vol 16   逃げて逃げて逃げて....


それはまだ私が
あまり競馬を知らない頃の事だった
画面を弾丸の様に走り抜けていく
一頭のサラブレットがいた。

なに、これ
ムッチャ早い。
なんでこの馬こんなに早いのぉ?
私の感動をよそに皆は冷ややかだった
いや、だめだよ...
なんでよ、こんなに早いのに
もう楽勝じゃん。
こんな飛びぬけて早い馬がいるのかと
本当にびっくり仰天だ。

何しろテレビでみていたって
二つに分かれた上の画面には
はるか先を行く一頭の馬
その後をだらだらと走る遅い馬たち
(何度見ても素人の私にはそう見えた)
それも....
ヒトトキの夢と知る時がくる。
4コーナーであっという間に
さっきまであんなに早かったあの馬が
意地悪な友人の予言通り無情にも
みるみる馬群に飲まれていく....
そんなぁ〜〜〜
あんなに早かったのに

ツインターボのレースを
一度見た時から
わたしは彼のトリコになった。

鬼の様なメンコをつけて
ひたすら大逃げをする
気になるヤツ。

言っちゃ悪いが
マラソンで先頭を走る
どこかの国の人達によく似ている様な気がする

かけひきはない
ひたすら
逃げて逃げて逃げる。

その逃げ方が半端じゃないから
華がある。
彼がくるだけで
皆は彼の逃げに期待した。
小さい体で
彼は生涯逃げ切った
現役を引退して
どこか小さい地方馬になっても
彼の人気は
とどまるところを知らない...
それどころか
いつまでも皆に夢を
撒き散らしてくれた気がする。

引退後、彼が種牡馬にならずに
まだ走るという事を聞いて
ほんの少し胸が痛んだ。
あんなに頑張って逃げつづけてきた彼だもの
皆に夢を撒き散らしてくれた彼だもの
他の、おうまさんの様に
ゆっくりさせてあげたかった。

でも、もう一方で嬉しかった。
彼が元気にまだ
逃げつづけている
夢を与えつづけてくれているというのは
すごく嬉しい事でもあった。

長い現役引退後
たった一年の種牡馬生活
6頭だけをこの世に送り出し
この世を去ってしまったけど

君のあの豪快な走りは
競馬をそんなに知らない人でも
しっかり覚えていると思うよ。

君ほど数多くの人達の心を揺さぶり
忘れられない一頭になっている馬は
多くはないと思う。

君の様な豪快な華麗な逃げを
君の後にも先にも見たことないもの


少女漫画の世界だったら
君の走ったあとには
たくさんの星のきらめきみたいな
星屑たちが君のあとに
さんざめいていたかもしれないね
きっとこんな風に
☆..・"☆..・"☆..・"☆..・"☆..・"☆..・"☆..・"☆..


今でも君は
夢の星屑をばら撒いて
駆け抜けているのだろうか....

またたく夜空を
今日も
逃げて逃げて逃げて....




                 武ゆたこ

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