vol 9   ベガはベガでもホクトベガ


ホクトベガの死を知らせれた時の
ショックは言葉にならなかった。

競馬を楽しんでいくと
サラブレットとの死の別れは
悲しいかな
いくつか経験しなければならない。

いろいろな
別れ方があって
どんな形であれ
悲しいのは当然の事だけれど

ホクトベガの死は
あまりにも
突然にやってきた。


ホクトベガのデビューは
中山競馬場のダート1200
2着に9馬身差、1分12秒5という
新馬とは思えない好タイムを記録する
一戦おいて、東京ダートのマイル戦
カトレア賞でも余裕で快勝する。

しかし桜花賞、オークスでは
皮肉にも同じ名前を持つ
西のベガに破れる
彼女はいつもこの名前の影に
見え隠れする様に
微妙な闘いを続ける。


ダートを力強く走り抜けた
その姿とは対照的に
彼女はとても繊細だった。
長距離の輸送に弱く
すぐにカイ食いが落ち
体重がみるみる減ってしまうのだ


ベガだけでなく、ユキノビジン
スターバレリーナ
並み居る強敵の影に
いまいち実力をだしきれずに
悪戦苦闘を強いられる
そんな中で臨んだエリザベス女王杯で
彼女は見事に華麗な舞いをみせる。

誰もが西のベガの
追い込みに期待する中を
物凄い末脚で走りぬけ
アナウンサーに
「ベガはベガでもホクトベガ」
と、言わしめた女王ホクトベガ

しかし、また、その活躍も
彼女に重い斤量を課せる事になり
500キロをきった彼女の体重には
文字通り重くのしかかる。
4歳の暮れから、5歳春まで
四戦して連対を果たせない
辛い時期をすごす。
5歳の秋にはとうとう彼女の体重は
472キロまで落ちてしまうのだ。

器用な彼女は飛越が上手いと
障害の練習までさせられたという
もし、彼女が
障害馬で活躍していたら
あんな最後は見なくてすんだかもしれない...


結果的には障害の過酷な練習が
ダートの女王ホクトベガを
誕生させる事になり
川崎競馬場で
伝説の18馬身差をつけ快勝することになる。


7歳になって無敗の4連勝を記録し
奇跡的な強さをみせつけた彼女
その強気な走りとは別に
心なしかいつも伏し目がちな
おとなしめな、
それでいて、芯の強そうな彼女

そんな彼女のひたむきな走りは
多くのキャリアウーマンの共感を呼び
たくさんの女性から愛された。


転倒した騎手を
かばうように立ち上がり
後続馬にぶつかって
その命を終えた。

もし自分をかばっていなければ
ホクトベガは助かっていた
彼女は自分を助けてくれたんだ
その騎手は言う


どんな別れも
悲しくて切ない

しかし
遠くの空で
あまりにも劇的な最後をむかえ

本当の星になってしまった彼女の死は
いつまでも胸が痛い....

もうすぐ彼女の
誕生日がやってくる。


合掌。



                 武ゆたこ

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