「ある宗教」
私は相変わらず、部屋に乱入することが、
恐くてできないでいました。
2度のチームによるハブりは、私に人間不振という
大きな傷を与えていました。
私は「森下くるみ引退反対!」という部屋を作り、
乱入者を待ちつつ、遺跡を潜ることにしました。
潜ってすぐ、2人いないと開かない扉で、
道は閉ざされてしまいました。
「踏むの手伝って」というメールを送る友達も、
今の私にはいません。
しかし、坑道に行き先を変更しようという気も出ず、
私は片方のボタンの上にのり、乱入者を待ちました。
薄暗い部屋の中で、私は独り、ボタンを踏み続けていました。
乱入者は誰もやって来ません。
目の前の赤く光るボタンを眺めながら、
私は、とても大きな孤独感に襲われました。
この広大なラグオル、何万人といる冒険者、
無数に存在するチーム、集会、友達の輪。
その中で、ひとりぼっちの私。
孤独を実感した私は、寂しさと悲しさで体が凍るように震え、
涙がぼろぼろと溢れ出てきました。
死をも予感した私は、耐え切れずロビーに戻りました。
ロビーでは、楽しげな会話が行われていました。
私は、会話に参加しようと思いましたが、
「にゃははw」「くるくる〜?w」「くるくる〜wpw」「wナイスw」
という、私には理解不能な会話だったので、参加を諦めました。
しかし私は、何かを発して、孤独を紛らわそうと、
「こんばんわー>みんな」
と言いました。反応はありませんでした。
「すーんだw」「てっくりてっくりーw^お^」「にゃははw」
私はまた、「こんばんわ>みんな」と言いました。
やはり誰からも返事はありませんでした。
孤独の上塗りだと思った私は、今日はもうPSOをやめ、
森下くるみのビデオ「うぶ」を見て今日は寝よう、と思ったその時、
1枚のカードが、私のところに送られて来ました。
私はそのカードを受け取り、見てみると、
「アンダカ真理教
アンダカ様に帰依せよ」
というメッセージが書いてありました。
なにかの宗教かな?と思い、配った人を探しましたが、
もうこのロビーにはいませんでした。
「にゃんだこのカドは??w」「どしたたん?wお」「あやすぃーカド貰ったにゃw」「ポキももらったぐる〜wxw」
どうやら、ロビーにいたフォース全員にカードを配ったようでした。
「削除にゃーw」「シュレッダー^お^」「くるくる〜wpwp」
私はもう一度、そのカードを見ました。
アンダカ真理教。
アンダカとは、フォースが作れるマグのことかな?
と思い、とても怪しいとは思いましたが、
宗教という形は取っていても、なりきりの一種で危険性もないと思い、
新たな出会いで孤独を埋めたかった私は、
カードに記されたロビーへ行ってみることにしました。
指定されたロビーには、フォースでいっぱいでした。
「怪しすぎw」「なんもねーじゃん」「帰るべー」
どうやらみんな、私と同じようにロビーでカードを貰ってここへ来たようでした。
「静粛に」
ひとりの白いフォニュームがそう言いました。
「これより、アンダカ様が御越しになる」
「尊師登場〜w」
「静粛に」
すると、太った黒いフォニュームが現れました。
なんと両肩に、2匹のアンダカが浮いていました。
「我に帰依せよ。さすれば幸福が訪れよう」
アガンタ様と呼ばれる男はそう言うと、
ゆっくりと、空中浮遊を始めました。
「うわ、浮いてるー」「チーター初めて見たw」
「静粛に」
私はただ呆然と、その光景を眺めていました。
「チーター死ねよ、バーカ」
ひとりのフォニュエールが、そう言いました。
「アンダカ様を侮辱する者には天罰を」
白いフォニュームがそう言うと、
アンダカ様と呼ばれる男の手が光り、
見たこともないエフェクトが天井から落ちてきて、
フォニュエールに直撃し、フォニュエールは消滅しました。
その光景を目の当たりにしたフォース達は、次々と落ちていき、
ロビーに残ったのは、私と、白いフォニューム、
そしてアンダカ様と呼ばれる黒い太ったフォニュームだけになりました。
「我に帰依せよ。さすれば幸福が訪れよう」
アンダカ様と呼ばれる男は、そう言うと姿を消しました。
落ちていった人達は、強制ロストが恐かったのだと思います。
しかし、PSOを遊ぶ意義を失いかけていたその時の私には、
ロストは恐いものではありませんでした。
そしてアンダカ様と呼ばれる男が行った、
チートによるものと思われる神秘現象は、
私に新たなPSOへの興味を与えるものだったのです。
かなりやばいなりきりだな、とは思いましたが、
失うものはなにもない私には、ためらいはありませんでした。
アンダカ様への帰依、というのはどういう意味かよくわかりませんでしたが、
私は入会してみることにしました。
「アンダカ真理教Tルーム」という部屋に入るよう指示を受け、
私は中に入りました。
そこには2人のフォマールがいました。
「こんばんわ」
「ようこそアンダカ真理教へ」
「ようこそアンダカ真理教へ」
その部屋は、マグのアンダカを作る部屋だということでした。
ふたりは黙々と、マグにエサやりをしていました。
私は持っていた生マグを育てることにしました。
2時間くらいエサやりをし、そろそろ寝なければならないので、
と言うと、アンダカ真理教の歌を教えるので覚えてください、
というのでそれをショートカットに登録し、
3人で歌い、その日は寝ました。