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vol 7   マーベラスクラウンちゃんのこと


セン馬に乾杯!

MARVELOUS・CROWN
『 驚異的な栄誉 』
という名を持つ君は根っからの暴れん坊で
みんなに手をやかせていたね
三歳秋でデビューの阪神ダート戦1200
南井騎手を背中に 見事に出遅れ
後半に急追しシロキタアラシに
一馬身四分の三差をつけての一着に輝いた
そのあと続く三戦で君は気性を暴露する
もみじステークス 黄菊賞 エリカ賞を
三、四、二着と破れ
調教中に大暴れを繰り返す
なんとあの南井騎手を合わせて
三回も振り落としてしまったね
おかげで君は本来なら調教師が下す判断を
馬主から言い出させてしまった。
君の馬主は君を愛してはいたが
君のせいで他の人達や馬達が怪我でもしたらタイヘンだと
泣く泣く判断をくだしたそうだよ。

君はなんでそんなに暴れたのだろう...

サラブレットに生まれてきた事を恨んでいたのだろうか

多くの馬達が
人の言葉を理解し
人の為に走るのを
君は心のどこかで
反発していたのだろうか

有り余る君のエネルギーは
君を牡馬として生きる道を
遮断してしまう。
好きでなったのならいいけど
あまりといえばあまりの
サラブレットを育てるための人のエゴ

もし君がアメリカで生まれたら
二歳の時に間違いなく切られていたと関係者は言う
日本やヨーロッパではそれでも
本質の雄性を尊重し
ぎりぎりまでその判断を遅らせるそうだ
けして去勢をしたからといって
どの馬もレガシーワールドの様に
成功を収めるとも限らなければ
君の世話役が
「バカ馬はいつまでもバカ馬」と言って警戒した様に
おとなしくなるという保証はない
君は決して手術だけが成功した例ではなく
そのあと君のまわりの人が
体当たりで君を可愛がってくれて成功した例だね

いつまでも暴れ馬だった君も
いつしか人と心を通わせる様になり
人の言葉のわかる馬になっていたね
マイラーズカップ二着、大阪杯4着、新潟大賞典で二着
今一歩のところで重賞勝利を取り逃がしてばかりいた
でも、三度も振り落とした南井騎手との金鯱賞で
フジワンマンクロスを一馬身四分の一ちぎって
初めて重賞レースをものにした

四歳の四月から高松宮杯の4着までの
10ヶ月の間、11戦も闘った君
笹針を全身にうってやっと三ヶ月の休養...
君はこの時何を思ったのだろう
この休養で君は一回りも二回りも大きくなった
もしかしたらここでも君は
君をとりまく人達の
暖かい心を感じてくれたのだろうか...
それとも大人になったのかな

休養開け 京都大賞典でなんと
アイルトンシンボリをハナ差に押さえて優勝
続くジャバンカップでは強豪な外国馬を迎え
例の南井を背中にのせてのぞむ
サンドピットの後ろの三番手につけ
三コーナーでフジヤマケンザンと競いあう
四コーナーからの直線で中断から追い込んだ
パラダイスクリークが迫り
直線二頭で激しいデットヒートを繰り広げる
電光掲示板にマーベラの4の文字がうかびあがり
ハナ差の勝利となった
実際にはハナ差もなかったという


君は持って生まれた才能と
有り余るエネルギーのために
牡馬としての君の一生は
奇運だったかもしれないが
その分、みんなに愛されて
君もいつしか人を信じることを覚えてくれた

大事なものとひきかえにして
皆に与えてくれた
君の一生を忘れない

君の血を直接受け継ぐものはいなくても
君が存在していた事実は
競馬界に燦々と輝いている

暴れん坊の君の走りと
君の名前は君だけのもの

君の前に君はいない
君の後ろにも君はいない

素敵なセン馬に乾杯!





                 武ゆたこ

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