2000年12月20日
静岡市長 小嶋善吉様
野宿者のための静岡パトロール
事務局・笹沼弘志
野宿者の権利保障に関する要望書
不況が続き、失業率が上昇し続ける中、壮年期の男性の自殺率がガンによる死亡を上回るという深刻な事態が生じています。
そうしたなか、全国で失業や家族からの虐待など、様々な要因によって、公園や路上などでの野宿に追いやられている人々が増え続けています。野宿者は、住むところもなく、日々の食事にも事欠き、ときには若者による襲撃や心ない大人たちによる嫌がらせに耐えながらも、必死に生きている人々です。
昨年度の厚生省による調査によれば、全国で野宿生活をしている人々は2万人以上に上ることが明らかにされました。各地の支援団体の調査をふまえれば、それを遙かに上回る数の人々が野宿を強いられていると思われます。
わたしたちは月1回だけ、市内の中心部のみをパトロールして野宿者の方たちとお話をしていますが、その野宿者数は60名以上に上ります。現在、静岡市内で野宿する人々の総数については把握し切れていませんが、少なくとも100名を下らないであろうと思われます。
なぜ、これほどまでに多くの人々が野宿生活を強いられ続けているのでしょうか。
それは、日々の食事に事欠き、住居もないほどまでに生活に困窮する人々に対して、保護実施機関が、憲法および生活保護法で定められた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障しようとしていないからです。住居をはじめ最低生活条件がなければ就職活動すらできません。
現在、静岡市(福祉事務所)では、住居のない者には生活保護を与えないという、きわめて差別的な対応を行っています。昨年度の厚生省の「ホームレス」調査依頼をも無視し、一切調査を行わなかったことは、静岡市(福祉事務所)が、野宿者たちに対して差別と偏見を抱き続けてきたことを何よりも物語っています。
【生活保護法の原則】 そもそも、生活保護法は生活に困窮する者に対して無差別平等に保護を適用するとの原則を定めています(2条)。生活保護法が定めている保護の実施要件には、住居を有していることという要件は一切ありません。逆に、生活保護法は、住居のない要保護者に対しては、住宅扶助を現物支給するなどして、住居の保障を行うべき義務を定めています。これらの解釈については厚生省も当然認めているものです。
【静岡市(福祉事務所)による野宿者差別の現状】 しかし、静岡市(福祉事務所)は「居宅のない者の生活保護申請は却下する」との方針を採り、野宿者を生活保護から排除し続けているのです。こうした運用には一切法的根拠がなく、生存権を侵害し、法の下の平等(憲法14条)、無差別平等の原則(生活保護法2条)に反する重大な違法行為です。
福祉事務所は生活保護法の目的は自立助長であり、居住地のないものについては生活指導ができないので保護は適用できないと主張しています。しかし生活保護法では、居住地がないものについても保護の実施責任があることをはっきり認めており(19条1項2号)、なおかつ住居のない要保護者に対しては住宅扶助を現物給付するなどして住居を提供すべきことを定めています(30条1項、33条1,2項、38条6項)。
野宿者が要求しているのは、野宿のままほったらかしにして生活費だけ支給してくれということではなく、まず生活保護(住宅扶助)で住居を保障して欲しいということなのです。野宿させたまま生活扶助を支給しても最低生活保障義務を果たしているといえないことは当然のことです。福祉事務所が法に定められた義務を誠実に履行し、住居のない要保護者である野宿者に対して住居を含め最低生活保障を行えば、居住地も安定し自立助長のための指導も十分なし得るはずです。
そもそも生活保護法の本来の目的は最低生活保障であり、自立助長は副次的目的にすぎず、自立助長の困難を理由に最低生活保障を実施しないことは法の目的に明確に反します。また最低生活保障を行わずして自立助長など行うことはできません。
理由にならない理由で住居のない要保護者である野宿者に対する最低生活保障義務の履行を回避することは決して許されません。
【福祉事務所の窓口での対応と野宿者の生活保護申請権の保障について】 ところで、わたしたちが野宿者の方の生活保護申請の付き添いなどの援助を始めるまでは、福祉事務所は住居のない者は生活保護を申請できないと言って、窓口で乱暴に野宿者を追い払ってきました。わたしたちはこれが野宿者に対する差別行為であり、憲法、生活保護法を冒涜する重大な違法行為であると抗議を行い、これまでの非道な行為に対して謝罪と窓口での対応の改善を求めてきました。その結果現在は野宿者であっても生活保護申請を行いうることを福祉事務所も認めるに至りました。
しかし、なお野宿者に対する差別と偏見は強く残っています。なによりもまず、苦境にありながら必死に生きのびる努力を続けている野宿者に対する職員の差別・偏見を取り除くように求めます。そして、傷つき大きな不安を抱えながら、福祉事務所の窓口を訪れる野宿者に対して親身になって相談にのり、必要な支援を行うことを要求します。
【野宿者に対する住居の保障について】 野宿者が、野宿生活から脱し、最低生活を保障されるために、まず必要なことは住居の保障です。
先述のように「住居のない要保護者」である野宿者に対しては、保護実施機関は宿所提供施設などにより住居を保障すべき義務を負っています。しかしながら、現在静岡市は宿所提供施設を設置していません。
そればかりか、現在、福祉事務所は住居のない者には保護を与えないといった法的根拠のない主張を繰り返し、保護が欲しければ住居を自分で見つけてこいと理不尽な要求を野宿者に対して行っています。その結果、ようやく生活保護を申請したにも関わらず、住居を借りるための保証人がいないため保護を受けられないのだと断念させられてしまった人もいます。
民間の住宅ばかりか公営住宅でも、入居契約のためには保証人が必要とされます。しかし、野宿者は多くの場合、家族との関係が断絶しており、保証人となってくれる人がいないのが実状であり、アパート契約にこぎ着けることができないでいます。
福祉事務所はこうした事情を良く知っていながら、有効な対策をとろうとしないでいます。福祉事務所全体は「住居のない要保護者」である野宿者に対して住宅を保障する措置をとらず、結果として野宿生活を強い続けているのです。
「住居のない要保護者」である野宿者に対して、住宅保障を行うため、宿所提供施設を早急に設置してください。また、保証人がなくても入居可能な物件の紹介斡旋、保証人がなくとも民間住宅に入居できるような措置や公営住宅への優先的入居措置などをとり、より多様な住宅保障を実施してください。
【野宿者に対する医療について】 特に緊急的課題として野宿者への医療体制について抜本的な改善が必要です。現在野宿者が怪我をしたり、病気になった場合、健康保険が無いというだけでなく、お金も全くない場合がほとんどであり、医療扶助によって治療を受けるしか方法がありません。しかし、福祉事務所の窓口に行ってもなかなか対応してもらえないという実態があります。また、市立病院に行っても診察まで長時間待たされて結局診てもらえずにあきらめて帰らざるをえないとか、十分な診察や治療を受けられずに返されたという事例が多くあります。
福祉事務所での野宿者に対する医療相談体制を抜本的に改善して下さい。市立病院での野宿者への待遇を改善し、一般の患者と平等に十分な診察、治療を行うこと、その他の市内の病院に対して野宿者に対する診察治療上の待遇改善を求めることも必要です。
【野宿者に対する援護措置等について】 野宿者が野宿をしなくても済むように住居を含む最低生活条件を保障することが保護実施機関の義務ですが、その義務が履行されないために野宿を強いられている人々が現に存在しているという事実があります。そこで現在野宿生活をしている人々に対して、食料や衣類など日常生活必需品の供給、入浴や洗濯のための施設の設置など応急援護措置を実施することも必要です。
静岡市が、野宿者の人権と個人の尊厳を尊重し、憲法および生活保護法が定める「最低生活保障」の義務を、誠実かつ無差別平等に履行することを強く要求します。
【要望事項】
(1)
野宿者の生活実態等について把握すること。野宿者への偏見を解き、野宿者の人権保障を行うため、まずなすべきことは野宿者の生活実態を明らかにすることです。しかし、静岡市は、厚生省の調査要請があったにも関わらず、野宿者の実態を把握するための調査を行っていません。
寝場所をようやく見つけても追い出しを受けたり、日々の食事を確保するため何時間も歩き回ったり、若者たちの襲撃や大人たちの嫌がらせを受けながらも必死に生きのびている野宿者の生活実態を是非把握してください。
(2)
福祉事務所の窓口における野宿者に対する差別的対応を厳しく諫め、職員の野宿者に対する偏見・差別を除去するための措置をとること。野宿者の皆さんやわたしたちの抗議の結果、福祉事務所の野宿者への対応も若干改善されましたが、今なお偏見に満ちた対応をする職員も少なくありません。これは憲法13条個人の尊重、14条法の下の平等、生活保護法2条無差別平等の原則に著しく反する違法な行為です。野宿者の人間としての尊厳を尊重し、保護実施機関に相応しい対応をとるように要求します。
(3)
野宿者の生活保護申請権、争訟権など手続的権利を保障すること。野宿者に対して生活保護の申請もさせずに追い払うことは生活保護法で保障された生活保護申請権の侵害であるだけでなく、違法不当な行政に対して不服申し立てを行う権利をも剥奪するものです。
また、現在野宿者に対しては申請を却下した場合であっても、却下決定通知を行わないという差別的な取り扱いもみられます。これも争訟権を侵害する重大な違法行為です。野宿者に対しても法によって定められた手続により、申請権、争訟権を保障し、決定通知を法定期限内に行うように要求します(生活保護法第24条)。
(4)
野宿者に対する相談体制を確立し、街頭相談などを実施すること。極度の困窮状態にある野宿者に対しては特別に手厚い相談体制をとる必要があります。従来の福祉事務所の非人道的な対応や、生活保護法などの制度について十分な知識を持っていないことなどが災いし、福祉事務所の窓口に訪れることすらできずにいる野宿者が多くいます。彼らに対しても適切に保護を実施するために街頭相談を行うように要求します。なお、厚生省は再三にわたって野宿者に対する相談体制の強化を指示しています(「ホームレス問題に対する当面の対応策について」1999年3月8日、「社会・援護局主管課長会議資料」2000年3月3日)。
(5)
「居宅がない者の申請は却下する」といった法的根拠のない、違法な生活保護運用を即刻改めること。現在福祉事務所は「要保護性があり補足性の原理に照らして保護の要件を満たす場合であっても、居宅のない者の生活保護申請は却下する」との方針をとっています。
しかし、生活保護法は生活に困窮した者が定められた要件を満たす場合には無差別平等に保護を適用すべきことを定めており(2条)、保護実施要件には住居を有することは含まれていません。むしろ、「居宅」のないものについては宿所提供施設その他の方法により住居を保障すべき義務を保護実施機関に課しています(14条、30条、33条、38条)。
静岡市の生活保護運用は憲法、生活保護法に著しく反する違法なものです。
憲法、生活保護法に則り、野宿者に対する無差別平等な生活保護の実施を行うように要求します。
(6)
「住居のない要保護者」である野宿者に対して、住居を含む最低生活保障を実施するため、1)宿所提供施設など保護施設の整備、
2)公営住宅への優先的入居および契約における便宜の供与、
3)保証人を必要としない民間住宅の開拓と斡旋、
4)保証人がなくとも民間住宅への入居契約を行い得るように、
公的保証制度を設けること、
などの措置をとること。
生活保護法は、住居のない要保護者に対しては、住宅扶助を現物給付するなどの方法により、住居を保障すべき義務を保護実施機関に課しています(14条、30条、33条、38条)。厚生省も「ホームレスの自立支援方策」として「宿所提供施設の拡充と併せ、多様な居住場所の確保」が必要であると認めています(「ホームレスの自立支援方策について」1999年3月、1頁および「社会・援護局主管課長会議資料」2000年3月3月、29頁)。
最近建設省が公営住宅の福祉目的への利用や高齢者の住居確保のための支援策、家賃保障のための基金の設立を計画しており、これらの施策の必要性は国も認めるところとなっています。住宅入居の公的保証制度については川崎市の住宅基本条例、大阪市の生活保護施設連盟の「住居賃貸借契約保証制度」とそれへの大阪市の資金提供など自治体での取り組みも進んでいます。
(7)
野宿者に対する医療相談体制の抜本的改善を行うこと。1)福祉事務所における野宿者に対する医療相談を改善すること。
2)市立病院に、野宿者に対する差別的な対応を改め、十分な診察、治療を行うように指示すること。
3)市内の病院に野宿者に対して十分な診察、治療を行うように要請すること。
4)福祉事務所と保健所等との協力により街頭医療相談を実施すること。
(8)
野宿者の一時宿泊事業や日常生活支援のための援護を行うこと。1)野宿者に対して一時的に宿所を提供するための臨時宿泊事業、とりわけ冬季の臨時宿泊事業を実施すること。入浴、洗濯などを行うための設備を設置すること。
2)食料や衣類の配布を行うこと。
(9)
以上について文書で回答するように要望します。