樹木の生長を極端に早める薬品が発表された。
この発明品は、一見地味だが、画期的である。 これを発明した者は「二酸化炭素濃度上昇に伴う地球温暖化を抑止に期待できる」 と言った。つまり、森林を片っ端から破壊して行っても、 その薬品を苗木に与えると、すぐに復旧されるのである。
この薬品は、特に熱帯雨林を持つ国々に歓迎された。 切って行く端から新たな樹木が生長し、切り倒されるのを待っている。 これらの国々にとっては、カネが後から後から生えてくるのだ。
環境保護を気にする必要もなくなった。 青々と生い茂る熱帯雨林は、常に保全されているのだから、 温暖化防止などというものをたてに、先進国から干渉される ことがなくなった。
切り倒された木は港に運ばれ、先進工業国に送られる。 熱帯雨林が保全されているなら、先進国も文句は言わない。 むしろ、紙を自由に使え、バルサ材などが安く手に入るのだから、 歓迎するところだ。
誰も文句を言わない。木材輸出国にも先進工業国にも利益を 与えた。この夢のような薬品は、ほとんどの熱帯雨林で使われることとなり、 木材が大量に生産されるようになった。
そして、木材の大量生産が始まって数年が過ぎた頃、 ひとりの木こりが、異変に気付いた。
人が入るために整備をしたわけでもないところなのに、 これまでよりもずっと楽に歩けるようになっていた。 気にしなければ、別段、変わりがないのだが、 足元をよく見ると、地面が見えないほどに繁茂していた草や背の低い木が 減っている。
木こりは、仲間にそのことを告げたが、気のせいだと言われたので、 そのまま沙汰やみとなってしまった。 幾人かは、やはり気付いていたのだが、それが異変だとしたら、 さっそく先進国が森林伐採に規制をかけるだろう。 それは、自分たちの仕事がなくなることを意味する。 誰も、黙して語らなかった。
それからさらに数年後、先進国の一部では、紙の買い占め騒動が発生した。 この騒動は、鎮まることを知らなかった。 熱帯雨林は、急成長した木材に栄養分をすっかり奪われて、 痩せた荒れ地となっている。
もう、熱帯雨林は、戻らない。