鬼である。西側が落下したということである。鬼瓦の表情は普段あまり接近して見るものではないが、こうしてアップにすると細かい表情が伝わってくる。
怒っているようでもあり笑っているようでもある。両極の表情が伝わってくるということは、作者は喜怒哀楽を込めたものかも知れない。いずれにしても、見る者の位置関係や心理状態で変化をもたらす。分かりやすさ親しみやすさが特徴である。・ ・ ・ ・
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鬼瓦(鬼瓦2個代3円50銭)・ ・
・・・・・F 階 段・・・・・
- 写真aとbで段板の工作法が分かる。側板(側桁)の左外に一部を突出させ更に段板を受ける欠込をしている。中央部分ではホソ差しとし手のこんだ仕事をしている。
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・
a・階段
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b・階段・ ・ 側板幅160o厚さ40o。段板幅210o、厚さ21oである。側板40oに対して段板の厚み(現代は30o)は不足であるが、これもまた当時の規格的寸法であった。他の土蔵も殆ど21o(7分)程度の仕上げである。(当時の板はその使用
場所に応じて耐久性のある樹種・材質を選んで使用されている)
・蹴込板は階段の勾配に板が打ち付けられている。そのため段板の裏側(側面)は側板の勾配にあわせて削り取られている。
写真cは階段2階部分である。最上部が床で30oの板が置かれ、そのすぐ下にもう一枚の板がある。これは水平に移動(引出)できるようになっており、階段にフタ(通行遮断)ができる。・ ・ ・ ・
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c・階段上部の引出板- ・
どのような目的で使用されていたのか分からないが、2階に比較的貴重品を置き鍵をかけていたのかも知れない。このように内部の大工職人の施工にも細かい工夫がされている。写真は筆者が解説用に少し引き出しているが、通路として危険であるため通常は敷板の面揃いに押し込んでいる。
・・ ・ ・・・・・G 出入口・・・・・
・- 出入口は土佐漆喰壁・木枠・戸2枚合せて480o。外部から厚みは土佐漆喰280o、木の枠が90o、板引き戸75o、下部板上部格子状の引き戸35oとなっている。
・・ ・・ ・
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a・出入口鴨居部・ ・ - 一般的に2枚目の引き戸は腰上に換気のための工夫がされている。写真bは板引戸である。目通りのよい良質の桧板を太鼓鋲で打ち付けている。写真cは腰までは板、上部は板を目透かしで打ち付けている。建具の厚みも写真bの半分位で開け閉てに軽く動く。素材は柾目で強くて美しい、こちらも桧を使用している。
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b・板引戸
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c・換気の引戸
・- ふたつの建具は、後々変形をしてはならないので上質の素材を使用する。上質の素材選定においてはもうひとつ、土佐漆喰と同時に外部から見付けの化粧であることも大きな理由である。
・ ・ ・・・・・H 樫(かし)の栓木(せんぎ)・・・・ - ・
写真dは出入口建具の枠である。縦枠(方立)と鴨居の取り付け施工に樫の栓木を使用している。現今は釘やボルトを使用するが、当時は金物を使用する事が職人の恥と考える傾向があり、樹種の違いを利用して木の力で制御した。(金物の種類が少なく、手作りのため高価であった事も使用されない理由であった。)・ ・
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鴨居部・栓木・ - ・・
このとき、桧の材質と樫の木の材質の違いを利用して栓木の穴や打ち込み程度を決める。栓木には高さに僅かな勾配がついている。
打ち込みをするほどに鴨居は縦の枠に引きつけられる工作である。栓の左に欠き込みを行っているのは栓を抜き取るための工夫である。数年後、乾燥等により仕口部(角度を持った工作部)に隙間ができたら更に玄能によって栓を追い込む。- ただ追い込むだけで簡単に工作部は密着する。大工職人が来なくとも施主(素人)ができる作業である。そうした配慮が栓木を鴨居の幅よりも突出させている。職人棟梁の細かい配慮がこの施工からも伝わってくる。
・ ・・ ・・・・・I 敷板・壁板・・・・・ - ・
下の写真は板である。幅約600o厚み30o、長さ950o。写真を板と解説しなければ誰も気がつかない。
実におもしろい模様(木目)であり、癖の強い木であり、粘り強さをもった木である。並みの腕前で鉋掛けできる板ではない。この板と向かい合った棟梁・石山隆馬氏はどのような思いで鉋をかけたのであろうか。
・- おそらく何度も何度も刃を砥いでは削り板の光を見定め、手の平を当てて滑りを確認して仕上げたはずである。苦労だったのは『さかもげ』(年輪の流れに逆方向)を押さえ、滑らかな仕上げにする鉋台の調整と刃先の鋭さであったと思える・・・。
・ ・
・・・
・
板材(癖の強い素材)・ ・ - 板1枚の削りに要した時間は半日或いは1日であったのでは・・・。それほどに技を必要とする素材である。また雨の日を選んで削ったのではないか・・・
- 湿度が、乾燥した木目と鉋の仲を調整してくれる。空気の湿りぐわいまで味方にしなくては難しい板である。
- 材の捻れとり、幅と厚みの寸法加工、表面仕上げ。荒削りから仕上げまで少なくとも3〜4丁の鉋を使用している。こんなところからも大工職人に対する祝儀の額がうなずける。(祝儀・大工8円50銭 左官2円)
電動工具のなかった時代、これだけの癖を持つ板に数十年の後まで光を失うことなく表面仕上げを行った事に感心する。また、幅が600o程度(2尺)といえば削りに当たり板と平行に密着する鉋が体から外に離れる。その距離に比例して鉋を引く力は増大する。いうまでもなく体は捻れ重労働である。- ・
- 木目に対応するための細かい刃先の仕上げ、台すれという板の光に障害となる微妙な調整、そして体力。今尚失われることなく美しい板の光沢。この板からも極上の職人技を読みとることができる。
*(この仕事を棟梁自ら行ったか定かではない。いずれにしても当時の職人の技である。)
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