辻仁成
ニュートンの林檎(上・下) 集英社文庫 ★★★★★

今日まで会えなかったのにはわけがあるのさ。君が今までの人生で本当に出会った人間だと
思える人なら絶対また出会えるはずなんだ。人間の一生が一つしかないということはそういう
ことなんだよ。

人は運命という言葉を発見したばかりに、逆に運命から脱出できなくなってしまった。

アンチノイズ 新潮文庫 ★★★★☆

『応答願イマス』ぼくは口の中でそう呟いてみた。

フミがぼくの地図の中心だった。どこが好きなのかしら、と言ったフミの言葉がふいに蘇ってき
た。ぼくこそフミのどこが好きだったのだろう。自分の気持ちを知りたかった。ぼくは自身に問い
たいがために地図を作ってきたのかもしれない。

「あなたはいつも足元しかみていない。だからあんなふうに私を物としてしか扱わないの。あな
たの優しさは本当のやさしさじゃないんじゃない?」

ピアニッシモ 集英社文庫 ★★★☆☆

「演技よ。芝居なのよ。どうしてわからないの?ごっこなんだよ、ごっこ。わかる?遊びじゃな
い。・・・・・(中間略)・・・・・結構なりきってたじゃない。そうでしょう。違うの?皆、悲劇の主人
公になりたかっただけでしょうが。やっぱりバカよ、あんたなんか。」

僕は僕から遊離しなくてはならない。人間はあらゆるものから離れることによって、成長してい
く動物なのだから。

グラスウールの城 新潮文庫 ★★★☆☆

「どんな問題でも考え方によって、答えはいろいろ出てくる。正解はいっぱいある。といっても真
理がいっぱいあるわけではないがね。真理は一つだろうけど、そこえ向う道は無数にあってい
いはずなんだ。」

僕はもう一度その音を聞き取るために必死で耳を澄ませた。
                           (以上 「グラスウールの城」より)

普通かそうじゃないかの境界線がどれほどあやふやなものかと考えていた。

君が受話器を握りしめたまま、暗い居間にうつむいて立ちつくしているところなど、今の律子に
とっては、もう知ったこっちゃないのだ。

どこまで君は行くきなのか。もちろん、今の君にはわからない。止まるまで走るつもりなのだろ
うが今の君は、どうやったら止まることができるかさえ思い出せないでいるのだ。
すってすって、はいてはいて。
                           (以上 「ゴーストライター」より)

ミラクル 新潮文庫 ★★★☆☆

子供の頃はあったのに、大人になると無くなってしまうものがたくさんある。それらを幾つ無くし
たかで、人はどれほど大人になれたかを計るようだ。

「人間は現実の世界でしか生きていけない動物なのさ。子供の頃のことは皆大人になると忘れ
てしまうんだ。どんどんそういう純粋な記憶は薄れていってしまうものさ」

「さよう、寂しい動物なのさ、人間は。いずれアルも私たちのことを忘れてしまう。アルが一番最
初の記憶をすでに思い出せないようにね。これはある意味で仕方のないことだ。そうじゃないと
人間は過去に支配されて、未来を求めなくなってしまうからな」