悪魔っていうのは、簡単に出て来るものらしい。 簡単な「儀式」で、パッと出てきてしまった。
信用できない…。
でも、背中に翼を持ち、山羊のと似た角があり、 二本足で立っていて、細い尻尾を持っている。少なくとも、見た目だけは、 悪魔に違いない。
「望みは何だ?」
−コイツは、悪魔だ。間違いない。 なんと言っても、慣れた口調で尋ねてきた。 コイツ、けっこう仕事してるな、と思った。
それに、まさか望みだけ聞いて「はあ、そう、 がんばってね」とは言わないだろう。もっとも、それで帰っていったとしても、 儀式と言えないぐらい簡単な作業で出てきたヤツだから、 文句は言えないけど。
「私の望みですか?…えっと…」
本当に悪魔が来るとは思ってなかったから、何にも考えてなかった。 でも、目の前にいるヤツの風体は、妙に期待させられる。 ちょっと考えてみた。
そして、私の頭の中に思い浮かんだのは、 片想いの相手でもなく、幸せとかいった抽象的なものでもなかった。
「カネが欲しい」
「カネ?」
悪魔は、眉間にしわをよせた。
あれ、まずかった?…まずくないんじゃない?だって、 「とりあえずカネが欲しい」って言わない?普通じゃない?
「具体的な金額を挙げよ」
「あ、そっちのことね」
私が「カネが欲しい」と言ったことは、間違いじゃなかった。 ただ、一円でもカネだし、一万円でもカネ。 カネってのは、そういうものだから、金額を確認しないといけないのだろう。
「じゃあ百兆円」
「日本の国家予算は七十兆円。これすら越えるような要求は、 あまりに大きすぎる。受け入れられない」
「でも、千円とか言ったら、こんなつまらんことで呼び出すな、 って言わない?」
「千円と引き替えに魂を貰うというのは、少な過ぎる。 ある程度まとまった魂を貰えないと、まともな契約にならない。 なら、こちらも帰らざるをえない」
「じゃあ、百万円だったら?」
これには、悪魔も納得したらしい。悪魔は「分かった」と、 了承してくれた。
「では、具体的に、どのような体裁でそのカネが欲しい」
私には、何のことやら見当もつかず「へ?」と、間の抜けた声を 出した。
「分からんか?極端な例で言うと、百円硬貨一万枚で欲しいのか、 一万円札で欲しいのか、それとも既に預金されている形で欲しいのか。 え?どういう形で欲しいんだ?」
あきれた…。それぐらい、そっちで考えて欲しい。 悪魔ってのは、融通がきかない? …そんな話、聞いたことない。 ま、私の目の前にいる悪魔が特殊なのかも知れないけどね。 だいたい、簡単な儀式で来ちゃうヤツなんだから。
「悪魔って言ったって、大したことないでしょ? そういうのぐらい、自分で決められない?」
「何を言う。本当にカネが欲しいなら、それぐらい考えろ」
「はいはい。じゃあ、一万円札で」
できるだけコイツに関わりあいたくない。 さっさと百万円もらって、魂渡して、ひきとってもらいたいですね。
「早くお金出してよ」
そう言ってせかすと、悪魔め、人の話も聞かずに、 私の顔をじろじろ見はじめた。
「まずいな」
悪魔が、渋い表情をしている。
「どうして?」
悪魔は、その質問に答えず、逆に私に質問してきた。
「貴様、高校生か?」
私は「そうだよ」と答えた、正直に。
すると、悪魔は、私に背を向けた。
「未成年者との契約は保護者が遡って無効にできるからな、 契約できるわけがない」
そう言い残して、悪魔は、そそくさと帰って行った。
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