
『白昼夢』
大連で借りていた住いは、どういう訳か、分不相応な広い屋敷でした。
部屋数は六つ程度ですが、欝蒼と庭木に覆われた敷地は、
テニス・コートが三枚は楽に入る広さでした。
八畳程のサンルームが付き、電話が二台あるという物件です。
その頃、一家にはささやかなゆとりがでてきたようです。
同時に、バラバラになりました。父は長期出張で不在勝ちでした。
母も妹を連れて出歩き、翌年には、盲腸で入院しました。
小学校最後の修学旅行には参加できませんでした。
奉天へは、新京の小学校からいったので意味ないということで不参加となり、
先生には三人ほどの同級生たちと自習して留守番するようにいわれました。
自習といっても、結局、放し飼い状態でした。
なにか問題ありの同級生たちでしたが、お互いに不参加の理由は聞きませんでした。
それでも、大連・旅順間三十キロの遠足には参加しました。
星が落ちた黒石礁、傷ついた倭寇の少年をかくまう姑娘の
恋物語りなど満洲副読本の舞台、夢多き緑の伝説地帯です。
「ああーッ
のっけてる、のっけてる……」
有名な景勝の地 …… 小平島の近くです。一人の腕自小憎が絶叫しました……
たった一人の生徒の……たった一本の指に……
全職員・全生徒が瞬時に反応……さッと従いました……
「自昼夢」の直後なのです。ホワイトハウス議場に、突如、
チンドン屋がチン入……教育勅語の澱んだ「古池」に、
原色・虹色の ……「蛙飛びこむ」……
そんな珍・大・騒動でした。
突如・中断・丸裸……手に手を取って……
脱衣鷲づかみの …… 男・女 ……
走る …… 走る …… 走る ……
赤銅色・弓形に跳ね・弓形に跳ね・弓形に跳ね・怒脹する肉塊……
全身紅さす姑娘・よろ・よろ・よろツ……
引っ張られ・弾む乳房・縁飾りの秘仏・火照る紅中……
悲鳴・悲鳴・また、悲鳴の中……皓い歯・上気する笑顔・ふいごの息……
肉塊・紅中が……乱流を逆流、消えました。
中国版ストリーキング …… 一瞬の衝撃、「古池」の波瀾が、
やっと、静寂に戻ったばかりなのです。
みなが、一斉に小手をかざしました。
先生も見ました……ボクも見ました……
ゆび指す彼方、遥かに遠く、灌木のまばらな山の起伏が続きます。
見つけました……陽光の中……くッきり見えます……
山の起伏の彼方 ・・・・・・ 渤海を望む断崖の上です ・・・・・・
余りにも……くッきりと……見えます……
みんな、「頭ァー右」で進みました。
見ました……ボクたちは……見ました……
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