白の足枷

わたしが貴方を愛した記憶も、
いつか、ヒトゴトに、
なってしまう。
かなしい。


DEARにて初発表。


貴方はあたしのかわりに呼吸もしてくれた。
貴方がすべてで、貴方が居なければ生きていけないと思っていた。

オリは、素敵な男の子だった。これまであたしが出逢ったヒトとはくらべものにならないくらい。

ある朝、とびきりのおしゃれをして、橋の上から身を投げようとした。すると、後ろからコエがして肩を知らない男のヒトにつかまれとめられた。その男のヒトは、あたしが飛ぼうとしていた地点に立ってあたしの靴を投げた。

「あれは君のかわりに死んでくれた。そして君も今死んだ。命をなくすことだけが死ぬ、ということではない」

男のヒトはあたしの手をにぎって、真剣にそう言った。短く切った茶色い髪に、銀色のピアス。どう考えても、あたしと同じくらいの歳なのに。あたしと、オリの初めて会ったのがそういう場面だった。


思い出しているのは、オリの優しいコエと、笑顔。オリに頑張れって言われたら、あたしはいくらでも頑張れる気がした。相談したら、オリは親身に考えてくれて、肩にもたれて泣いた時にはオリも泣いてしまって、照れくさそうに笑った。

どんどんオリにひかれていく。

罪悪感を背負って、それでもオリとなら平気だと思ってた。

3年くらい付き合って、そうしたらオリに好きな子ができて、あたしたちの関係はおわりになった。オリはひとこと、「ごめん」とだけ言ってあたしに背を向けた。

あたしは、お父さんがあたしの寝ている間に出て行ったときから、こんなことはわかっていたはずだった。お父さんの記憶といって、大きな手の印象しか思い出せないあたりから、こんなことはわかっていたはずだった。いくらつながったとしても、いつか、終わりが来る。それは突然すぎて、涙もでないくらい。わかっていたはずなのに。

貴方が全てで、いなければ死んでしまうと思ってた。

それなのに、あたしは生きている。こんなにも。


貴方の記憶に、あたしは残っていますか。





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