脳科学からみた幸福論

幼児教育が脳をつくる  (日本会議兵庫県本部主催、教育シンポ6/7講演要旨)
                                         北海道大学医学研究科教授 澤口俊之

子供たちの問題行動は脳障害だ
子供や若者たちの問題行動は、脳科学の観点から言いますと、脳の中でも最も重要な場所である前頭連合野の機能障害なのです。
 たとえば、注意散漫で集中できない。キレやすくて衝動的。これが学級崩壊をもたらしているわけですが、今、小学校低学年で五パーセント。ここ十年で五倍に増えているという。
増えた理由は端的に言って、家庭の教育がおかしくなっていて、それで脳が正常に発達しなくなったんです。
 脳の発育には特徴があって、八歳くらいまでに成人の九十パーセントまでになる。つまり、最初に結論を言ってしまえば、小学校低学年までにちゃんとした教育をしなければ、その後は脳の構造上どうしようもないんです。ですから、私は小学校の低学年の担任には最も優秀な教師を配して、給料を二倍にしてやったらいいと思う。それくらい、この時期までが重要なのです。
 脳の発達とは、神経回路の発達なのです。これは五歳から八歳までがピークで、後は下がっていく。この下がるというのも大切で、つまり、脳は、いろんな可能性のパターンをつくっておいて、その中から良いものを選択していくんですね。盆栽みたいに枝を茂らせておいて、良いものを選んでいく。
その可能性を広げるには、ピークを迎える八歳までにいろいろなパターンの回路をつくっておかないといけない。ですから、八歳までの教育とそれ以後の教育とははっきりと分けなければいけないのです。

臨界期の環境は一生を左右する
脳の神経回路の発達の度合いは遺伝もありますが、環境要因も大きい。遺伝要因と環境要因とは大体六対四の割合です。
つまり、豊かな環境が脳の発達を促進し、逆に貧しい環境はそれを阻害するのです。
それにも、「臨界期」というのがある。臨界期とは能力の発達にとって決定的に重要な期間のことで、この期間の環境や教育内容が適切でないと脳の発達に取り返しのつかないことになる。
 これを人間に当てはめると、人間の脳の成長の臨界期はおよそ八歳。
この八歳までに貧しい環境に育つと、それ以降いかに良い環境に移しても脳の発達は阻害されたままということです。高校の先生方が苦労しているのは当然で、なぜなら今の高校生は幼稚園や小学校低学年までに、あまり良好でない教育環境に育ったと考えられるからです。

ヒトを人間たらしめる脳領域=前頭連合野
 ところで、人間の知能にはいくつも領域があって、それぞれの知能をつかさどる脳の領域があることが分かってきました。例えば、身体運動的知能は前頭葉、音楽的知能は側頭葉、空間的知能は頭頂葉というようにそれぞれの知能をつかさどる場所が決まっています。
文部科学省はそのことを知ってか知らずか、学校教育のカリキュラムは確かにこれらをカバーする内容が用意されています。
それは結構なことなのですが、肝心な所がぬけている。
それは、前頭連合野です。前述の各脳葉には、連合野という高度な働きをする領域があって、なかでも、前頭連合野は、最も高次元な働き、つまりヒトを人間たらしめる、感情を抑制する理性や集中力、社会性、そして、将来に向けた計画、希望や展望や夢、主体性、独創性、好奇心、達成感、などの機能をつかさどる脳領域なのです。

前頭葉知能を伸ばす教育環境とは
 それでは臨界期に前頭葉知能を伸ばす豊かな教育環境とはどのようなものでしょうか。
 まず、子供に夢、目標を持たせることです。それには好きに遊ばせたらいいんです。好きなことを自由にやらせ、主体性を持たせることで、好奇心と集中力が高まり、充実感、達成感を得る、すると、神経伝達物質のドパーミンの分泌が活発になり、前頭連合野のニューロン・ネットワークを豊かにします。
 又、これは大人にも有効ですが、有酸素運動。例えば五十歳前後の大人がウォーキングなどをはじめると、前頭連合野の働きが高まることが分かっています。子供が暴れ回って遊びまくるなんて言うのは、有酸素運動をやっているみたいなものですから、あれを無理に止めてはいけません。
それから自分より幼い幼児の世話をすることが前頭連合野を伸ばすことも分かっています。兄弟は三人以上いて、弟か妹の世話をするのがいいんです。その意味からすると少子化なんてとんでもないことですね。
つまり、複雑な人間関係のなかで適度なストレスを感じつつ、それをコントロールする経験が必要なんですね。その意味では兄弟がやたら多くて、年齢層に幅のある近所のガキ大将集団のなかでもまれるという貴重な体験の出来た一世代前以上の子供たちの教育環境というのは、とても恵まれていたと思いますね。
 ところで、逆に発達の天敵は、親の過保護、過干渉です。実際に、過敏で心配性の母親と完全主義の几帳面な父親との間に生まれた子供、つまり親から過保護、過干渉の教育を受けたと思われる子供が思春期挫折症候群になる率は高いというデーターが出ています。

父親の役割、母親の役割
 過保護、過干渉がいけないと言いましたが、これは乳幼児期を除くという重要な但し書きがついています。
生後一、二歳ころまでは母子密着型でなければいけません。この時期にお母さんはきちんとやるべき事をしないといけないのです。お母さんは添い寝を含めて母子密着型で乳幼児を育てないと子供の脳幹が働かなくなるのです。また母乳で育てた方がいいのは授乳のとき抱いてやる、あれがいいのです。そうやって一、二歳ころまではきちんとやっていれば、三、四歳ころから少しずつ離していけばいいのです。
 それから、児童の虐待、無視というのはとんでもないことです。虐待は当然ですが、無視も深刻な影響を子供に及ぼします。
 テレビゲームもいけません。ボケ老人と同じ脳波の子供たちがいて、その子供たちに共通していたことは一日に二時間以上テレビゲームをしていることでした。実際、彼らは物忘れが激しく集中力に欠け時間感覚が欠如している。明らかに前頭連合野の働きの低下です。
 一方、対照的なのが読書です。前頭連合野は読書中には活動していて、テレビゲームの最中には活動していないというデーターがあります。
乳幼児には、お母さんの読み聞かせがいいということが分かってきています。
 次に父親の役割についてですが、人類の基本的な社会構造というのは、百人程度の集団なんですね。こういう社会での父親の役割は、家族の安定化です。家族を安定させるために子供に生活技術を伝え、社会規範を植え付ける。社会規範とは共存に必要な知恵ですね。これを教えるのが父親の役割です。

男と女は脳が違う
父親、母親の役割分担というと、男女差別だ等と妙なことをいう人達がいますが、史実として男と女は脳の構造が違っているんです。
男は空間的あるいは理論的能力が高い。また攻撃的。これは女性をめぐる男性間闘争のためです。
女性は言語能力に秀でています。男性の二倍というデーターがあります。それから細かい点に良く気付く。女性は細かい変化に敏感に反応しますね。
 ところで、男性が攻撃的なのは、テストステロンという性ホルモンの働きですが、この値がもっとも高まるのは二十代半ばから後半にかけて。このころに異性をめぐる男性間の闘争が激しいのでしょう。ところが、日本ではこの値が下がってきている。今、男性が女性化してきているんです。
 そもそも脳の原型は女なんです。
女性が基本形。ですから女の子は極端にいえば好きなことをさせていれば自然に女になるんです。ところが、男は男になる教育をしなければ中性化してしまうんです。
脳科学の立場からいえば、男は「男に生まれるのではなく男になる」のです。数百万年の人類の歴史のなかで男は男になるための努力をしてきたわけです。ですから男こそは社会の価値観をキチンともって、男の子はどうあるべきかを教えなければいけない。それなのにジェンダーフリーとかいって男の子も女の子も同じように育てるべきだといったら、男は女になってしまいます。既に日本の男性はそうなりつつある。

脳科学からみた幸福論
 幸せ間についての統計があるんです。どういうときに幸福感を感じるか。それによれば幸せとは家族をつくることなんですね。結婚して家族をつくった人のほうがそうでなかった人よりも二倍の幸せ感を抱いています。
 そもそも男女の脳はサイエンティクに違うし、母性愛もセロトニンという神経伝達物質によってもたらされるものであって、母性本能には生物学的根拠があるのです。そういう人類の数百万年の進化史を無視して、ジェンダーフリーとか男女の区別反対を主張して「母性愛は男性社会を維持するために押しつけられた幻想だ」とかいう人達は、一体どんな子供たち、社会を目指そうというのでしょうか。
 男は男らしく、女は女らしく、ぜひとも脳科学に基づいた子育てで前頭連合野を高めていただきたいと思います。
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