短編小説 2003/9
日常生活を小説のような感じで書いてみました
2003.10.12
9月の第1週、週の半ば。時刻は夕方の5時を少しまわったところだ。
彼はオフィスで電話をかけていた。
電話の相手は、今夜仕事の打合せで会う予定の人物だ。
「急に降ってきましたね。今夜は中止にしますか」
彼は答えた。
「そうですね。この雷雨ですから。また日を改めて」
「それでは、そうしましょう」
「今度はこちらから連絡をしますよ」
彼は電話の相手にそう告げ、受話器を戻した。
つい1時間程前から、彼のオフィスがある都心では、激しい雷雨にみまわれていた。
時折、ものすごい雷鳴が近くで響いていた。
彼はデスクの時計をチラッと見た。時刻は午後5時20分だった。
彼はデスクの上に置いてあるシガレットケースから、タバコを1本取り出し、口にくわえたまま、
同じフロアの非常階段へと向かった。
非常階段へ出た彼はポケットからライターを取り出し、タバコに火をつけた。
大きく、深く吸い込み、静かにゆっくりと煙を吐いた。
雷鳴が近くの空で響いている。
激しい雷鳴に彼は空を見上げた。
雨と共に強い風も吹いている。先程から、全身に雨滴が当たっていた。
彼は目を細めながら、ゆっくりとタバコを吸った。
タバコを吸い終えた彼は、ポケットから携帯用の灰皿を取り出し、タバコの火を消した。
非常階段からビルの中へ入り、デスクへと向かった。
デスクの上の時計を彼は再び見た。時刻は午後5時30分をまわったところだった。
彼の職場は午後6時に規定の就業時間を終える。
彼はデスクの上に散乱している書類を整理し、片付けた。
一通り片付けて、冷蔵庫の中に入っているミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、グラスに注いだ。
彼はグラスの中のミネラルウォーターを半分ほど飲んだところで、再びタバコをくわえた。
同僚が彼のデスクのところまでやってきて、雑談が始まった。
彼はタバコに火をつけ大きく吸い込み、同僚と雑談をした。
彼はデスクの上の時計に目をやると、時刻は午後6時だった。
外はまだ激しい雷雨だったが、彼は同僚に挨拶をしてオフィスを出た。
エレベーターで1階に降り、オフィスのあるビルの玄関に出て、傘を開いた。
簡易的なビニールで出来た傘なので、彼の体型からすると、かなり小さい。
彼は雷雨の中オフィスの近くにある環状線の駅へと、少し早足で向かった。
オフィスのあるビルは、駅へと向かう坂道の途中にある。坂道を下り、左へ曲がると、駅へと続く商店街がある。
雨は依然強く降っている。
彼は環状線の駅に着いた。駅員のアナウンスでは、落雷の影響で、環状線は全て運休しているという。
雨の中再び彼は、オフィスへ引き返した。
オフィスのあるビルの玄関に彼はたどり着いた。
雨と風の影響と、彼にとっては小さ過ぎる傘で、彼の衣類は濡れていた。
傘を閉じ、ポケットの中からハンドタオルを取り出し、雨滴を拭った。
彼はエレベーターでオフィスのあるフロアに上がった。
オフィスにはまだ何人かが残っていて、雑談をしながら、テレビの天気予報を見ていた。
同僚の一人が
「あれ、帰ったんじゃなかったのか」と彼に尋ねた。
「落雷で電車は全て停まっているよ」
彼は答えた。
「首都圏の電車は全て停まっているよ」彼は答えた。
首都圏の電車は、この雷雨の影響でほとんどが運休していたり遅れがでていたりしていると、
テレビの中で、アナウンサーは伝えていた。
彼はポケットからタバコを1本取り出し、口にくわえライターで火をつけた。
彼はそれからしばらく同僚のとの雑談に加わり、とりとめもない会話を交わした。
彼は壁掛時計に目をやった。時刻は午後の7時を10分程まわっていた。
タバコを1本取り出し、ライターで火をつけ、再び彼の同僚との雑談を楽しんだ。
まもなく彼の携帯電話が鳴った。
「もしもし」彼は携帯電話に出た。
「よう!今お前のオフィスの近くにいるんだ。この雨が上がるまで付き合えよ」
電話の相手は彼の高校時代の同級生だった。彼のごく親しい友人の一人である。
「電車は止まっているよ」彼は答えた。
「いいから出て来い。ここまでひと駅だから、タクシーで来ても時間はかからないはずだ」
「わかった。では今いる場所を教えろよ」
電話の相手は簡単に、今いる店の名前と場所と電話番号を彼に告げた。
彼はメモを取った。店の場所と電話番号を書き取ったメモを、彼は上着のポケットに入れた。
再び彼は同僚に挨拶をして、オフィスを出た。
雨は先程より小降りになっていた。傘を差してオフィスのあるビルを彼は出た。
雨の中、駅とは反対方向へ彼は歩き、表通りへと出た。交通量はそれほど多くはなかった。
タクシーはすぐに捕まえることが出来た。彼は運転手に目的地を告げた。
彼の乗ったタクシーは目的地へは5分程で到着した。
彼はタクシーを降り、傘を差して歩いた。
人混みの中を彼はターミナル駅へと向かった。
まだ電車は止まっているらしく、ターミナル駅は大変混雑していた。この駅を彼は通勤で使う。
その為、この駅周辺の地理に彼は大変詳しい。
待ち合せの店はターミナル駅から歩いて5分のところにあった。
店は裏通りに面して建っている焼き鳥を中心に食べさせる店だ。
彼は店内に入り友人の姿を探した。店内の奥のテーブルから彼の友人が手を挙げて彼を呼んだ。
「よう、こっちだ」
「久しぶり、何ヶ月ぶりだ。4月の初めに会って以来だから、5ヶ月ぶりか」
彼は友人に対してそう言った。
「まあ座れよ」
彼は店員にビールを注文した。この店に来るのも何年ぶりだろうかと彼は思った。
間もなく彼のビールがテーブルに運ばれてきた。
「今夜の雨は異常だな。首都圏の鉄道は、ほとんど麻痺状態だ」彼は友人にそう話した。
彼の友人、恭介も頷き「だからオマエをここに呼び出したんだ」と言った。
「ところで、オマエと高校3年の時同じクラスだった、北村っていただろう。あいつは遂に彼女になったぞ」
恭介は言った。
「ほんとか!それは」
「ああ、ほんとうだ。俺は嘘を言わないよ」
「では恭介。おまえはその彼女になった北村を見たんだな」
「ああ、しっかりとこの目で見た」
「どんな感じだった?」彼は恭介に尋ねた。
「あまり、いい女じゃなかったなあ。元のつくりが男だからな。それに、どうしても高校時代のイメージが強すぎる」
「なるほど。見てみたいという興味はあるが、会いたくはないなあ」彼は苦笑した。
「高校の卒業式の日に、オマエは北村から告白されたんだろう」
「それは事実だが、あの時は学生服を着ていたんだ」彼は当時を思い出した。
高校の卒業式の日、誰もいなくなった校舎の片隅で、彼は北村に告白された。
卒業後は女性になるから、恋人として付き合ってほしいと。
彼は北村の告白を断った。
「どうだ。彼女になった今、オマエは北村と付き合う気はないか」恭介が笑いながら彼に尋ねた。
「冗談だろ。俺にだって恋人はいるんだから。それに俺は彼、いや今は彼女か。北村に興味が無い。
それに同じクラスといっても、それほど仲の良い友達ではなかったよ」彼は答えた。
「そうか、そいつは残念だな」恭介は笑いながら言った。
それからしばらく、彼等は高校時代の話題や、とりとめもない話に夢中になった。
彼は、ふと店の柱に掛かっている時計に目をやった。時間は午後9時20分を過ぎたところだった。
話題は尽きることは無かったが、彼は店を出る事を恭介に提案した。
彼等は店を出てターミナル駅へと歩いた。雨は小降りになっていた。
この駅を通る電車はすべて運転を再開しているようだったが、駅構内はまだ非常に混雑していた。
彼は恭介と別れ、改札口へと入った。
混雑している電車を2本見送り、彼は電車に乗った。
始発駅なので、彼は座ることが出来た。
混雑した電車の中で、彼は久しぶりに高校時代の出来事を思い出した。
アルコールのせいもあったが、久しぶりに仲の良かった同級生に会ってみたいと、彼は思った。
車窓からはまだ雨に濡れてる街並が見えた。
End...
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