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前の職場ではベテランのおじさんたちのまねをして鼻歌を歌いながら作業をしていたものでした。単調で、危険の少ない作業の時に限りますが、時には替え歌を交えたり、インストゥルメンタルにしたりドラムのビートだけになったり、自分でも気がつかないうちに変調しては元に帰ったり滅茶苦茶なんですが、文句を言われたこともありませんでしたから暢気な職場だったのだと思います。冗談のようですがうるさい歌だと思ったら自分が歌っていたなんてこともありました。こういうときはのっている時で、スピードに酔って周りがかすんでなくなってしまったかのように没頭しているわけです。そのほうが疲れが来なかったりしますから労働者の智恵だともいえると思います。急に歌が止むときはえてして何か失敗に気付いたときですから周りもそれがよく分っていて遠くでニヤニヤ笑っている人がいたりします。
自分で仕事を始めてからは単品製作が主になりましたので、昔のように板の見付きを100枚削るなんていう体だけ使うような作業がなくなった分、暢気に歌など口ずさむことも随分と減りました。今から考えればあれは機械の騒音や周囲の人の動きなどから自分の世界を守ろうとするバリヤーの役目も果たしていたのかもしれません。
どういうわけか仕事中うたう歌は普段聞くものと違っていて古い歌謡曲や演歌になります。八代亜紀さんやら前川清さん、ダウンタウンブギウギバンド等が多く、共通項を探すと「ヘビーな歌詞に景気のいい曲調」というのがキーになっているような気がします。悲しい話なのに歌っている方があまりに入れ込んでいるので却ってありもしない戯言に聞こえてくるものや、歌い終わりに鮮やかなほどの笑みを浮かべたり、そのドライブ感が単調さを心地よく落ち着かせたものにしてくれる効果があるのでしょうか。ふざけたものではいけないのです。あくまでもまじめに取り組んでいてそれでも何か胡散臭い匂いを五感で感じ取れるものでないといまいち調子が出てこないのです。騙してやろうという意気込みにこちらもわくわくするというかこれこそ歌謡曲の醍醐味であり核であると思うのですが、近頃は思い込みの激しそうなものは敬遠されるのでしょうかね、若い頃の西城秀樹さんのような手のかかった無茶苦茶なものがトンとなくて、少々物足りない気もします。
この頃は仕事に慣れが出てきたためかまた少し歌が出てくるようになったのですが、新しいレパートリーでは椎名林檎ちゃんのものがいいですよ。耳で覚えたものですから歌詞は出鱈目ですが僕の中ではうまく調和しています。一人仕事の労働歌としてはあのわからん歌詞と意外ときれいに出来たメロディーがとてもうまくマッチして集中力を高めるいい効能があります。キツイ仕事に因る負荷を少しでも和らげてあげようとして曲を作ることもあるかもしれず、もしそうならお礼に椅子の一つでもあげたいくらいなのですが、まあ、迷惑がられるのが落ちでしょうから、それがだめならうちで漬けたキュウリの漬物のほうが喜ばれるだろうかとか、赤ん坊の玩具でも作ろうかとか要するに僕は単にミーハーなファンだってことでした。
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