入院も2度目ともなると看護婦も安心してほったらかしてくれる。
新たな病室は312号室。そしてここに私の入院生活に笑いをもたらしてくれる貴重なキャラ、マイ・ブームの火付け役なる人物がいた。
主、と呼べるその婆さんはモモコといった。
モモコは糖尿を煩っているらしく、足腰も悪く、結局何が原因でそこにいたのか忘れてしまったが、いつも看護婦、医者にかしづかれていた。
朝はまず血圧を計りに看護婦が顔を見せ、次に見慣れぬ医師が軟膏を持ってやって来る。
モモコは飼い慣らされた犬のように腹を見せ、
「先生、ここに塗っとくれ」
と、寝間着をめくる。
そんなモモコもそろそろリハビリをしなくてはいけない時期がきたらしく、ナースに翌日リハビリ病棟へ行くように、と言い渡されていた。かなり不安な様子でリハビリ・デビューを案じているモモコであった。
同室のEさんはモモコの娘ほどの年齢(推定45歳)であったが何かとモモコの面倒をよく見ていた。
彼女は膝が悪く、今はほとんど回復してリハビリ入院のような生活であった。
モモコとは対照的な人で、とにかく痛みに鈍感。
医者にとっては有難いくらい、模範的な患者と言えよう。
翌日はモモコと一緒に仲良くリハビリに出かけていった。
1時間後、モモコは緊張疲れかすぐベットに横になってしまったが、Eさんは大好きなジュースをグビグビ飲んでいた。
ひとつだけ言い忘れたがEさんの欠点は間食しすぎることである。
これ以上の体重増加は膝に負担をかけるので控えるように、と言われた途端に食っている。しかも隠れるでもなく堂々と。ゆえに誰も何も言わなくなってしまったが。
その翌日、モモコは朝から張り切りTシャツ姿であった。
しかも爆裂していた髪をゴムでしばって。
今日もやる気たっぷりだな、と微笑ましく見つめていたが、何やら朝食の箸が進まない。
ナースを呼んで不調を訴えている。どうやら血圧がいつにも増して高いらしい。
数日リハビリは中止して様子を見ましょう、ということになった。
モモコ、相当リハビリに緊張していたとみた。
気が付くとグラサンかけて居眠りしてやがったが。
リハビリがなくなった途端、いつものモモコに戻っていた。
翌朝、私が朝食ギリギリまで寝ていたりするとご親切にもお声がかかる。
「おねえちゃん、起きなーっ」
衝撃的な目覚めである。
ありがとう、とお礼を言ってそそくさと洗面所に出かける。
これはあくまでモモコの親切である。ゆえに悪い気は全くしない、でも目覚めは最悪であったが。
私が退院した数週間後、モモコは身内の不幸があって退院していったらしい。
彼女の家は遠いため、通院は無理らしい。未だにモモコだけはふと思い出すことがある。
毎朝のインシュリンだけはかかすなよ、モモコ。
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