スポーツ(1学期)

人間にとって身体運動とは?

われわれ人類は動物である。動物とは動くもの、つまり身体運動をするものということだ。人間にとって身体運動は、呼吸、食料の捕獲・咀嚼、生殖行為から内蔵の動きにいたるまでの純粋な生物的側面もあるが、舞踏や演劇で表現したり読書をしたりするなど人間的な側面もある。その意味で、われわれの行っているすべての行動は身体運動ということができるだろう。実際、洋の東西を問わず優れた哲学者達は身体運動について現在にも通用する考えを示している。しかし、文明が高度に発達した現在、その身体運動が危機に瀕している。買い物に行くにも自分の足を使わずに車を利用し、一日中クーラーの中でじっと椅子に座りデスクワークを続ける。そして、その結果さまざまな健康障害が起こっている。こういう現状の中で、われわれはもう一度身体運動の意義について考える必要があるだろう。だから、20歳前後という身体的にも社会的にも「完成期」を迎えるころに、身体運動の授業を受け自分の身体について学ぶことは大変価値あることなのだ。

健康とは?体力とは?

ところで、「健康」であるということや「体力」があるとはどういうことであろうか?僕達はしばしば、病気がないことを健康と考えスポーツテストでよい成績を収めることが体力のあることとと思い込みがちである。しかし、それは違う。健康とは、環境に適応しその人の能力が十分に発揮される状態のことである。決して「〜でない。」という消極的な定義で考えるべきものではない。また、体力にしてもスポーツテストによって測られるのは体力の一端に過ぎない。体力と呼ばれるものは、大きく身体的要素と精神的要素に分かれ、それぞれの要素内で行動体力と防衛体力にわかれている。(スポーツテストではかれるのは、身体的要素の行動体力、つまり体力全体の4分の1である。)この2つの概念は、正しく理解しておくことが望ましい。スポーツを通して健康になろう、体力をつけようと思っても、その目標が誤っていたら何の意味もないからだ。中途半端な健康を健康と思い込むことや、精神と身体のバランスの取れていない体力は害を生むことさえあるのだ。

生物にとって身体運動とは?

では身体運動を、生物という面から見るとどうなるだろうか。人間の体は何兆個もの細胞からなっており、その細胞がDNAの指令の下、さまざまな器官・組織を作っている。その器官や組織はホルモンなどを利用して常に身体を同じ状況に保とうとしている。(これをホメオスタシスという。)人間がさまざまな行動をするとき必要なエネルギーは細胞中のミトコンドリアによって作られている。そこでできたATPを消費しながら、われわれは筋肉を収縮させたりしているのだ。このように活発に動いている身体も、細胞レベルでみると生と死が繰り返されている。われわれは古いものは死に、新しいものが生まれるという生命の神秘の上に立って生きている。機械に囲まれ情報があふれ頭ばかり大きくなった現代人は、このような人間の生命的なものに思いをはせ自分の人間的・生命的部分を取り戻す必要がある。

心拍数と身体の負担

運動をしているとき、私達の体にはさまざまな負担がかかっている。大きくいえば、生理的負担・心理的負担・力学的負担の3つである。生理的負担は、心拍数によって計測され、簡単に言えば生態の酸素摂取量である。20歳の成人の場合、心拍数はHRrest(生命を維持する上での心拍数の最小値)である60拍とHRmax(同じく最大値)である200拍の間であるが、平常時は100以下である。

心理的負担は、運動の主観的強度で測られる。たとえば、ジョギングをしているときに「楽だ」「きつい」などと感じるが、それが運動の主観的強度である。実は、この心理的負担と先に紹介した生理的負担には相関関係がある。「きつい」と感じているときは、心拍数も高くなっているのだ。

力学的負担は、運動の物理的分析結果(仕事やパワー)によって判断される。たとえば、学校の最寄駅の階段(高さ約4メートル)を上ったとき、生体は運動の速度にかかわらず物理的には4(m)×体重(kg)×9.8分の「仕事(単位はJ)」をしたことになる。(最近食品にその食品のカロリーが表示されることが多くなったが、ここでいうカロリーは4分の1Jのことだ。だから、カロリーの消費には運動の速さはあまり関係がない。)そして、この仕事を時間で割ったのが仕事率すなわちパワー(単位はW)である。

エアロビクスとは?

ところで、このパワーの大小は運動とどのような関係があるのだろうか?このパワーの大小は運動強度の強弱である。パワーが大きくなれば運動強度も増す。同じ仕事の運動をしても、短い時間でやれば(つまり、パワーを大きくすれば)運動強度は上昇するのだ。そして、この運動強度の違いは生体の代謝に影響を与える。すなわち、運動強度の違いによってATP(アデノサンリン酸。これを組成するリン酸が離れるときに生じるエネルギーが生体の運動のエネルギーとなる。)合成のために使用される物質が異なるのだ。運動強度が高い場合、無酸素性のCP(原料はクレアチンリン酸)系や解糖系(原料はグリコーゲン)でATPを合成する。運動強度が低い場合、有酸素系(原料はグリコーゲンや脂肪)でATPを合成する。エアロビクスといえばダイエットの代名詞であるが、それはエアロビクスすなわち有酸素運動が脂肪を燃焼させる運動だからである。

理想的な運動とは?

以上のことを考慮に入れると、理想的な「運動」像が生まれてくる。「強度はややきついぐらいで、時間は20−30分、頻度は週3回くらい。」というものだ。強度が「ややきつい」ぐらいなのは、有酸素運動を行うのに適した心拍数が主観的強度との比例関係から「ややきつい」と感じるときの心拍数だとわかっているからであり、時間が20分ー30分なのは先ほど書いたように有酸素運動が運動強度の低い運動だからである。この合理的な運動像は、「運動処方」と呼ばれている。



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Last Updated:5 April 2001
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