vol 11   寂しがり屋の彼....


わたしは栗毛の逃げウマが大好きだ。

ミホノブルボン...
エイシンサンサン...

けれど、誰より
忘れられないonly one は
天皇賞に散った
小さい暴れん坊の
サイレンススズカ...

騎手を振り落として
ゲートをくぐり抜けた
彼のヤンチャぶりは
有名だけれど
彼がめちゃくちゃ寂しがり屋で
かしこいウマだった事は
あまり知られていない。

あまりにも小柄で
少女の様な名前をもらった
愛らしい栗毛のウマは
回りの人間を
幸せに導いて
本当に誰からも愛されていた。

彼のお葬式には数え切れない程の
参列者が集まり
早すぎる彼の死を嘆いた。
膨大な金額をつまれて
作られた彼のお墓には
そういうものにありがちな
形だけの冷たさはなく
どれだけたくさんの人に
愛され大事にされていたウマだったかを
物語っている。

サンデーサイレンスの子どもらしく
抜群の速さと賢さを見せた彼
16戦9勝2着1回の
彼の戦歴の中で
彼にシリ鞭をうったのは
南井ただ一人だった。
彼は走り方を知っていた。
というより
速く走る事が大好きだったのだ。
スタミナも賢さもある彼は
どんな距離も
逃げてばかりでなく
先行で行くこともできた。

けれど、ぶっちぎりで
一番を気持ち良さそうに走る
彼のその姿に私達は酔いしれた。

彼は甘えん坊の寂しがり屋で
人と鼻と鼻をつけて
おしゃべりするくらい
人なつっこい性格だった。
移動の時一人で不安になるので
お供をつけて移動した事もあった。
牡馬でも牝馬でも誰でも
そばにいてさえしてくれればよかったらしい。

ゲートをくぐり抜けて逃げたのも
まだ2戦めだった彼は
いつも一緒にいた人の姿が見えなくなって
淋しくなって逃げ出したのだと
言われている。

思えばサイレンスだなんて
ちょっと淋しい響きの様にも思える
彼は文字通り音の無い世界に
逝ってしまった...

武をとても愛していたという
武と一緒に映っているススズカは
まるでとびきり素敵な笑顔をたたえている様だ
武が自分をつきっきりで世話をしてくれた人と
そっくりだったから...
とも言われているが、
きっと、愛してくれている人を
敏感に感じ取れるウマだったからだと思う。

今まで何頭のウマがそうだった様に
スズカも最後は武を守った
誰もが走りすぎだと危惧する大逃げが
4コーナーでピタッととまる。
武にはスズカの脚の砕ける音が聞こえたという
けれどスズカは倒れなかった
前のめりになりながらも
3本の脚で必死に体を支え....
武が後ろを気にしながら
大外へスズカの体をずらすまで
スズカは耐えた。
その場でスズカが倒れていたら
武も危ないとスズカはわかっていたのだ
愛する人を守りたかったのだ

騎手というのは
なんとも因果な職業で
ホクトベガを守れなかった横典を
私が憎んだ様に
その日の武も
たくさんの人に恨まれた....

けれど、そのスズカの姿に
どんなにスズカが武を愛していたかを知り
武もどんなに愛していたかを知る...

競走馬を愛するものは
競馬につきまとう
哀しすぎる運命を
乗り越えなければならない
という事を知る...

スズカが人を愛した様に
スズカは今でも
たくさんの人に愛されて続けている。

寂しがり屋で
女の子の様な名前を持った
栗毛の愛らしい華奢な男の子...

君はいつまでも
わたしのonly one

決して君を忘れない。




                 武ゆたこ

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