工作員



白い壁。随分と高く天井をとったものだ。
ゆうに三階分くらいはあるはずの空間を、贅沢に吹き抜けに作っている。
天井に近い場所の窓は、ここから見れば小さいのだが、
壁伝いの細い回廊を渡って行けば、
そう小さいものではないと、すぐ気が付くだろう。
他の窓は、もちろんとても大きくて
そのどれもが磨き上げられているものだから、
鳥などがぶつかってこないかを心配しなくてはならないほどだ。
その窓の前には大きめの観葉植物が配され、
適度にアクセントを作っている。
そして同時に無遠慮すぎる夏の陽射しを
遮る役目も果たしている様だった。


「…………………………」



それでもオリヴィエには充分にまぶしいらしい。
幾度となく寝返りをうっているのだが、しばらくすると移動した太陽が
彼の寝顔を見に、葉のすきまを縫って遊びに来てしまうのだった。
オリヴィエにもわかっていた。
このまま寝ていると、南側の窓の向こうに広がる海までが輝きだし、とてもじゃないけれど
うかうか眠ってなどいられないほどの光の饗宴になるのだ。
時には光の中を泳ぐ魚のようにそのまぶしさを全身に受けることもあるけれど、
たいていはその前に浅く広いベッドから起きだし、
その日の気分でチョイスしたフレッシュフルーツジュースを飲みながら、
機嫌の良い海を眺めるのだ。
それが、この海を見渡す別荘での過し方だった。


「オリヴィエ様?」


しかし、今朝はまだベッドから離れないでいた。
そのうち、思った通り銀色の鈴を鳴らしたようにやさしい声が上の方から降ってきた。

「…あの、オリヴィエ様。…起きてください…」

オリヴィエがなかなか起きてこないものだから、
アンジェリークはとうとう痺れをきらせてベッドまでやってきたのだ。
やってきたはいいが、しかしそこで
本当に起こしてしまって良いのかという疑問が沸いてきたのだ。
何時になったら起こして、そんなことでも頼まれていれば別だが、
なにしろ何も頼まれていない。

「…どうしよう…でも…今日はオリヴィエ様のお休みの日だし…
寝かせてあげておいた方がいいのかしら………」


守護聖の仕事が、体力勝負の仕事ではないものの、
精神的に負担の多いものであるということは、
かつて女王候補だった彼女にも充分わかっている。
ベッドサイドに腰掛けると、オリヴィエの寝顔にじっとみとれた。
ノーメイクの彼は、むしろ端正な顔立ちがはっきりして美しい…
とアンジェリークは思っている。
白い肌に長く影を落す睫毛。
細く通った鼻筋。
どきりとするほどかたちの良い唇。
そしてヴェールのようにやわらかにかかる金色の髪。


「…男の人なのに…どうしてこんなにお綺麗なの……?」

ため息をついてしまうほど、みごとに美しい。
うっとりとしたアンジェリークはつい、やわらかな髪に手を触れてしまった。


「ありがと。でもあんたのほうがキレイだよ」

「!!」


そして、ぱっちりと目を覚ましたオリヴィエにアンジェリークは
細い腕をつかまれてしまった。
あまりの驚きに声も出ない。
なにせ、寝ているとばかり思っていたのだ。
まさに不意打ちとはこのことを言うのだろう。
オリヴィエから見上げるかたちになるアンジェリークは、
陽光に髪がきらめいている。
ノースリーブのワンピースから伸びた腕は白く、
折れてしまいそうにきゃしゃだ。

「おっ…起きていらっしゃったのですかっ」

恥かしさの中に、少しだけオリヴィエを非難するかのような声が混じる。
不用意に触れてしまったオリヴィエの髪。
走り出してしまった心臓。
まぶしい朝の光が、さらにアンジェリークを
心地良い不安へ迷い込ませていく。


「…おはよ。朝の妖精が遊びに来ると、
いい気分で起きられるものだね」

身を起こしたオリヴィエにあっさり抱きしめられ、
アンジェリークはうろたえながら辺りを見まわした。

「探したって見えないよ。
……朝の妖精ってのは、今私の腕の中にいるんだから。
どうしても見たかったら、あとで鏡でも覗いてごらん」

「…え…え?」


朝の妖精がやさしく起こせば、
誰だって気分良くベッドを出られると言うものだ。
もっとも、ほんの少しだけ、
妖精を捕らえてしまいたい衝動に駆られたとしても、
誰もオリヴィエのことを非難などできないだろう。
朝の妖精は、それほど魅力的なのだ…………。

透明な朝の光が、白い別荘にみちあふれ
みつめあった瞳のボルテージは
暑い夏を余計に熱くしているようだ。


Good morning, sir ?
Yes, good morning lady.




終わり

 


鯖虎:

かっちょいい朝ですね〜。

おしゃれです、さすがこーちゃん、さすがヴィエ様。

遠慮がちなアンジェちゃんが可愛いですね〜。

私の思い描く理想のアンジェちゃんですっ。