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ようやく重い腰を上げて一年のうちで一番寒いこの時期、2月の15日から3日間旭川まで行ってまいりました。ナラ材を扱うものとしては一度は出向かなくてはならない北の聖地巡礼にいつかはという希望はあったものの数多の事情からずっと見送っていたのですが今回やっと参加出来ましたのもツアーを企画してくださった福島の小椋木材・渡辺さんはもとより、全方面にわたり援助してくださった栃木の設計士・増田さんのおかげです。とても充実した時間を過ごすことが出来ました。この場を借りましてあらためて御礼申し上げます。どうもありがとうございました。
この頃よく同業のものの話で中国のオリンピック景気のあおりで輸入物も含めナラ材は高騰するのではないだろうかという厭な噂がよくでるのですが、僕のような個人の仕事では使う量は高が知れているので何とかなると楽観視している面も正直なところある一方で他の伝統産業のように原材料の高騰から生活の利器としては普通の人手を離れてしまうようでは自分の今の仕事の趣旨とも合わなくなるので大きな不安材料ではあります。今回出かけてみましたのはそのために材のストックを確保しておきたいと思いついたのではなく、今後を占う意味で最先端の現場を見て判断したいなと考えたからです。お金があるならどんどんストックを増やしていけばそんな不安も他人事にできるのでしょうがそんな余裕などない以上どこまで無理すべきか考えどこです。

上の写真が土場の様子です。今年は例年になく雪が多いとのことでした。ここに写っているスペースが第二会場も含めた全体の十分の一といったところでしょうか。呆れるほど広いです。樹種を拾ってみるとセン・マカバ・メジロカバ・タモ・シナ・ナラ・イタヤ・カツラから変わったところではアオダモまで物件は広葉樹を主に約四千組、総数では1万点を軽く超えると思います。僕らにとってはもう宝探しみたいなものですから会場に足を踏み入れたとたん空気が軽くなった気分でいくらでも歩けてしまうし楽しくて飽きません。それにこちらの雪は聞いていた通り粉雪ですので足先も冷えませんね。展示品にはよく手が入っていて夕方には屋外展示分すべてにシートを掛け朝は早くから各々の材木が良く見えるようにたくさんの人が出て雪払いに励んでおられました。女性の方の働く姿がよく目に付きます。
町のスーパー同様、ここでも輸入された原料はかなりの割合だと聞いています。輸入が不良で国産が良だとも割り切れれば楽なのですが所謂優良材といえるものは少ないですから平均化すると品質は同等にも思えます。海外での無理な伐採に関する情報には心を痛めるのですが同時にそれらの流入が全体の価格の安定をもたらし多くの仕事を支えているのも苦いながら事実で、大切に使う、長く使えるもの、今の使用者が不要と判断しても他の誰かが譲り受けて引き続き使えるような価値ある加工を僕たちは義務として仕事を続けるほかいい考えも今は浮かんできません。
いつかこの仕事をやめる時が来るとしたら多分体がきかなくなるからだと漠然的に考えていましたし、他の理由も思いつかなかったのですが今考えるに新たに二つ、もう材がないからと諦めるのが一つ。少し木を休ませる時期がきたと自分で判断を下すというのが一つ。先の話をいましても意味のないことですが少なくとも2番目の理由だけは避けたいですよね。

上の写真は日中日が差して木材から蒸気が上がっている様子です。冬の朝の競馬馬の調教風景の美しさ・力強さを思い出します。
最終日は朝から入札です。目当ての物件の番号が読み上げられた折に所定の用紙に各自が希望価格を1立方メートルあたりの単価で書き込み投票し、約2分ほどで締め切られ即座に開票、購入者が決まります。なにしろ一日で4千物件さばくので投票と開票が交差してかなり手際よくハイペースで進行しますのであらかじめ金額は決めておいて、あとはその時の相場というか流れのようなものを確かめながらぎりぎりまでその数字を上げたものか下げたものか緊張しながら読む、といった少々博打めいた秘めた喜びもあります。他の市では後日関係者立会いのもとで一括で集計を取って落札者を決定するという方式を経験したことはあるのですがその方式ですと外来者はその月の市価相場が全くわからず予算通りの買い物がしにくいという難点がありました。ここでは同じような品質の物件も多数揃っていますから次のチャンスに賭けられます。予算を超えるようなら以降入札を控えることも出来ますから買いすぎをあとで後悔する心配がないので僕らのようにぎりぎりで海を超えてきたものにはいいシステムです。主催者側からお昼も用意していただけますし、大助かりです。

シュリザクラも欲しかったのですが品不足から高価で早々とリストから外しました。僕の今回の選択基準は単純で目の詰まった色のいいナラ材のみです。初日約30点ほど条件に合うものを探し二日目には予算との兼ね合いから10点に絞込み最終日入札する5点の金額を決定し、4点札入れした時点で3点落札し予算達成したのでそこで仕事は完了。上の写真中央にあるナラ材は長さ2.4m、径72cm目の詰んだとても気に入った1点です。このような比較的短くアカタの外周が真丸くない丸太はツキ板屋さんなどの業者さんが敬遠しがちだと係りの方の説明を受けていましたが、僕らのような家具材に使うものには支障はありません。却って手ごわい競争者が少なく狙い目です。しかし欲にあおられて馬鹿な値段をつける金銭的な余裕などないわけですから幾度も書き換えを繰り返した数字を最後は気合で書き込んで、長い2分を待ちそれが我が物になったと判った時には正直うれしくて、帰り道そこここで目にした外気温の表示も全くの冗談にしか思えませんでした。
で、落札した単価ですがここには表示はしません。板になって自分の手元に届くまでにはその上に市場参加費・北海道から製材所までの運賃・製材費・製材所から自分の工場までの運賃(これは自前でも出来ます)、自然乾燥のための手当て(僕の場合これは自分でやれます)などを重ねていくと総費用は元値の2倍以上にはなると思います。それでも小売店さんから乾燥済みのものを買うより安価ですし、いろいろ大変な思いもありますがやはり気に入った木でいつか何か自分の手で作れるかと思うと夢が広がります。これはたぶんいつか椅子に姿を変えることになると思います。
今回の落札価格等を含めてこのような入札会に関することがお知りになりたければどうぞご連絡ください。同業の方の問い合わせも勿論歓迎します。

(追記 5月12日に上の材を製材してきました。写真にあるものは当たりの口で厚さ40〜60ミリの無欠点の板が10枚ほど取れました。幅は一番広いもので800くらいです。他のは節がたくさん出てしまったので34ミリに挽いて良いとこ取りで使おうと思います。自然乾燥でいくつもりですので使えるのは4,5年後ですが気長にお待ちいただける方テーブル材にご予約いかがでしょう?
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