Kちゃん

ある日、私が以前苦しみぬいた311号室に新しい患者が入室してきた。
それがKちゃん。飲酒運転で事故って鎖骨骨折という元気なお水の女の子。
今までは3階に空きがなく5階(おもにあたっちゃった人ばかりの階)に入院していたらしい。運悪く311号に空きができ移されたKちゃん(その空きをつくったのは私)初日から喫煙室でSさんという主について5階患者に愚痴をこぼしていた。

「あのくっそババア。超ムカツク。ウンコ臭いんだよ、ったく。」

偶然彼女の話を聞いてしまい、実は私も辛かった、という話から仲良くなってしまった。
それにしてもKちゃんはとても元気。何度も事故ってはいるけど(全て飲酒)今回ばかりはかなりマズイ状況らしく、仕事(昼間の事務職)を失い、でも夜があるからいいさ、というあまり物事を深く考えないという、私にとってはうらやましいくらいシンプルな人であった。
見た目、彼女にっとっての入院生活は夜の続き、というかんじ。
5階の爺さんたちとタバコ吸いつつおしゃべりするだけ。
ゆえに5階ではアイドル的存在でさえあった。
しかし、意外と面倒見もよく、へたな看護婦よりもメンタルケアできるんじゃなかろうか、と感心したものである。
ステレオタイプなお水、とはいえ病院という特殊な場だとこういう存在になりうるか、とも思う。看護婦はあれだな、お水を経験した方がいいかも。
しかし、たったひとつKちゃんが看護婦になれない理由があるということを忘れていた。
それは「男好き」そして「金銭感覚の欠落」にあった。
5階でKちゃんの喫煙仲間、Yさんというオジさんがいた。
ちょっとヤクザなつながりのあるYさんの所にはいつも舎弟のようなチンピラが出入りしていた。私もよく見舞いの餌を盗み食いしつつ、業界の掟なるものを聞かされていたりした。
そんなYさん、どうもKちゃんに恋しちゃったらしい。

バツイチ、会社も倒産、トドめにあたっちゃって入院したYさんにとってKちゃんは心のオアシスだったと思う。うまく動かせない右半身のリハビリもがんばっていたのはKちゃんとのことがあってか、と私は見ていた。
案の定、退院間近なKちゃんにごっつい指輪をプレゼント。
Kちゃんは私に相談してきたが、まんざらでもない様子であったので、気いつけや、とだけ言い見守ったのだが、その言葉をかける相手を間違えた。
退院後、YさんはあっけなくKちゃんに振られていた。
Yさんは、というとかなり落ち込んだらしい。(そりゃ、そうだ)
でも、若い娘は危険である、とYさんも思い知ったことだろう。
世の中そんなに甘かない、ということを病院の片隅で知る中年の姿は寂しい限りであったが。
それにしてもKちゃん、Yさんにお金返したのか?

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