その12 水曜日はテレビの日(2004.10.28)
 3年前に住み始めたころは、英語の理解力不足に加えて、もともと日本にいたころ、そんなにテレビを見ていなかったので(フルタイムで働いていたので、テレビの前に座るという余裕がなかった)、こちらのテレビをつけることはほとんどありませんでした。ただ、移住1週間後にいきなりアメリカの9.11が起きた時に、オフィスにいる夫から「アメリカでえらいことが起きているようだ、とにかくテレビを見て」と電話があり、「なんのことやら」と思いながらテレビをつけたことはよく覚えています。evacuation(避難)という単語はこのとき覚えました。
 あれから3年。最近はずいぶんとテレビを楽しむ時間が増えてきました。4局しかないので(日本のNHKも見られる有料衛星放送には、我が家は入っていない)、日本より選択の余地ははるかに少ないということになりますが、若者向けのドラマやバラエティが主体の日本に比べると、良質の地味な番組がゴールデンタイムに放映されることも多く、いくつかお気に入りの番組を見つけています。
 その中でも水曜日の夜は、なぜか私好みの番組が集中している曜日です。まず7時半からは「Fair Go」。これは視聴者からクレームが寄せられた企業や団体(かちんこちんに凍ったねずみが出てきた冷凍食品とか、予定の日に荷物が届かない引越し会社とか)を徹底的に糾弾する、という番組です。
 先日は特別版「The Fair Go Awards」と銘打って、1年間のテレビコマーシャルの中から視聴者の投票に基づいて、ベストとワーストのコマーシャルを表彰していました。ワースト1には、みごと保険会社が輝いていましたが(災いを象徴するキャラクターが、本当にまがまがしいデザインで、不快になってくるからだと思う)、ちゃんとインタビューに出むいて(押しかけて)、担当者から「注目を集めたということで光栄です」というコメントをもらっていました。
 この特別版では、学校の子供たちが制作したコマーシャルのコンテストも行われ、テーマは小・中学部門が「What it means to be a New Zealander」でした。日本の小学生が、日本人であるという意味を考える機会はそうないと思いますが、なにしろここは移民の国です。様々な国旗を1つの鍋に入れたら、新しい国旗(現在のデザインではなく、黒を基調にしたオリジナルのもの)が出来た、というストーリーの作品が選ばれていました。また高校部門は、Partyで乱用されているドラッグの危険性を主題にした「Party Safety」がテーマでした。日本ではまだ深刻な状況にはなっていないようですが、ドラッグの使用は若者に関する深刻な問題の一つなのです。

オークランドから南へ高速で40分ほどのところにあるHunuaの滝に9月末に行ってきました。ちょっとしたトレッキングが楽しめます。
 「Fair Go」の後、8時からは「Taste Takes Off」です。Charlotte Dawsonというシェフ経験のある中年女性(衣装が派手で、ちょっとエキセントリックな感じがする)が、世界中あちこちめぐっておいしい食べ物を紹介するという番組です。最初この番組を見た時、なぜだか分からないけれど、物足りなさを感じていましたが、しばらくして、その理由が判明。神妙にもぐもぐと食べて、「おいしいー」とか、「やわらか〜い」とか、「あまーい」とか叫ぶ、という日本の食べ物番組では欠かせない儀式がないからです。作る工程を紹介して、さあ、というところで次の画面に切り替わることがしばしば。食べるシーンもあるにはありますが、もぐもぐさせているアップなんてまずないし、絶叫せずにたんたんと味を説明します(たまに、「うーん、これは私には合わないわ」とか言うことも)。この発見(!?)を日本に住んだことのあるニュージーランド人に話したら、「確かに、日本の食べ物番組のもぐもぐ食べているシーンは退屈で、意味がないと思う」と言っていました。
 日本に比べると、ニュージーランドでは食べ物関係の番組は本当に少ないので、日本人って本当に食べることが好きなんだなあと実感しています(こちらでは代わりに、ガーデニングと家関係の番組が多い)。

こちらは10月に出かけた、カツオドリの繁殖で有名なMuriwai Beach。ぎっしりと見えるのは全部、鳥です!
 さて8時半からは、イギリスのBBC制作のドキュメンタリー「Expose」です。毎回様々なテーマ、切り口で、世界の情勢を伝えてくれる素晴らしい番組で、これだけはビデオに録画しても見るようにしています。先週はロシアの学校が3日間占拠された事件を、生き残った人たちのインタビューを中心に、犯人側が撮影していた内部の様子、犯人側との交渉の実態などを紹介していました。生き残った幼い子供たち、先生、そして親が当時の様子を語っていましたが、中でも、7歳の息子を置きざりにしなければならなかった母親(下の子がまだ赤ちゃんだったため、先に解放された)のインタビューは、その一生背負っていくであろう悲しみの深さを思うと、胸がいっぱいになりました。恐怖と飢え、乾きに苦しんだ挙句に孤独に死んでいった7歳の男の子、そして、赤ちゃんだけをおいて自分は戻るという主張が受け入れられず、その息子を見捨てざるをえなかったお母さん。きっと今でも世界のあちこちで、こういう悲劇が起きているのでしょう。
 この事件では加害者であった、チェチェンもしかりです。金曜日の10時15分からの「Foreign Correspondent」も、同じように世界のトピックを紹介する番組ですが、少し前にロシア軍によって破壊されたチェチェンの様子が報じられていました。これまで報道陣がシャットアウトされていたためにほとんど状況が世界に伝わっていなかったものを、隠しカメラで撮影したものです。町並みはまさに廃墟となっており、ロシア軍がいかに蛮行を行ってきたかが、涙ながらのインタビューで紹介されていました。
 もしチェチェンに石油が出なかったら、貧しいながらもロシアからの独立はもっとスムーズに実現していたはずだ、と聞いたことがあります。どちらが悪いとか、正義だとか、何が正しいとか、どうしたらいいのかといったことは私にはまったく分かりません。でも確かなのは、平和であれば平凡ではあっても穏やかな生活を送ることができたはずの人々が、苦しみ、死んでいくことだけなのです。何もできないけれど、でも全然知らないでのほほんとしているより、世界で何が起こっているのか、知ろうと努力することが大事なのではないかと思っています。

 Exposeの後10時からは、「Face to Face with Kim Hill」です。Kim Hillという眉間に刻まれた深い深いしわが印象的な女性が、毎回様々なトピックの関係者をスタジオに招き、鋭い切り口で迫る、というものです。が、議論に慣れていない典型的日本人の私からすると、迫りすぎ。相手がまだしゃべっていても、その答えが時間稼ぎだったり、抽象的だったりすると、容赦なく次の質問をびしばしと押し付けていきます。よく相手が怒り出さないなあと感心するぐらい、高飛車なインタビュアーです(別のラジオ番組で、電話インタビュー中に相手が怒って電話を切ったという逸話もあり)。
 Kimに中断されないように、相手もものすごいスピードでしゃべるので、ついていけないこともしばしば。でも、欧米スタイルの議論ってこういうものなのね〜と、文化の違いを感じながら見ています。そういえば、アメリカの軍事担当のえらい人(名前も、インタビューのテーマも覚えていませんが)が出た時は、さすがに「Listen to me!」とびしっと決めて、Kimを黙らせていたのには感心しました。

春は子羊の季節。Muriwai Beachからの帰りに撮影。
 ドラマは1つだけ、火曜日9時半からのアメリカ制作の「Sex and the City」を見ています。知らない人が題名を見るとぎょっとするかもしれませんが、決していかがわしいものではありません(きわどいシーンはたしかにありますが)。ニューヨークを舞台にキャリアも美貌も兼ね備えた30代女性4人それぞれの生き方を描いたドラマで、いよいよあと数回で最終回ということで、まさに佳境を迎えています。
 私のささやかな楽しみの一つなのに、先週の予告では「次の2週間は休みます」とのこと。こちらの番組構成は日本では考えられないぐらい柔軟というかなんというか、連続ドラマを平気で中断させたり、番組が急きょ差し替えられたりします。なので、今回紹介した番組も、急に切り替わったり、突然シーズン終了になったりしているかもしれませんのであしからず。
 それに、時間も5分ずれるなんてことはざらにあります。私が推測するに、ただでさえおおらかなところに、CMが2分近い長いものや、ほんの数秒の短いものがあって、時間管理しきれていないのではないでしょうか(日本では規制によって、15秒と30秒のCMしかない)。日本だと、テレビと電車の時刻は正確なものですが、こちらではどちらもあてになりません。オークランドの電車は先日、「コンサルティング会社を導入して、数年後に正確に到着する率を70%(うろ覚えですが)に高めたい」と新聞に報道されていて、「ほお、100%は目指さないわけか」と妙に感心してしまいました。
 外国に住むというのは、こういう一つひとつの思い込みが、実は思い込みであったということを教えてくれることの連続です。テレビ番組が時間どおり放映されるなんて、日本では空気のように当たり前ですが、日本のテレビ番組の進行は、実は日本のすごい点の一つなのです。
 最後に、とっておきの番組をご紹介しましょう。それは、平日の夕方4時ぐらいから(さだかでない)毎日放送されている、アメリカの子供向けアニメ「SpongeBob SquarePants」です。日本のケーブルテレビなんかで放映されているのかもしれませんが、海底のパイナップルの家に住んでいるSpongeBobという黄色のスポンジ(理解不能なすごい設定だと思うが)と、猫みたいに振舞うペットのカタツムリや超のんびり屋の親友のヒトデ、勤務先のハンバーガー屋の守銭奴の社長のロブスター、同僚のペシミストのイカたちとの日常生活を描いたものです。子供向けなのですが、明らかに大人が楽しんで作っています。NHKの「ホッチポッチステーション」ののりに、ちょっと皮肉がひそませてある、という感じなのです(ホッチポッチステーションを知らない人にはますます理解不能だと思うが)。子供向け番組はホリデイごとにころころと切り替わるので、今回の放映がいつまで続くか不明ですが、人気の長寿番組なので、もし見かけたら、子供向けだからと馬鹿にせずに、ちょっと見てみてください。日本でもかなり有名な「The Simpsons」ほど毒気がきつくなく、でも大人だから笑える、というつぼに、私のようにはまるかもしれません。

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