『夕焼け』


おねえさんは、またまた、故郷に帰り三畳の部屋は、ふたたびポクの勉強部屋となりました。
その頃、一家はまた新京に転居していたのです。
ある秋の一日、ボクは、大きな人工湖の南湖に釣りにでかけました。
終日、湖面をわたる漣に眼を落とし、空を仰ぎ、溜め息をつき、
呆然と過ごしました……

タ方、人気のない郊外の大路を、ただ独り、釣り竿を担いで帰ります。
南湖、安民広場、大同大街-緑地帯……そして、順天公園……
池がきれいです……見ました……
夕陽に輝く国務院……金・銀・緑……水がキラメキます……
その頃、新京放送局は、よく「金と銀」という曲を流しました……
ボクの中でも、ついに、切ないものが盛り上がり、ヴィブラートを奏でました……
夕陽が、大陸の秋の最終楽章を奏でながら、落ちていきます。
黄金色が燃えます。色々な形の雲・雲・雲……
一つ一つが……歓喜に打ち震え、身を焼いています……
様々なものが……見えてきます……
異形の雲、形のない雲、光の漣、輝く波紋、ナイルの流れ、天駆ける鷹、
王権の象徴、ホルス神、金波.銀波の空間……
亜麻布の帆……天上を滑る船・船・船……
水夫たちの赤銅色の肌・肌・肌……櫨をやる腕・腕・腕……
踊り子・舞姫たちの輪舞、楽士たちの合奏、ハープ・リュート、シストルム……
一段と気高く、可愛い……少年王・トゥット・アンク.アメン……
豊満な……お妃・アンク・エスエン・アメン……
鏡の間の…あの至福の姿のまま、打ち震え、燃え上がっています……
ボクたちは、もう、一生逢えないのでしょうか?
ボクたちは、そもそも、なに者なのでしょうか?
どこからきて、どこへゆくのでしょうか?
ひときわ大きな雲です。死後、太陽と共に天空を航海する
「太陽の船」かも知れません……

そして、見たッと思いました。光芒を天駆ける自分の未来の姿を……
一瞬、見たッ……と思ったのです。

予感……初潮の予感……戦慄・戦慄・戦慄・また・戦傑
背骨を……戦慄が……突き抜けます……
 …… …… …… …… ……
そうです……男の子にだって、初潮はあるのです……
男の子だって、卵を孕んでいるのです……
その中から未来が生まれる……卵を育んでいるのです……


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