民法

1 能力

☆「権利能力」---自然人(人間のこと)は、生まれると権利、義務の主体となることができる資格を有する(民法1条の3)というもの。

(例外)胎児については、不法行為による損害賠償の請求(民721条)、相続(民886条)、または遺贈による財産の取得については、権利能力を有する、としている。

☆「意思能力」---意思能力とは、法律上の行為を行うのに必要な判断能力のこと。パニック状態とか泥酔状態では、しっかりとした意識状態ではなく、判断能力がない。そのような状態での法律行為(契約などをすること)は無効となるということ。

☆「行為能力」---行為能力とは、1人で完全に有効な法律行為を行うことが出来る資格、地位のこと。2つめの意思能力があるか無いかという判断は個々の行為について解釈されるが、行為能力があるか無いかは法律で一律に決められている。

☆民法上で「能力者」とか「制限能力者」というのは、「行為能力」があるか無いかのこと。つまり、通常の大人に比べて判断能力が不十分だと思われる人、単独では完全に有効な取引をすることが出来ない人は、法律上で定められていて、その人たちの保護を図っている。そのような制度を「制限能力者制度」といっている。

 

[1]制限能力者制度

☆制限能力者---未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の4種類。

☆制限能力者が1人でした行為は、原則として取り消すことができる。

☆その取り消しは、制限能力者自身も単独ですることができる。

☆さらに、その取り消しは、全ての第三者に対抗することができる。

☆対抗することが出来るというのは、主張することができるということ。

☆第三者というのは、当事者以外の別の人という意味。(例えば、AさんがBさんに土地を売ったとする。そして、BさんはCさんにその土地を売ったとする。この時のCさんが第三者である。)

☆悪意というのは「知っている」ということ。普段使っている悪意は法律上では「故意」という。反対に「知らない」ことを「善意」という。

 

(1)未成年者

●未成年者の定義

☆満20歳未満のものを未成年者という。

☆民法上、男は満18歳、女は満16歳になると婚姻することができる。(民731条)そして、婚姻したことによって成年者として扱われる。(民753条)その後、20歳前に離婚しても、そのまま成年者として扱われる。

●未成年者の行為能力

☆法定代理人(親権者もしくは未成年後見人(親がいない等の場合))が、その未成年者の法律行為に同意するか代理して行われなかった場合は、未成年者本人もしくは法定代理人は取り消すことができる。(民4条)ただし、次の行為は単独で行うことができる。

@単に権利を得、または義務を免れる行為。(民4条1項但書)

例)負担金でない贈与を受けること。

  借金の免除をしてもらうこと。

 債務の弁済(返済金の受領)を受けることは、債権の消滅をもたらすもので未成年者単独ですることはできない。

A処分を許された財産の処分行為。(民5条)

例)こずかい等

B一種または数種の営業を許された未成年者はその営業に関しては成年者と同一の能力を有する。(民6条1項)

 逆に言うと、営業の範囲外は単独でできない。

 その許可が取り消されると、いままでの許可には影響がなく将来に向かって許可の効果は消滅する。

●未成年者の法定代理人には

☆代理権、同意権、追認権、取消権がある。

 取り消すことができるとは、未成年者が同意を得ずに単独でした法律行為は、取り消すまでは一応有効。そして、取り消した場合には行為のときまでさかのぼって始めからなかったことになるということ。

注)無効というのは一応有効とかは全くなく、とにかく最初から効力はないということ。

 未成年者(制限能力者)ということで取り消された場合、その法律行為によって未成年者が取得した物や金銭は不当利得として相手に返す義務が生じるが、未成年者の場合、現存利益に限定される。(但し、生活費はダメ。)

 未成年者を理由とする取消の効果は絶対か.....民法は未成年者の保護を徹底していて、善意の第三者でも保護されない。

 

(2)成年被後見人

●成年被後見人の定義

☆精神上の障害により、事理を弁識する能力(判断能力)を欠く常況(状態)にある者については家庭裁判所は、本人、配偶者、4親族内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、または検察官の請求によって後見開始の審判をすることができる。この審判を受けた者が成年被後見人である。(民7条)

●成年被後見人の行為能力

☆成年後見人は、その成年被後見人の財産上の行為を代理する。(民859条1項)

☆成年後見人の同意を得て行った場合でも成年被後見人の法律行為は取り消すことができる。(民9条)

(例外)@日用品の購入、その他日常生活に関する行為は、単独で行うことができる。(民9条但書)

A婚姻や認知などの一定の身分行為については成年被後見人は、意思能力のあるときに単独で行うことができる。

●成年被後見人の法定代理人(成年後見人)には

☆代理権、追認権、取消権がある。(同意権はない)

☆成年後見人は複数でも法人でもよい。(保佐人、補助人についても同様、ただし未成年後見人は1人に限定される。)

☆成年後見人だけでなく、成年被後見人本人も意思能力のある状態であれば、単独で取り消すことができる。

 成年被後見人が全く意思能力のない状態で行った行為は.......意思能力のない状態だったとして無効を主張してもよいし、成年被後見人の行った行為という理由で取消を主張してもよいとされている。

 成年後見人は代理権を有するが、全ての行為について代理できるか.......住居やその敷地の売買などの重大な行為について代理権を行使するには家庭裁判所の許可が必要。(民859条の3)(保佐人、補助人も同様)

注)許可を得ないで行った行為は無効と解されている。

 

(3)被保佐人

●被保佐人の定義

☆精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分な者については、家庭裁判所は本人その他一定の者の請求により、保佐開始の審判をすることができる。この審判を受けた者が、被保佐人である。(民11条)

●被保佐人の行為能力

☆一定の重要な行為を行う場合に保佐人の同意が必要。(民12条)そして、同意なしに行った行為は取り消すことができる。(つまり、ほとんどの行為は単独で行うことが出来、取り消せない)

●一定の重要な行為

@元本を領収し、またはこれを利用すること。(利息や賃料を受領することには同意はいらない。)

A借財または保証をなすこと。(消滅時効の完成した債務の承認に保佐人の同意は必要であるが、時効中断の効果を生じるにすぎない承認は、被保佐人が単独でできる。)

B不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為。

C訴訟行為をなすこと。(訴訟に応じることは、保佐人の同意はいらない。)

D贈与、和解または仲裁契約をなすこと。

E相続の承認、放棄または遺産分割をなすこと。

F贈与、もしくは遺贈を拒絶し、または負担付の贈与もしくは遺贈を受託すること。

G新築、改築、増築、または大修繕をなすこと。

H民法602条に定められた期間(山林10年、宅地5年、建物3年)を超える賃貸借をなすこと。(逆に宅地5年以内、建物3年以内であれば、保佐人の同意はいらない。)

●保佐人には

☆取消権、追認権がある。

☆代理権については、被保佐人本人が、請求または同意した場合に限り、家庭裁判所の審判によって特定の法律行為について保佐人に代理権を付与することができる。(民876条の4)

☆同意権については、前述のとおり、一定の重要な行為やその他家庭裁判所が必要と判断した追加行為(民12条2項)について認める。

被保佐人の利益を害するおそれがなく、同意を与えてもよいのに、保佐人が同意を与えない場合は.......家庭裁判所が、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可をすることができる。(民12条3項)

 

(4)被補助人

☆精神上の障害により、事理を弁識する能力が不十分な者については、家庭裁判所は本人その他一定の者の請求により、補助開始の審判をすることができる。この審判を受けたものが被補助人である。(民14条)

☆家庭裁判所が審判で定めた特定の法律行為(簡単に言うと、被保佐人のケースで、保佐人の同意を要する重要な行為の内容の一部)を行うときは、補助人の同意が必要。(民16条1項)そして、その同意なしに行った行為は取り消すことができる。(つまり、ほとんどの行為は、単独で行うことが出来、取消せない。)

●補助人(被補助人の手助けをする者)には

☆取消権、追認権がある。

☆同意権、代理権も付与されるが、家庭裁判所の審判による特定の法律行為に限られる。ただし、代理権については、民法第12条第1項に定めた行為の一部に限るという限定はない。

☆成年被後見人、被保佐人の場合は、本人以外の者の請求(例えば、配偶者、4親等内の親族、検察官など)があれば、各々開始の審判がなされたが、被補助人の場合は、本人以外の者の請求により補助開始の審判をなすには本人の同意が必要である。

 

[2]取引の相手方の保護

●取引の相手方は、取り消すことは出来るか

☆取り消すことができる者は、@制限能力者本人A法定代理人B承認人C同意をなすことができる者(保佐人、補助人)となっている。(民120条)つまり、制限能力者と取引をした相手方には、取消権はない。これではあまりにも相手方は不安定である。そこで民法は、相手方保護のために、いくつかの規定を設けている。

 

(1)催告権

☆制限能力者の相手方は、1ヶ月以上の期間を定めて、その法律行為を追認するか、しないかを確答するよう催告することが出来る。

@その制限能力者が、能力者になった後の本人に対して行った場合、その期間内に確答無ければ、その行為を追認したものとみなす。(民19条1項)

Aその制限能力者が、未だ能力者になっていないときに、その法定代理人、補佐人、補助人、に対して行った場合、その期間内に確答無ければ、その行為を追認したものとみなす。(民19条2項)

Bその催告が、被保佐人、被補助人に対して行われた場合、その期間内に確答無ければ、その行為は取り消したものとみなす。(民19条4項)

 追認とは.......取り消すことができる法律行為も、追認がなされると、確定的に有効(初めから有効)となる。ただし第三者の権利を害することはできない。(民122条)

 未成年者、成年被後見人に対してなされた催告は有効か.......未成年者の場合は、成年になった後、成年被後見人の場合は、後見開始の審判が取り消された後でなければ、催告できない。

 「みなす」と「推定す」の違いは.......「みなす」とは、法律上決まってしまうこと。(その後、反対の証拠が見つかっても、覆すことは出来ない。)」「推定す」とは、法が一応の判断を下すこと。(その後、反対の証拠が見つかれば、その判断を覆すことができる。)

 

(2)法定追認

☆「法定追認」とは、前述の催告に対する追認とは異なり、次に掲げる一定の事実があったときは、「その事実は追認とは違います」という異議を留めない限り、法律上当然に追認したものとみなす(民125条)という規定である。ただし、これらの行為を制限能力者本人が行ったとしても、法定追認にはならない。

@全部または一部の履行(所有権移転登記、売却代金の受領など)

A履行の請求(催告、残代金の請求。相殺の意思表示など)

B更改

C担保の提供(保証契約の取締など)

D取消しえる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡(成年被後見人の後見人が、売却代金債権を第三者に債権譲渡する)

E強制執行(強制執行を行うことであり、強制執行を受けることは含まれない)

 

(3)制限能力者の詐術

☆制限能力者が能力者であることを信じさせるために詐術を用いて相手方を信用させた場合、制限能力者は、その法律行為を取り消すことはできない。(民20条)

☆ただ単に黙っていただけという場合は、ここにいう詐術に当たらない。(判例)

 

(4)取消権の消滅時効

☆取消権は、追認することができるようになったとき、(未成年者は成年になった時/制限能力者は、行為能力を回復した時)から5年間行使しないと、時効により消滅する。または、法律行為をしたときから20年間経過すると消滅する。(民126条)