人間動物園 連城三紀彦 双葉社


数十年振りの大雪であらゆる都市機能が麻痺する中、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐された。
被害者宅いたるところに仕掛けられた盗聴器に一歩も身動き取れない警察。隔絶された状況に追い詰められていく母親。そして前日から流される動物たちの血……。
二転三転の果てにあるものは!?




<作者紹介>

1948年名古屋生まれ
78年「変調二人羽織」で第三回幻影城新人賞に入選し作家となる 
81年「戻り川心中」で第34回日本推理作家協会賞 83年「宵待草夜情」で第五回吉川英治文学新人賞
84年「恋文」で第91回直木賞受賞



<感想>

被害者宅に仕掛けられた盗聴器で、息詰まるような緊迫感を煽る そして、どうも挙動不審の登場人物たち
刑事・警察・新聞記者……みんなあやしい
一方、狂言誘拐ではないかと思わせ、仕掛けた人物として被害者の父親・母親・祖父・おまけに被害者(四歳の娘)にいたるまであやしい
疑心暗鬼のかたまりになって読みました

二転目はすごく驚かされましたが、三転は……必要あったのだろうか
あまりこねくりまわし過ぎてかえって面白くなくなったように感じたのは私だけかな




戻り川心中 連城三紀彦 ハルキ文庫


「桂川情死」「菖蒲心中」という、二つの心中未遂事件で、二人の女を死に追いやり、自らはその事件を歌に詠みあげて自害した大正の天才歌人・苑田岳葉。
しかし心中事件と作品の間には、ある謎が秘められていた……。
日本推理作家協会賞受賞の表題作をはじめ、花に託して、美しくも哀しい男女のはかない悲劇を詩情豊かに描き切る「花葬シリーズ」



<感想>

いつも言うようだけど、なにかの賞を取った作品と、新人さんの本は面白い!(最近の新人さんは外れもあるけど)

本当に美しい文章と、美しいミステリと、美しい会話と……上級のミステリを読んだ満足感で一杯!
でも、連続して読むのは疲れるので、けっこう時間がかかったんですが
きっと美しすぎるから疲れるんだろうな

藤の香
裏長屋に影が妙に薄い「代書屋」がいる
文字すら読めない色街の女達が故郷に出す便りを書いたり、読んでやったりする仕事だ
彼はある殺人事件の容疑者として逮捕され、そのまま獄中で死んでしまう

彼は本当に犯人だったのだろうか?
主人公は過去を振り返り、事件を整理しある結論に辿り着く

……きれいだ
文章も登場人物たちも犯罪さえきれいだ
きっと代書屋に同情しなくちゃいけないんだろうけど、こうも見事だとそれすら忘れてしまう
彼の行為を誰かに伝えたいとも思わないのは何故だろうか?
きっと実際の世の中もこんな風だからか?善も悪も実際こんなふうに境なんかないから?

菊の塵
明治42年 もと陸軍騎兵連隊将校・田桐重太郎が喉をサーベルで突き自害する
事件の夜その家の前を通りかがった縁で主人公は、この事件に興味を持ち真相を究明する

重太郎の妻セツは、武家の娘であり、寝巻きで自害した夫を不甲斐なく思い軍服に着替えさせようとする
ネタバレになるので詳しくは書けないが、この軍服も、この年代も、武家の娘であるという事もすべて意味がある
セツは墓に花盗人として現れていた そして主人公の疑問も、その花から生じる
死体から一部屋離れた土間に、なぜ血に汚れた花びらは落ちていたのか?

いまではとうてい共感できないセツの思いも、想像するのに難くない

桔梗の宿
遊興街の溝川にその死体はあった
その事件を捜査するうち、主人公は薄幸の遊女・鈴絵に出会う
なぜかおどおどした口数の少ない娘に興味をだき、一晩その遊女宿に泊まる その宿には白い桔梗があり、死体はその桔梗をにぎっていたからだ
捜査が行き詰まるうち、第二の事件がおこる
前回と同じ状況で、今度は犯人と目されていた男が死体となって発見される

あまりにも儚い思いなので、まさかそうとは思わなかった
鈴絵の思いに至らなかったのは、痛恨

桐の柩
主人公は萱場組の貫田というやくざに拾われる 貫田は事故で指を無くしていた
萱場組の組長は、十年ほどまえに大病をしたため、桐の柩をつくりそれを大事に保管している
主人公は二年前に死んだ親分の片腕・鴫原の愛人と親分、どちらかを殺すことになる それを決定するのは貫田
なぜ殺さなければならないのか?

なるほど……
すぐ殺しに発展するのはやくざものの欠点だが、まあ、そこはつっこみ所ではないわな
散りばめられた手掛かりはきれいに回収される これも美しい作品だ

白蓮の寺
戻り川心中
花緋文字
夕萩心中