東京都荒川区の宗教と政治
最近
,またオウム騒動とか自自公とかで宗教と政治を巡る問題がでてきていますが、小生が大学時代に社会学のレポートで提出したものがあったので掲載しておきます.平成9年の初頭に書かれたものと思われます.東京都荒川区というローカルなスポットに絞ったところが、テーマとしては非常に面白いものになってると思います.
☆選挙にみる宗教と政治の関係について〜東京都荒川区の場合☆
昨年はオウム事件を発端に宗教法人法改正問題が国政の懸案事項となった。その際、宗教と政治の関係について多くの議論が起こったが、特に新宗教の中でも最大の組織を誇る創価学会が行きつ戻りつを繰り返しながら、次の解散・総選挙も近付いてきている。宗教と政治がどう関係しているのか。具体例として、荒川区の例を取り上げながら簡単に検討してみたい。なお、荒川区を例とする理由として、@自分が現在住んでいる土地であり、興味深かったA入手可能な資料の中でこの地域に触れているものがいくつか見られたB実際にこの地区の自民党の事務所に出入りすることが可能であった、ことが挙げられる。
さて、一般的に宗教と政治の関係で取りざたされる宗教団体は創価学会に限らず、日蓮系の新宗教が多いのも面白い。例えば、立正佼成会、霊友会、佛所護念会、妙智会などがそうである。日蓮仏教系以外では、世界救世教、生長の家、世界基督教統一神霊協会などが挙げられよう。これらは、決して一党支持ではないが、選挙の際に推薦する候補あるいは政党を決める場合が多い。特に日蓮系の立正佼成会、霊友会は信者数も多いことから、選挙の際も一定の票田として注目される。
それにしても、そのように様々な宗教団体が選挙を通じて政治に関わっているのに、特に創価学会が特別視されるのか。もちろん、信者数は圧倒的に他より多い(全国で公称803万世帯)。しかし、立正佼成会(公称212万世帯)や霊友会も個々ではそれに及ばないが、自民党系候補者のように複数の宗教団体より支持される場合にはそれほどに気にならないはずではないのか。つまり、問題は数以上に各宗教団体の政治に対する感覚の違いだと考えられよう。創価学会を支える思想に「王仏冥合」があり、その理想を実現させるべく、当初は国立戒壇院の設立を目標として公明党を作ったことを忘れてはならない。いうなれば、穏健化した現在でもその「信者による信者のための」政治を作るために選挙への支援体制は並ならず、また、一方で選挙戦を一つのイベントとして組織の指揮と結束を強めるために利用している向きさえある。それに対して霊友会系日蓮宗(立正佼成会・仏所護念会なども含む)は政治的な思想よりも先祖供養の色合いの方が強いためか、選挙戦も創価学会ほど熱心な選挙戦にはならないようである。しかしながら、例えば参院の比例名簿を見れば解るように、バーターで彼らの支援を取るために、各「教団代表」が織り込まれていたりするのだ。
従来、創価学会は従来表裏一体の形で公明党を支持してきた。また、94年の新進党結党後も地方レベルとしては「公明」が残るにいったっている。ところで、地方選挙などで、同じ選挙区から複数の候補者を擁立するとき、学会は管区を設定し、緻密な票読みの上で候補者を漏れなく当選させるといわれている。荒川区の区議選では、88年公明党7名で計14825票平均約2118票で最高位と最下位の格差は644、92年7名で計14460票平均約2066票で696だが、96年6名になり、計13604票平均約2267票で格差は131にまで詰まっている。96年は宗教批判の強まる中であったためか、候補者の1減が見られたが、票差はほとんど無く、読みの正確さを感じさせる。
荒川区は、かつては田畑の多い地区で、明治以降は工業地帯として都市化が進んだところである。また、南千住地区などは水戸街道、日光街道につなぐ千住大橋があり、古くから交通の要所であったが、後にも京浜東北線、常磐線、京成線の通るところとなっている。今でも、同区には大きな県人会組織として長野県人会、新潟県人会などがあり、東日本の地方出身者の集まる土地であったことを思わせる。下町=江戸っこを連想させる「川の手」荒川区ではあるが、その歴史を考えるに、「都市型」「労働者の町」といった位置づけの方がより正しい認識であると感じざるを得ない。
荒川区の全有権者数は約14万3千。公明党の過去の得票を見ると大体1万2千ないし2万程度である。全体の約9−14%ということだ。もちろん、この票の中にはいわゆるF票(学会員の誘いで非学会員が入れた票)が含まれることを考慮する必要がある。例えば、区内の町屋3丁目では約1800世帯のうち207世帯が創価学会員であるという。荒川区全体では7000世帯といわれている。創価学会は正教邪教の区別が極めて明確で、排他的であり、御輿一つ担ぐことはご法度になるというが、荒川区では南千住や町屋では素*雄神社(天王様)、日暮里では諏訪神社、尾久では尾久八幡神社に対する帰属意識が強く、町会で氏神としてまつっているところが多く、そんな風土で創価学会が他よりも比較的多い割合で存在しているのも非常に興味深い。
具体的な数字ももう少し検討してみたい。89年実施の成城大学民俗学研究所研究員磯岡哲也氏の調査(「磯岡調査」と呼ぶことにする)では荒川区の中でも特に尾久地区を対象としている。また、氏の論文の中でその比較材料として63年立正大学人文科学研究所による調査(立正調査)をあげている。それらをみるに、浄土真宗、浄土宗、真言宗、曹洞宗などの伝統的日本仏教の他、日蓮宗、日連正宗が割合に多いことがわかる。「家の宗教」については、立正調査では日蓮宗15.4%真言宗13.7%禅宗12.4%浄土宗11.2%浄土真宗9.8%日蓮正宗3.9%天理教1.7%など、磯岡調査では浄土真宗18.6%真言宗18.2%日蓮宗16.4%浄土宗10.0%曹洞宗7.3%日蓮正宗5.0%立正佼正会4.5%天台宗3.6%天理教1.8%霊友会1.8%などであった。一方「個人の宗教」は立正調査で日蓮正宗12.6%(うち学会11.8%)、日蓮宗7.7%真言宗3.2%浄土真宗2.0%立正佼成会1.7%禅宗1.0%天理教1.0%など、に対し磯岡調査では日蓮宗5.0%日蓮正宗5.0%真言宗4.1%浄土真宗3.6%浄土宗3.2%立正佼成会2.7%曹洞宗2.3%天台宗1.8%天理教1.8%キリスト教1.8%などとなっている。磯岡氏は「さて、尾久地区において順位は別にして、数字を比較する限り日蓮正宗が大幅にダウンしているが、このことのみからこの教団の大幅な勢力低下を結論づけるのは性急に過ぎよう。荒川区は都内でも創価学会信者の多い地域の一つであり、選挙の時の組織票が約14,000ともいわれている。これは、区内全有権者の約10%に当たる数字であることから、尾久地区においてもこれに近い割合の信者が存することが推測される。」と述べ、さらに「数字に現れた日蓮正宗の信者割合の大幅な低下が何から由来するのかは今後の課題とする」と特にこれを統計学、戸別調査による問題とした上で、日蓮正宗・日蓮宗の信者がこの地域に多いことを指摘している。
次期衆院選で荒川は東京第一四選挙区として隣接する墨田区と一つの選挙区を構成しているが、新進党の現職のほか、自民党の新人、共産党の新人ほか無所属2人が立候補するといわれている。新進党現職は旧新生党系で、創価学会は表向き支持ではあるが、「仲間じゃないといって、応援しないともなれば、他の選挙区から出ている仲間も応援してもらえなくなる。まあ、みんなが投票所で彼の名前をかくとは限らないと思いますがねえ」(『荒川区町屋三丁目・下町の学会員さん物語』中町屋支部長の談話)といわれ、先の東京都知事選挙のように、上層部の決定が必ずしも末端の動きにつながるとは言い切れない。逆に、「同議員の妻子が創価学会に入信した」という噂も流れる。一方、自民党サイドは、新人候補が立正佼成会に入信したといわれており、他反創価学会・自民党支持の宗教団体、生長の家、佛所護念会、世界救世教、霊友会などが支持にまわる動きがみられる。
新進党に公明の一部が合流してから、新進党は野党のままとなっている。このままでは、創価学会としても見切りを付けるのではないかともいわれており、実際「次期衆院選は人物本位で応援」することを早い段階で宣言している。一方立正佼成会は宗教法人法の改正問題では反対を表明し、一時創価学会との接近さえみられた。
ともあれ、荒川の風土と創価学会の体質の故に荒川での選挙がこの新宗教団体に大きくキャスティングボードを握られているのは確かである。
<<参考文献>>
『民俗学研究所紀要』
成城大学民俗学研究所
「東京下町住民の宗教意識(一)−荒川区尾久地区の事例−」 磯岡哲也
『別冊宝島 となりの創価学会−内側から見た学会員という幸せ』 宝島社
「荒川区町屋三丁目・下町の学会員さん物語」 米本和宏
「これが学会選挙の舞台裏だ!」 村山和雄・原田信一
「学会本部にもこんなお家の事情がある?」 宝島編集部
『荒川区の歴史』 東京ふる里文庫(19) 松平康夫 名著出版
『荒川区史』 荒川区
『尾久の民俗』荒川区民俗調査報告書(二) 荒川区教育委員会
『町屋の民俗』荒川区民俗調査報告書(三) 荒川区教育委員会
『日蓮の本』ブックス・エリテリカ第5号 学研
『政界』 政界出版社
1995.7号「これが有力宗教法人と政界との”相関図”だ」牧潤三郎
『朝日新聞』朝日新聞社
『毎日新聞』毎日新聞社
以上