vol 2  仔馬の様なオグリ


わたしが初めてオグリに逢ったのは
今からおよそ6年ほど前
北海道の牧場だった


引退しても威厳さと気高さを忘れずに
簡単に人をよせつけ様とはしない
種牡馬になった後も
気性の激しさをみせ続けた
気難しいサンデーサイレンスとは違い


オグリは嬉しそうに牧場を
駆け回っていた
走るのに飽きると
むしゃむしゃと牧草に喰らいつき
相変わらずの食いしん坊さは
衰える事なく
まるで無邪気な仔馬の様に
楽しそうに駆け回っていた
そんなオグリの姿が
今でも脳裏に鮮やかに焼き付いている。


血統を重んじられるサラブレットの中では
全く異端児である彼は
三頭まとめ買いされた
いわゆる十把ひとからげの馬だった
もちろん初代オーナーは
中央競馬で使う気などさらさらなかった。


そんなオグリが
生涯32戦中22勝
2着6回
3着1回
着外3回という
偉業をなしとげる事になる。
しかも引退レースは
あまりにも有名な武との「有馬記念」の1着だ

しかしパドックでの彼は、いつも、
厩務員である仲良しの池江さんと
調教助手の二人に引かれて
うざったそうに歩いていたと言う
それでも彼は
レースになると「怪物」という名を欲しいままにした

中央に移籍しても
タマモクロスに負けた「天皇賞」まで
彼は6連勝を果たす。
そのほとんどが、文句なしの一着で
他の馬がビシビシと追われている時でも
もったまま、余裕の一着を決め込んだ。

南井と絶好調のコンビの頃には
四ヶ月足らずの間にGレースばかり6戦し
中一週で走りきる。
なんとマイルチャンピオンシップからジャンカップは
連闘(中6日)で挑んだ...

彼の旺盛の食欲は
レースにでも使わないと
すぐに体重を増やしてしまう。
という事情もあった様だ....
それにしても
あまりにも過酷なローテーションだったことは確かだ

水泳きらいの
温泉好き。
食欲旺盛。
けれど聞き分けがよく
厩務員さんとは
喧嘩もしたことのないオグリ


大きくなるにつれて
その馬体をどんどん白くさせ


どの馬よりも大きな
お世辞にも可愛いといい難い顔で
大きく鼻を膨らませて
一等賞でゴールバンを駆け抜ける。
見事な勝ちっぷりで
人々に夢を与え続けた。


彼の血統が
もう少し違っていたら
彼はそんな酷使はされなかったかも知れない..

けれど、それでは
彼は「怪物」になれなかったかもしれない....


「怪物」と言われ続けて走りぬけた彼が
果たして幸せだったのかはわからない...


けれど最後の最後のレースで
ふたたび 武 豊にめぐりあい
見事な復活を見せ
豊とともに最後の「オグリコール」を受けた彼は
幸せだったに違いないと思いたい....




引退してもなお
多くのファンを魅了して止まない
仔馬に戻ったオグリに
心からの拍手を送りたい

もう好きにしていいんだよ。
ここに訪れる何人ものファンが
きっと彼に送った言葉だろうと思う
ありふれた言葉を彼に残して
わたしはオグリに別れを告げた。




                 武ゆたこ

バックナンバー
vol.1「サラブレッド」
vol.2「仔馬の様なオグリ」
vol.3「エイシンサンサンの事」
vol.4「トップロードのくれたもの」
vol.5「夢の申し子」
vol.6「ナリブに白い花束を♪」
vol.7「マーベラスクラウンちゃんのこと」
vol.8「シルクボンバイエの野望」
vol.9「ベガはベガでもホクトベガ」
vol.10「ルドルフの涙」
vol.11「寂しがり屋の彼....」
vol.12「そよ風の名をつけられた馬」
vol.13「二度引退した幸せな馬」
vol.14「光より速く...アグネスタキオン」
vol.15「母の命をうけついだ馬」
vol.16「逃げて逃げて逃げて....」
vol.17「不思議な逃げ馬」
vol.18「繊細なひまわりフーちゃんの事」
vol.19「ローゼンガバリーの見た夢」