胸元にペンキ

あたしを、
変えて行くヒト。
変わるトキの恐さ。
あたしの強み。






涙を流す事なんてかんたん。嘘をつくことだってかんたん。露出した服を着るのもかんたん。キスをするのもかんたん。あたしにとって、ほとんどのことは容易なものだった。いつの間にか、そうなっていた。悲しいなんて思わない。あたしは、流れでそうなったわけじゃなくて、成長して行くにつれてこうなっていたんだから。

初めてのデートの時に、赤い爪を、秀司は噛んだ。マニキュアの味がする、とひとことだけ言って、帰って行った。2回目に会った時には、前髪が伸びたから切って、とあたしは頼まれて、切った。秀司は大人しく座っていた。秀司は喋らない。あまり、喋らない。

涙を流してみた。秀司は、ぼうっとして、あたしの髪を撫でた後、そっぽをむいた。反応がにぶいのかしら、とあたしは秀司を睨み付けた。修司はそっぽを向いたまま、

「ホントに泣いているの?」

と、ぽつりとつぶやいた。



3回目のデートの時に、白い耳を、秀司は噛んだ。おまえの耳は白くてましゅまろみたい、とつぶやいて、あたしを家まで送った。秀司は、あたしを楽しませようと頑張らない。あたしの笑顔は魅力的じゃないのか、と思ったら腹がたった。すましたカオをして、あたしの弱味を見つける。見つけられる。拾われる。

笑ってみた。秀司がくれたCDを聴いて。あたしは笑った。秀司は満足するカオすらせずに、あたしから目をそらした。



多分、キライなんだ。あたしのコトが。多分。なんでも、演じるコトができて、それを快感におもうあたしのコトが。



何よりあたしを苛立たせたのは、『あたし』だった。一生懸命秀司の気をひこうとしている自分が嫌だった。


いつの間にか秀司以外の男性とは一緒に眠ることはなくなったし、秀司の誕生日にしかプレゼント(初めてのプレゼントは洋服だった)はあげないし、秀司とおそろいのシャープペンを買ったし、秀司のマークがやけに手帳に出てくる(秀司とのデートのマーク、夕飯の会<秀司と夕御飯を作って一緒に食べる>のマークなど)が増えているし。



秀司はそれでも表情をゆるめない。どうしてか、ゆるめない。



多分、秀司はあたしのコトがキライ。
だけどあたしは、秀司が大好き。




index