強い酸味、鮮やかな色の果実

2002/7/7執筆。
ある、七夕の夜に。
元は『強い酸味の鮮やかな色の果実』。

果物屋で働いている。都会とは少し離れた商店街にこの店は建っている。この商店街は風情があると思う。わたしは昔から、なぜだかココが好きだった。人々の息使いや、笑い声、そろばんの音、値切ろうとするおばさんに負けたなぁと頭をかくおじさんの笑顔。わたしはココで育った。それがとても幸福に感じる。そういう風景を眺めたり、音を聞いたりしていつも店番をしている。果物ももともと好きだったし、それに触れたり色の違いを見比べたりするのも好き。わたしに、『果物屋』はもってこいの仕事だ。

一緒に働いているのは高校生の男の子だ。かかとをふんだ形跡のあるアディダスのスニーカー。わたしはそれがイヤで、一度注意したことがある。

「潤一くん、かかと踏むのやめなさいよ。だらしないわ」

潤一くんは、ごめん、これからはしない、とすんなり謝った。彼はそれっきり、かかとを踏まない。たまにちらりと脱がれた靴を見ても、そういった形跡はない。一度の注意で直ってしまうなんて、この子はしっかりしているなぁと感心した。あれっきり、なのだ。彼は男だ。

母がずっと切り盛りしてきた果物屋を高校卒業した去年、継いだ。彼のアルバイトを許し、彼をいれたのもわたしだ。彼は学校が終わったらすぐに来てくれる。よく働いてくれている。

オレンジを並べ、ポンカンを並べる。かたちの違うごつごつした果物達。見ているだけで幸福。

「歩子さん、今日は仕事が終わったらリンゴを食べてもいい?」
「いいわよ。自分で切ってね。わたしのはウサちゃんにして」

わたしたちは仕事が終わったら、ひとつ果物を食べる。潤一くんがいつも切ってくれる。そして一緒にお茶を飲む。彼はなかなかの腕前で、リンゴやナシは普通にウサちゃんが作れるし、トマトをバラみたいに切ることもできる。今度、やり方を教わろうと密かに思っている。


潤一くんはあかちゃんが大好きだ。あかちゃんを連れた若いお母さんが来店すると、必ずコエをかける。あかちゃんのほほに触ってもいいですか、と。お母さんははじめはあっけにとられるが、すぐにニッコリ微笑み、勿論と頷く。大喜びで長くてガッシリとした人さし指であかちゃんのほほに触れる。

「歩子さん、やらかいなぁ、赤ちゃんは」

わたしにニコニコ上機嫌で報告し、お母さんに言う。

「とっても可愛いです」

そのお母さんはありがとう、と軽く首をかしげ、それからグレープフルーツとパパイヤを買って行った。潤一くんはまだニコニコしている。

「俺、赤ちゃんとか子供大好きなんですよ」
「ええ、そんなかんじするわね」

夕焼けの光が商店街の屋根から差し込んだ。店内にあたたかく入るその光が、潤一くんの目を細くさせた。ミカン色になった壁を潤一くんの肩ごしにぼうっと見ていた。そろそろ閉店の時間だ。



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