BLUE MOON



1 透明な星空

碧い満月には不思議な力があるって。
昔彼女が話してたっけ。

一月に2回満月が見られる事を滅多にないこという意味でBlue Moonって言うんだって。
これも教えてもらった事。

2007年06月30日。
その日、昇ってくる月は本当に碧いだろうか・・。
もし見ることができたなら、僕の願いは決まっている。

−−−

初めて見かけのは階段教室の窓際。その時から空ばかり見上げていた。何だか変な人というのが印象。

話すようになってから理由をきくと、真昼の星空を探していたんだって。
星の見えないこの街が嫌だってとも言ってた。

話し掛けるきっかけ何だったかな。
僕もきっと空ばかり見ていたんだ。あの青いキャンバスに何か描きたくって。
そう、それで彼女の視線の先にあるものが気になったんだ。

−−−

曇や雨が続く度、極度に沈む彼女をよくプラネタリウムへ引っ張って行った。
治療のようなボランティアのような。
地域の小さな科学館から、大きな天文博物館へも。学芸員さんと仲良くなる位何度も・・。

時々は山に星を見にもいった。その度にここに住んでしまいたいという彼女。帰ってくるのが大変だった。
戻ってくると、星の見えないこの街で、また空を見上げていた。



あれから、彼女は星を探して突然消えてしまって、どこに。
そして僕は、
理数系なんてさっぱりだったのに、おかげでプラネタに勤める事に。


スイッチを入れれば、真っ白なドームに満天を描けるようになったのだけれど、未だ真昼の星空の描きかたはわからない。


描けたら、きっと彼女は見つけてくれるはず。
あんなにも見上げていた彼女なら。
だから僕の願いは・・





間  雨

皆が寝静まった頃
天使の零した絵の具のせいで
街が赤に染まっていく。

明日はとても綺麗な朝焼けだろう


どうやって空を 青く 塗り直そう・・。




間 記憶

君は青星が好きと言った
全天で一番明るい、冬の星シリウスが


僕はアルビレオが好きだと思う
夏の夜、トパーズのような黄色い星に寄り添う5等星のサファイアが好き


追い付く事なく回り続ける・・・




2 BLUE

想い続ければきっと叶うと信じているから・・・。
君に声が届くことを信じて。


プラネタリウムに行こう。
特別な星空を見せてあげるから。

6月30日、今日の昼間の星空を。

いつもなら東の空から太陽が昇ってきました。と終わるプラネタリウム。
でも今日はそれが始まり。
朝焼けがなんだか綺麗過ぎる位ですね。(まだ絵の具落としきれていないんです。)

太陽の少し後をよく見てください。
全天で一番明るい星、シリウスが昇ってきています。
明るくて明るくて見えにくいけれど、君の好きな星が、昼間の星空・・・。

このまま時間を進めて行くと、太陽が西へ沈んで行きます。そして満月が・・・。

プラネタリウムでは、ただ白く丸く輝いていますが、夜実際の空では本当に碧く見えるでしょうか。

そして夏の大三角。その三角の中央くらいにアルビレオ。僕の好きな星。


さて外へ行こう。小さいけれど望遠鏡で太陽の脇を。くれぐれも太陽は見ないように気をつけて。
青星が見えるから。


後は夜を待つだけ。奇跡を信じるだけ。

あの青吸い取って この想い届けて
この空越えて 時間も越えて




3 ぬるい月

またひとつ真昼の星がなくなってしまったよ。あの頃何度も通った思い出の星が。
だから早く、早く戻ってきて。

−−−

結局去年の6月青い月は雲が邪魔して見られなかった。
だからその時の願いもそのまま。君はまだ帰ってこない。
だから今度は、そんな願いが通じたかのよう。

年に一度の投影機の点検。
レンズの埃取りから、ランブ交換、ピントやギヤの調整・・。一つ一つ丁寧に。また綺麗な星と感動を与えられますようにと願いこめつつ。

月投影機の動きの調子をみていた時、突然に、月が逆回転を始めた。
ドームの中で月が満ち欠けをしながら西から東へ流れていく。
何周も、何周も。過去へ遡ってく。


過去へ。記憶も一緒に・・・。


月明かりの山の中。
懐かしい景色かも。

小さな望遠鏡と寝袋持って、君とよく星を見てた。
君のポケットからはおやつが次から次へでてきたりして。

いつも本とかマンガとか、なんかおかしな話ばかりしてた。後、神話とかね。

一度だけ少し真面目な話になった時、君が真昼の星を探している、見つけるのが夢だって言ってたのが忘れられない。

そういえばこの山、その話した時の場所かな・・。
なんで今この景色が見えるのかな・・。
どうして・・。
ハテナマークばかりが頭の中を周っている。

もしかして・・?

と思った途端月が西へ沈んでいく。
西・・。
そっか、投影機元に戻ったんだね。


消える景色の中、頭の中で
「君はまだここにいるの?」
って言葉が響いていた。

あの日の月齢はいくつだったっけ?
満ち始めのシャープさも、まんまるでもなく、なんとなく"ぬるい"と言いあってた月。
上弦から数日たった時だよね。

そういえば月のない夜の方がよく見えるはずなのに、それは余り好きでないとも君は言ってた。


今度あの月齢になるのは来週。
休みは取れる。あの場所は今でも登れるのか?
いるはずないとわかってるけど、月明かりのあるその日ならもしかしたらとも思いたい。
外れても今は土星が綺麗だし。


どうかよい天気でありますように。
そして月明かりが君の顔を照らしていますように。




4 星の流れる

日が沈むのを見てた。代わりに星が輝き出すのも。

見え始めた星の数だけ君の好きなところあげてみようかなんて思ったのは、そうでもしないとこわくていられなかったのかもしれない。

心綺麗なところ。

自分をちゃんとわかっていて、気持ちに真っ直ぐに生きられるところ。

周りの人から物迄も細かな配慮できるところ。

自分と同じようなものを好きで、空気とかも・・。
近くて近くて嬉しかった。

それで十分なのに気持ちまで近くにいてくれたところ。


数えていたら、いつのまにか星がぐにゃってなる。
あぁ星数えられないほど多くなっちゃった・・。

と、もう一度空を見上げる。綺麗なぬるい月が昇っていた。
でも綺麗だけど今日の月は嫌われ者なんだろうな。8月13日、ペルセウス座流星群の極大日だというのに、この明るさは。



空に目を凝らす。じーっと、じーっと。

なんだか、こうしているとそばに君がいる気がする・・。

その感覚に応えるように流れ星が一つ流れた。


僕は変わらずに君を待っていられたかな?
君は今でも近くにいるのかな?

いないとわかっていても、ふっと後ろを振り向いてみる。




5 あの宙をまた

時々変わらないでいることが本当にいいのか解らなくなることがある。僕はこのままでいいんだろうか・・。
これを過ぎたらきっともうずっとこのまま変わらずだろうと思うから、今うじうじと悩んでみる。

悩んだ時の一人投影会。
天井の透明な飛行機に乗って星を見ながら南下してみましょう。
季節はやっぱり初夏がいいかな。銀河鉄道の季節。

白鳥、鷲、海豚、蠍・・・黒曜石の星座盤の上を辿る。
ケンタウリ、南十字、石炭袋・・・。

このまま、このまま、カンパネラのように降りることなく。

南極で少し休憩。天頂で回転する星を見上げて下さい。
さぁ今度は地球の反対側を北上しましょう。
時間も12時間遡って。

プラネタをこんな風にいつもの日周運動でなく緯度回転させると、まるで本当に時間を超えたような気持ちになる。
このまま、暗いドームのまま、入口の扉を開けたら、昔夢見たあの頃の未来に繋がっているようで・・・。
君がいる世界があるようで。

ふっとそんな事考えた自分に苦笑が漏れる。あるはずないのに。
でも信じてみようか、奇跡を。

−−−

大勢の人が空を見上げてる。歓声も上がる。カメラもいっぱいセットされてる。
ここ何処だろう?

皆が見上げてる先を見る。太陽が眩しい。
もう一度周りを見てみると、目に何か付けている。
あぁ日食か・・。

空が少しづつ暗くなる。

不意に肩を叩かれた。
何ぼーっとしているのという顔して君が立っている。

もう何だかわからない。ここにいる理由も。奇跡が本当に起こったのか・・。

そろそろ皆既が始まる・・・歓声が大きくなる。
その時君が太陽に左手を突き出して、こちらを見て微笑む。

「ダイヤモンドリング、地球で1番大きな結婚指輪」

昔君に聞いた言葉が、よみがえってきた。

僕は急いで手を上げて、ダイヤモンドリングを君の薬指に嵌めた・・・。
君がまたニッコリ笑って・・・。

−−−

操作台の前。いつの間にかドームの中は緯度回転からいつもの日周運動に。

なんだかよくわからないけれど、このまま変わらずに君を待ってていい気がしてきた。
だってさっきの映像の君は、大学の頃の僕が知ってる君より大人びて綺麗で、僕が想像で生み出す事ができそうもなかったから。

日本での日食は来年の7月。

あの頃の未来を信じて。




6 お花見

来週満月の下でお花見しませんか

差出人不明のそんな手紙が届いた。
届いたというか、暖かい日が続いて桜の開花宣言がなされた次の日、花冷えに久しぶりにコートを着たら、ポケットに入っていたのだけど。
微かに記憶に残る文字。彼女だろうか。

今度の満月と言ったら今月2度目の満月ブルームーンじゃないか。
僕にその言葉を教えてくれた彼女なら、こんな手紙をだしかねない。

変わらないでいることが、正しいのかなんてわかないけど、待ち続けていてよかったということかな?
自然に笑みがでてきてしまうのがわかる。

あぁでもどうやって返事を書こう。
メールアドレスなんてわからないから、とりあえず手紙を書いてみよう。便箋に文字を綴るのはとても気持ちがよい。
書きながら、本当に久しぶりだし、お久しお祝いでも持って行きたいなと思っていた。ここはやはり色の綺麗な星雲かな。薔薇とかエータカリーナか。

お客さんの帰ってしまったプラネタリウムで、さっき書いた手紙をもって、コンソールに座る。
満開の桜に、満天の星を映し出す。そこに流れ星機能を加えて。

色々な方向に流れていく流れ星が手紙を届けてくれるように願いながら、星空を見上げる。
ゆっくりと西へ進む星空。
いつのまにか東の空から明けてくる。
明るくなったドームの中で、気がつくと手紙が消えていた・・・。

時も、記憶も越えて、届くといいな。
後は来週晴れることを願うばかり。


満開の桜には人を惑わす力がある。満月にももちろん。惑う星、火星も土星も輝いているし、何か素敵な事が起こらないかな。





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