甘い水

こっちの水は苦いよ。
こっちの水は甘いよ。

DEARにて初発表。


ざわざわとざわめく。虫がジンジンと鳴り、カエルはげこげことうなるような闇の中、わたしはお兄ちゃんとふたりでみつけた秘密基地にいた。今日もお父さん、帰ってこない。お母さんは、どっかに行っちゃった。 お兄ちゃんは手をつないで、毛布を持ってわたしの手をひいた。 わたしとお兄ちゃんが、兄妹になったのは少し前、2年前の5月くらいだ。お兄ちゃんと一緒に、わたしにはお父さんもできた。お兄ちゃんはわたしと同い年で、生まれたのがわたしのほうが遅かったために、戸籍上兄妹でわたしが妹ということになったので、家族になった男の子のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ事になった。

「お母さん、きっと、またどこかに遊びに行ってるのよ」

「親父だってそうだよ。また、どっかに女つくって。こんな田舎で、どこでそんなに遊ぶ事ができるんだ」

お兄ちゃんは苦々し気にこぼした。

「モカ、外に出よう」

外に出てみると、蚊は沢山いたけど星は満天で、蛍が飛び交っていた。

「俺、蛍が大好きなんだ。でも、明日には死んじゃうんだよ」

目を細めて、そしてうーんと背伸びをしたお兄ちゃんの手をつなぐ。 お兄ちゃんは、にっこりして、

「どうした?モカ」
とわたしを呼んだ。わたしの名前はモカと言う。高木モカ。変な名前だと、ずっと嫌だったのだが、お兄ちゃんが来て変わった。嬉しい名前になった。お兄ちゃんに名前を呼ばれると嬉しくなる。嬉しくて嬉しくて、もっと呼んでほしくなる。そして同時にお兄ちゃんの名前も呼びたくなる。

「お兄ちゃん、わたしの名前、もっと呼んで」
「ん?モーカモカモカ」

騒げば騒ぐ程ここは静かで暗く、それでも蛍と月明かりが唯一の光として在る。それくらいの田舎だ。わたしは前、都会に住んでいてお母さんの再婚と共にここに越してきた。カエルや虫が多くいるのが嫌だった。でも、馬や牛に乗れるのは嬉しかった。水もきれいなので、蛍も多くいる。お兄ちゃんはココでずっと育ってきた。

「お兄ちゃん、あたし壊してくる」
「何を?」

蛍は明日、死ぬ。



index