背中
「どぉ、痛い?」
と声をかけると、
「んー、フゥ・・・(鼻息)」
という返事が返ってきた。
切ないような、悲しい声だった。
数日前、彼女は部屋を掃除をしてもらった。
そのあと、急いで中に入ろうとした際、滑って転んだのだ。
その時、足が妙な方向に開いたらしい。
翌日は辛うじて立てたけれども、その次の日には立てなくなってしまった。
数日で治るだろうと思っていた父も、彼女の様子を見て、治療が必要と判断した。
そして診てもらった結果は、最悪だった。
骨には異常がないらしいが、靭帯をやってしまったのか、やはり立つことができない。
それは彼女にとって「死」に等しい。
彼女は「牛」である。
胃袋は4つあり、その中は発酵しガスが出ている。
立てないということは、そのガスが排出できなくなり、死ぬということだ。
朝、私は立てずにその場でクソやら小便やらしている彼女の背中を撫でた。
そして、ワラやらゴミが付いているのを払ってやった。
短い黒い毛並を撫でながら暖かい体温を感じた。
何度も撫でていると、手に茶色い皮脂がついた。
が、お構いなしに撫で続けた。
「いい子だよ、大好きだよ」
と、何度も言った。
その日、引取りの車が来て、彼女は生後4ヶ月の仔を残して去っていった。
行く先は言うまでもない。
バカなのかもしれないけれど、私はその夜、泣いた。
(2001. 9.28)
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随筆/essay