『クレッシェンド』


昭和十四年……西暦1939年……大連市嶺前小学校在籍の六年生……
遠足参加の全児童が……見ました
アダムとイヴを……見ました……
現実に……見ました……

岩の斜面に横たわる……赤銅色の……アダムを……
乳色のイヴが……秘めやかに、愛撫する姿を……
見ました……

やがて……二人は……重なり合い……
四本の腕・腿を……八本に絡み合わせ……
胡弓のように激しく……
時には、緩やかに、そして、またまた、激しく……
ついには……
瑞ぎ・喘ぎ・天に昇り逝く・愛欲のクレッシェンド……
乱打・乱打・乱打……狂乱・交錯の八つの腕・腿……
絡み合い……捩じれ合い……悶え合い……
そして……その果てに……
聴きました……音を超えて……果て逝くイヴの……
愛のアリア……命の絶唱を……聴いたと思いました……
大自然の中の男女の営みが、これ程までに美しく感動的なことを、
ボクはそれまで、知りませんでした。

長い静止の後、二人は、静かにほどけていきます……
立ち上がり……寄り添い……共に渤海に面します……
ふたたび……燦燦たる光の中の……ギリシャの塑像です……
聖なるアダムとイヴです……

しかし、やがて……
互いに……求め合い……探し合い……探り当て……
深く……深く……深く……
交歓に……入っていきます……
ぴッたりと……綴じ合いました……
そして……
今度は、共に ・・・・・・ 逆光煙る水平線を望んで ・・・・・・ 
再び、愛の交わりを始めました……

ゆッくりと……ゆッくりと……ゆッくりと……
大自然と……生命の讃歌を……謡い上げていきます。
ゆッくり……ゆッくり……ゆッくり……
ゆッたり……ゆッたり……ゆッたり……

そして、ついに……
序破急の……到来です……歓喜のデュエットです……
これは、もう……命の絶唱です……

男の子たちがはしゃぎます。
女生徒にも、はしゃぐ子がでてきます。
「先生、みて……みてツ……
ついに、先生に双眼鏡を届ける子まででてきました。

昭和十四年……西歴1939年……関束州・小平島の原野の一角に、
突如、解放区が出現したのです……鉄の軍国支配のただ中……
大連市・嶺前小学校六年在籍の全児童は……
前進しました。ひたすら……前進しました。
偽善は暴露されました……支配は打ち砕かれました……
自由・平和・平等・反戦・女性解放・民族解放……
みな、その幼い手に……眼には見えない……紅の戦旗を掲げ……
それを知らず……それでも……なおかつ、なにかに……
なにかに……なにかに……なにかに……衝き動かされて
ひたすら……進みました……進みました……進みました……

「うん……先生には、なにも見えなかったぞ……
 だけど、どうも、ありがと……」

林に入ってから、先生はやっと双眼鏡を返します。
少年・少女たちが、どッと笑い声を上げます。
先生も、汗を拭き拭き笑います。教師全員が解放されます。
あの懐かしい「村」の時代……
老若全女性あげての組織的「夜這い」教育の原始へと……
みんなが解き放たれたのです。


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