![]() ![]() ![]() ![]() 手前の桜ん坊 頭の悪いヒトは大嫌い。 |
あたしの精神年齢が、同じ年の子よりも高かったのか、何を見ても馬鹿らしいとしか思えなかったこの頃。友達の悪口を言って悪魔みたいな顔をして盛り上がる(あの子たちは、戦争を「悪いコトだ!」とか言っておきながら、私生活で密かに戦争しようとしていて、そしてその戦争が大好きなんだ)女生徒。面と向かってはきっと言えないくせに、ネットの掲示板に暴言をはき捨てる男生徒。バカみたい。バカみたい。バカみたい。 面倒だったのは、そんなバカみたいな学校に毎日通わなくちゃいけないということ。正直言って、苦痛でしかなかった。唯一好きだと言えたのは、学校の図書館と、窓から見えるグラウンド。代わり映えのない空(空はあたしにとって、青か白かどちらかでしかなかった)の下で、一生懸命走っている野球部員。いつも、外を見ていると時間を忘れる。なぜなら、『そういう空間』だからなのだ。 今日もあたしは時間を忘れた。時計はいつか無くしてしまった。あたしは窓を開け、またいでベランダに出てぼんやりと本を読んでいた。するといきなり教師が、あたしのいる教室に入ってきて声をかけた。 「ねえ、戦争の演劇をやるの。地域の団体が。学生実行委員会をやってみない?」 あたしはそういう『ヒトのためになることをしましょう』っていうボランティアってモノが大嫌いだった。だけどどうして、やろうかという気が起きたのは、あたしにはよくわからない。燃える鉄球は、落ちそうなくらい赤い。そんな中でまだ、野球部は頑張っている。ココは、それだけ。 可愛らしい事務所だった。手作りの看板や、おとうさんとおかあさん、そしてあかちゃんがニッコリ微笑んでいるのれん。ココでは、はり紙教室とか、絵葉書教室というのも開いているらしい。どうりで、とあたしは見回す。そこに集まった学生というのは、この近所の学校のヒトで、みんな学校はバラバラだけども6人集まった。あたしを含めてふたりが女で、あとはみんな男の子だった。そしてみんな、あたしより年上のヒトばかりだった。あたしは礼儀正しくおじぎをし、自己紹介をした。 小さいコエの男は大嫌い。決断力のないヒトは嫌い。読解力のない女は大嫌い。わたしはこれに類するヒトを徹底的に見下していた。勿論心の中で。あまりに度をこすと態度に表れたりもするが。ココに来たヒトたちも、わたしの嫌いなモノに属するヒトばかりで嫌気がさした。人間なんかと話しているのは面倒だ。頭の悪いヒトは嫌いだ。あたしと、あんたたちは違う、という様子であたしはすいすいと仕事をこなし、話し合いにも積極的に参加した。 戦争を題材にした演劇。若い世代に見てほしい、とおばさまがたは言っていた。だったら戦争ってなんだろう、とあたしたちは話し合った。中心になったのは、実行委員長(このなかで一番年上の男の子)だった。殺人は悪いコト、大切なヒトが死ぬコト、無差別、虚しい。意見は出たけれども、そんなヒトコトじゃ言い表せない。あたしたちは体験した事がないから、勿論想像でしかないけれど。過去の話にしてはいけないんじゃないか。 「だけど、兵士で言ったヒトをせめるコトって出来ないと思う。そういう教育を受けて、それをすべて鵜呑みにしてしまうあたり、兵隊になって天皇万歳と言って死んだ兵隊さんのほとんどは、とても素直なヒトばかりなんだと思う」 「でも、そうなると、原爆を作ったヒトも教育を受けていて、それを落とせと言ったヒトも教育をうけていて、じゃあいったい何がよくて何が悪いの、という話にならないか」 委員長はきっと頭がとてもいいんだと思う。だから、会話をしていて面白く、討論になっても、あたしは反発せずに彼の言う事を理解し受け取る事が出来た。久々。あたしが、ヒトの意見を批判せずに聞けるのは。あたしはこのヒトのことがもっと知りたいと思い、彼の作業を遅くまで手伝いたいと申し出た。彼の話がもっと聞きたかった。が、残念ながら今日はこのあと絵葉書教室があるらしく、解散せねばならなかった。あたしは彼と一緒に帰ろうと思った。幸い、ココから帰り道は同じだと言う事を確認してあった。彼は快くOKしてくれた。 がらがらと戸を開け、おつかれさまでした、お先に失礼します、と挨拶して外に出てから、まだチャンと履けていない靴をトントンとした。椅子に座っていたからわからなかったけど、彼はとても背の高いヒトだった。彼は自分の学校での生活や、家での生活、進路の話等、色々な興味深い話をしてくれた。あたしはそれを真剣に聞いていた。知識があるヒトの話はとても面白いものだ。いつもは気になってしかたない、目玉焼きのような夕焼けも今日はほとんど目に入らないくらいだ。変わりに、あたしと彼の背の高さの違いがハッキリとした影になってうつっているコトを認識した。 その後、彼はあたしを誉めた。始終敬語遣い通しで、しかもそれが間違った敬語でないことを。最近の子にしてはスゴイね、とおじさんみたいなコトを言った。あたしはその発言に少し照れて、それを隠す為に笑った。そしてあたしは彼に最近の悩みごとを打ち明けてみた。同年代の子が理解できない。いつもどうしても、バカだって見下してしまう。 「ヒトを見下した瞬間に、ドコかで君も見下されているよ、多分」 彼の横顔は遠くを見ていた。 「でも君は、他の子よりも大人なんだと思うよ。今日の話し合いでも、しっかりしていた。とても最年少だなんて思えなかったよ。同い年の子じゃなくて、年上の人と話す方が楽しいなら、俺はいつでも話し相手になれるけど?」 「じゃあはまた今度、わたしにあなたの話をお聞かせください。あなたの話はとても面白くて興味深いのです」 ジャリ、ジャリ、という感触。ああココは砂利道なんだとやっと気付く。 index |