『芽生え』


「嘘だあーッ……」
「あツはツはツは……
おめえたち、そんなことも知らんかったんか……」
「黒猫」一枚の稚い裸身のまま、みな、立ちすくみました。
到底、信じられないことを囁かれたのです。
Qさんは「タンク・たんく郎」みたいに勝ち誇って、宣言します。
蛇のような舌で、チョロチヨロと続けます。
脱衣場の外は老虎灘の外海です。入道雲の浮かぷ水平線まで、
目も<らむばかりの紺青です。爽やかな潮風です。

「なツ…だから、大人は……ほらツ、見ろ、見ろ……
  みんな、あんなに……なッ……馬みたいに……なっちゃって……
  その時……両方の粘液が……化学反応……化学反応だぞ……
  強烈なんだ……分泌液が……反応し合って……たちまち、
  粘膜が……あんなになっちゃって……色だって、なッ、見ろ……
  それに、初めてだと……n・け・ン・く・なッたりするんだ……
  徴兵検査でも……調べるんだぞ……なんとか、戻したって駄目だ……
  検査官は誤魔化せない……めんミツに、めんミツに、めくツて、検べるんだ……
  リトマス試験紙で、天罰観面、ピタリ……
  すぐ、ばれちゃうんだ……あッ、こン野郎、やりやがッたなアーッ
 列の外にでろオーッ、引き摺りだされて……みんなの前で張り倒されて、
 それから、最前線に送られて、それで、死了ツてことだ。
 あツはツはツはツ……」

Qさんは変なところで中国語を使いました。中国語が得意
だったのです。柔道も腕自慢でした。切り裂いたミシン目の帽子、
腰には手拭い……と、当時の蛮カラ・ファッションの最先端でした。
「待てッ」と声をかけて、通りがかりの中国人の少年をよく投げ飛ばしたものです。
そういう人なのです。
 
「よせえやあーイ……まだ……分かっとらんな……」

ずばり……だしました……決定的な切り札です。
一人残らず……声を失いました。
もう、反論の余地はありません。
写真なのです……ボクは……唇を噛みました。
そういう人がいるのです。
ああ、なんたる不名誉、なんたる恥さらし、なんたる不格好、
それに、なによりも……衛生的でない……
ボクは……決定的に、そう思ったのです。


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