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メモリアル・中東紀行・治平のたより


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せいほうのバーナー


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中東紀行

    「イラン国へ」  丸目 治平著

  
        第一回

(5回連載分まで 掲載中)

 蛇腹の口からもぐり込む、
機内に閉じこめられる事7時間。僕の時計は8時を指してしているが、
現地時間はサマータイムで午前3時30分。

エンジンが停止し、タラップが設置されて、
扉が開かれる音で確認。
乗客が頭の上にしまいこんだ手荷物を、 われさきに取り出して立ち上がる。
 帰宅を急ぐ人々が狭い通路に並びだす。
座席に座りこんだままの僕たちは、
急ぐことはないこれからが始まるのだ。

 乗員に「ありがとう」
機外に出て「サラーム」 「こんにちは」
タラップを降りて振り向き見上げる。
ジャンボ機のねむそうな顔に、
イラン国営航空の翼を広げた
ライオン・ベルセポリスの石獣から取ったマークが、
勇ましくスポットライトに冴える。

 朝起きて、8時にトランクを持ち上げて家を出る。
10時にマレーシア航空で、
ベナン経由クァランプールに夜の8時に着く。
僕の時計は日付けが替わって午前1時だけど。

 総てが整ったマレーシアの国際空港を、
イラン国営航空で飛び立ったのが0時。
インド上空を横切り、パキスタンからオーマン湾。
ホルムズ海峡から、ペルシャ湾、ザクロス山脈奥深く。

 自宅を出てから小さな時計がふたまわり、
24時間かかってイランのテヘラン空港に降り立つ。
イスラムの世界では、休日は金曜日。
「働くぞ」の日曜日だった。

 パスポートを奥ふかきところから取り出して、
四列に並んで木枠のガラスドアの前で待つ。
いにしえの J音が鳴ってドアを開け、
女性税関吏と相対する。
「ビザは三ヶ月有効ですよ」 偽造なきパスポート。
彼女が木製の机の上に置かれた、キーボードを叩く。
パスポートに目を落とし、見上げて目が笑った。

「黒い瞳に黒い髪か」、
この国では女性はスカーフで頭をおおう、
衣装の黒いマントで姿を隠す。チャルドは制服。

 スタンプが押され、無言でパスポートが返ってきた。
目の前にホメーニ師の肖像写真。
後ろのホメーニ師の、大きなポスターに見守られて。

 次は荷物を引き取りに。
戒律の厳格なお国、検査も厳しいとの噂。
 右の階段を上がって、左手に荷物が回転して、
引き取り手を待っていた。

 「おはようございます」
顔面に微笑みをたたえて、
長身で35歳のマンスーリさんが、ここで出迎えてくれた。
 彼は手際良く、僕たちの荷物を集めて、

検査場の横手を通り抜けて、空港ロビーに出て行く。

 もうすぐ結婚すると云っていた、マンスーリが
これから十日間、昼寝も出来ずに駆けずり廻る、
十頭の羊たちの牧人でした。

ここまでです。

次は「テヘラン」の巻です。


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    「テヘラン」  

     

    第二回

 僕が低学年のころ、父の会社に届く、
外国からの手紙の切手を一枚一枚はがして、
切手帳に納めていた。

 同じ顔が色違いポーズ違いで、切手帳を埋めていく国があった。

 彼がこの国の王様だったのを知るのは、70年代。
度々ニュースに取り上げられた王様の顔は、
老人の顔に変わっていた。

 中央銀行の地下金庫。百畳の広さ。
ダイヤモンドにサファイヤが、エメラルドや真珠。
八百屋の店先にてんこもり。
 「所詮、なんぼの もんや」
大阪弁で問うてみても。
 「かないまへんな」
一握り幾らですかと尋ねるのが関の山。
 王様が居た昔、金塊が地下金庫にうずたかくあった筈。

 朝一番に見学した宮殿に転がっていたのが、
今見ている宝石の山。

 世界一金持ちの王様、裸の王様になって行った 時代。

 もしも四十五年前この国に生まれていたら、
イラン革命の渦の中で 
シャヒード(殉教者)に数えられて居たかも知れない。

同世代の男達の目線が厳しい。
彼らが流した血が、今のこの国なのか。

 前日テヘラン市内観光した私達一行は、
今朝シーラーズに飛ぶ。

 マンスーリーが考古学博物館で、
イラン全土の大きな地図を前にして、
 「イランは猫の形をしています」
やっぱりペルシャ猫か。

 左耳から顔が「トルコ国」で、時計の廻りに
「ナフチェヴァン国」「アルメニャ国」
右耳が 「アゼルバイジャン国」にもたれて。
首から肩が「カスピ海」
右足を横にのばして「トルクメニスタン国」
右太股が「アフガニスタン国」
お尻から、平らにされた尻尾の先が、
「パキスタン国」で「オーマン湾」につながる。

「ホルムズ海峡」を上がって左足とお臍を隠して
「ペルシャ湾」左肘を引いて、左手が「イラン国」
国境線の監視は大変です。

 ペルシャ猫の肩甲骨の真ん中がテヘラン。

ペルシャ湾から左足を折り曲げて、膝がしらの上が
地方都市「シーラーズ」。

スーツ姿のビジネスマンが機内を占める。

違うのはネクタイを附けない、首を締めるものは
戒律で禁止されている。

 後ろの席から、
「ニホンノ カタ デスカ」
声が僕に掛かる。振り向くとアンスーリーと
同世代の男性。
 「ワタシ ニホン イマシタ」
 「パチンコ ダイスキ・・・・・・・・・」
仕事は引っ越し屋さん。
月の生活費が6万円で、 娯楽はパチンコ。懐かしそうに喋る。

 アンスーリーは田舎の高校を出て、
お兄さんの住むテヘランに来て、
名古屋の電気工場で働いていた、
沢山います日本語出来るイランの男達が、
「お金」を稼ぐために覚えた「日本語」。

 昨日ガラス美術館で大切に展示されていた、
瑠璃色の首長の瓶は、日本と云う異国の地へ。
戦場にと行った。

男達を送り出した女達が涙を溜める「なみだ壺」
 思いは詩に詠まれる。

 シーラーズは二人の詩人と薔薇を誇る都。

 次は「シーラーズ」の巻です。

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「シーラーズの街」

     丸目 治平 著

          第三回

昼。
12時の日差しはきつく。
綺麗に手入れされたバラ園の芝生のひかれた木陰に倒れ込む。
そよぐ風が心地良く、近くの蛇口から引いたホースが
垂れ流しの水音を出している。

 二人の詩人の墓参りを済ませた後で、
夢の中で詩が生まれた。

 遠くでコーランの響きがして、目覚めて異国。
遠い国まで来てしまった。

 ホテルにチェックインしたのが2時。

晩御飯までは自由時間。
 ホテルを抜け出します。
マンスーリーが心配して、
「どこえ行くのですか。タクシーにして下さい」
60年代のアメ車。

お孝さんも同行して、バーザール市場を目指します。

 「運転手に三千リアル支払って下さい」。

マンスーリーの手配どうりに。

道の両側に商店が並んで、行き止まりに市場。

市場の入り口は小さくて、3時すぎのバーザールは
人もまばらに、静まり返っていた。

 「4時すぎにならないと店は開かないよ」
地元の人に教えられて、それでも日が差し込む
丸天井が美しく、横の筋を覗くと青天井の大きな
四角い広場。

絨毯が沢山あります。

なにやら倉庫で、真ん中に井戸がある。

 迷路を行ったり来たり、人が増え始め格子戸シッターが上がり、
活気ある市場になりだすと、

 「ジャポン オシン」
 「アィ ラブ ナカタ」 と行き交う人々から、
お孝さんと僕に声が掛かる。

 市場の奥まった一画に、十軒の店が回廊に取り囲む。

角の絨毯屋。
 「サラーム」
 「まあ お上がり」
絨毯屋の店先は僕の膝より、高台の日干し煉瓦を
積み上げた土間になっている。

 踏み台三段登って、二間(けん)の店に上がり込む。

「ええもん ありますか」
「なんぼでも 見ていきなはれ」
イラン全土で織られた異なる柄の絨毯が、キリムが広げられ、
次々と上に積まれて、

「これも ええな」
「あれが ええな」 の鑑賞会。
「これがええな いくらですか まけてーな」
値札は付いていない。
ここはガバメントショップ おかみのお店。
「あきまへん」
店員は大きな瞳を、たらしながら顔を突き出す。
そばに十才位の少年が直立して居る。
 お孝さんが袋から、仕掛け箱を取り出し、
二人に光線を放つ。

 舌が飛び出し、引き抜いてパタパタあおぐ。

少年は父に寄り添ってのぞき込む。

そこには、恥ずかし屋の息子の顔が写っていた。

 「煙草を吸ってもいいかい」
 どうぞ どうぞ おれにも一本」

日本の七つ星。
 「お茶を飲まないか 今持って来るから」
 「ママー」 の発音が僕の耳をとらえる。
息子が走って行く。
ペルシャ語の店員さんと英語のわからない僕が, 
英単語と手振り,顔の表情,対等に向き合えば,
後はは神様が通訳してくれる。

 次の日も晩御飯前に,この店に行く。
ヒガシ&カオルの四人で。
「何が欲しいの。 俺に付いてきな」
バザールの奥深く案内してくれて,レモン蜂蜜味の
冷たい不思議ななおやつまでご馳走してくれた。

土産が,荷物が,思い出がふくらむ。
彼に名前を尋ねるも、名前は無いと言う。
息子はおとうさんと呼び。
つれあいはあなたと呼ぶ。
市場の連中は屋号で呼ぶ。
だから僕はシーラーズの番頭さんと呼ぶ。
 煙草を取り出し,彼にも一本渡す。
彼が胸のポケットからライターを取り出し火を付けてくれて,
プレゼントと云って差し出したペルシャ文様の 百円ライター。

握りしめれば,思い出します番頭さんの顔。


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「カシュガーイー・キャンプ」の巻を、お送りします。

パトリック・リッチフィールド・フォト・コレクション


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    第四回

「カシュガーイー・キャンプ」

この国の遊牧民カシュガーイー族が織る絨毯に
魅せられて,十三男さんのイラン詣でが始まった。

 「イランはおもしろい」と力説する。

誘われるままに付いて行った。

 本日は朝からホテルの前に,四輪駆動車が三台
迎えに来てくれて,カシュガーイー族に会いに行く。

カメラマンの山さんが窓から身体を乗りだし撮影開始。

 運転手は馬でも扱うように車を飛ばす。

彼らは騎馬民族の血筋。

山さんの帽子が青空に飛んでいく。

 シーラーズは千六百メートルの高原にあり。

そこから更に峰を越えて,カシュガーイーの
夏のキャンプ地目指しして車が走る。

 高原といえども樹木は無いに等しく,
砂山の連なりに アスハルト舗装の道が続く。

一時間程走った頃眼下に隠れるように湖が現れた。

 幹線道路から離れて,湖を目指す。

中央に湖が展開して,両手広げて指先を少し上げる。

周りは峰の連なり。

手を差し上げれば,そこは 「くう」。

雲が存在しない青天井がおおっている。

 その下で,湖に向かって開け放された天幕が張られ,
天蓋(てんがい)に黒色の麻布。

大地に分厚い絨毯が引き詰められていた。

 遊牧する彼らが真夏の避暑地。

血族が集合する大切な場所。

 ヒガシが少年達とサッカーを始める。

バレーボールをしていたカオルちゃんが,
シュガーイー族の色鮮やかな,アラビアンナイト風の衣装で現れる。

 お茶を振る舞われ,桜桃が盛られた皿。

小鉢にヨーグルト。

寸が短いけど,しっかりしたキュウリ。

ライスが黄金色に染まって大皿に。

地面を走り回っていた鳥が焼かれて出たきた。

取り皿が配られ,宴会が始まる。

飲めや唄えやはないが,私達一行と,車を運転して,
この場に案内してくれた地元のボス(絨毯問屋)と二人 の部下。

シュガーイーの男達が,ひとつの天蓋に座して連なる。

湖を望む張り出した天蓋に,子供達か並んで見学している。

 この場で,僕の身体は足先から引き延ばされて,大の字。

五体満足。

ここでも昼寝の時間になりました。

「秘密の泉,見に行きませんか」

「行きます」

急斜面。急カーブ。

道なき山を駆けずる車の,逞(たくま)しさ。

 一本のせせらぎが頂上から流れる。

山肌をはいずつて登る。

湧き水の滴りを喉ふくむ。

水が小川になるを眼下で見ると,
流れの先に大樹が, 息込みつけて下る。

稚児が親の足下目がけて走った。

大樹に抱かれて,
「あなたがおじいさん。いや,ひいじいさん。
そのまたうえの,おじいさん。ここにずぅーと,
すわっているのですか」

 うえのじいさんの。そのまたうえかもしれん。
ここのひるねは,ひがつよいし。
よるはさむいし。たっていたら,たおれてしまう」

 木の根元で石を拾う。

西村のおかあさんは,絵の具にすると云っていた。

山さんは上立って,岩盤から吹き出す水を見たと云う。

 後方のひときわ高い山を背に,広がるすそ野の,
頂上も中腹にも緑なく,むき出しの山肌が色を変えて,
層を伸ばして重なる。

 その下に木々が,秘やかに点在し,湖に向かって
ゆるやかに傾斜している。

 天幕はその辺りに小さくあり,人も羊も,もっと小さく存在する。

長老に山の名前をたずねる。
「エジャン エジャンの山」
長老の声に,僕の頭が
「エジャン エデン エデンの園」
幻聴を奏でていた。

次回は「ベルセポリスにて」をお送りします。

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第五回 
「ベルセポリスにて」

          

    第五回

 空に翼を広げた鳳 頭部は人面 角を突き出す

蓮華模様 三重にして壮麗

奥津城へと 導く

召還されて宮殿に至れば 百本の円柱が天を支え

列に連なり 献上する貢ぎ物なく

奉上すべき 言葉なし

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晴天 白日 濁りなく

中央に至りて 王を求める

天子 天界の星に かぞえる

きらめきに隠され 楔型文字に刻まれる

物語はキュクロス大王に始まり ダレイオス大王に終わる

東方の三博士 星に導かれる 五百年前

ひらめく きら星 あまた輝く

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マケドニヤの王子 王になりて東征 帝国に挑む

ベルセポリスにて憤死し 

アレキサンドロス大王に 可う者なし

「王の道」 行き交う者多けれど

王座に臨席する 大君現れず

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 砂の上に砂を重ねて 歳月すぎる

新たに掘り返せば 黒く 深く 緑なす石

生きしとし 生きるもの あまた現れ

星たちの ひらめき  さえ読めず

戸惑い驚愕する 愚かなる子孫たち

高原の高みで眺望する 開かれし大地 

地平線に 真に透る道

背に岩盤の 屏風 広げられ

  定かなる場所に 立ち尽くす

留まる事は許されず 愚かに 歩み去るのみ

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 シーラーズの都から 猫の左骨盤辺りが遺跡ペルセポリス。

イランで作られた車体に,ドイツ製のエンジン。

マークはベンツ,運転手はオムスさん。

背骨ずたいに北北東に疾走する。

峰の右側がアジアハィウェー幹線道路。

シルクロードの東の果てから,ザークロス山脈のど真ん中。

標高千六百メートル 平坦な道が真っ直ぐ続く王の道。

終点には地中海を望む。

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 カーブを切ると検問所。

街を通り抜ける時,車体が大きく傾いて,止まると遺跡の見学場 です。

 歴代の王様が埋葬された場所や,ペルセポリスより古い宮殿。

後ろにキュロス二世のお墓。

ゾロアスター教の聖火台が,
ここにも,あそこにもあります

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 炎天下ただただ こうべ垂れての墓参り,
足下の黒色石を拾う。

 ランチタイム,ホテルの弁当,ハンバーガーセット。

車に積んだ氷箱,ミネラル水にダムダムコーラ,
楕円の西瓜が冷えてます。

 水の吹き出るオアシスで頂きます。

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昔,灌漑設備が作られて居た場所で,小さな公園。

 家族連れのピクニック,二畳絨毯キリムを木陰に敷いて,
ゆったり時間が流れます。

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 バスが大きく揺れて,マンスーリーが 「見学します」と云います。

 カーテンを開けて外を覗くと,砂の上に楼閣。

キャラバンサライの廃墟です。

 「王の道」は西暦3000年前より,西はバビロンから
ナイル川,東はインダス川まで,東西を結んでいた道,
と本に記してある雄大なロマンチック・ロードです。

 去れば5000年さかのぼり,又下る。

「街道をゆく」
ここはサライの宿場。

小川の流れる向こう側に,
回廊の別館が築造されたのが,何百年か前。

悠久な歴史の流れの中で,その別館の主は少年。
一緒に並んで記念写真。

次回は「エスハァハーンの都」をお送りします。

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第6回

パトリック・リッチフィールド・フォト・コレクション


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