DIORAMA  ー模型風景ー


 真っ暗な空の中に月のように欠けて見える青い惑星。
地球は青かったって言った人もいたっけ。
僕は毎日それを見ている。向こうからは今ここはどう見えているのだろう・・・。

  1
 眠りに入る瞬間がわかる人ってどの位いるのだろう・・・。 ベットに潜ってそんなことを考える。
 深いところに沈んでいくようで、そして段々と体が軽くなっていくのがわかる。 でもあまり意識しすぎてしまうと現実に引き戻されて目が覚めてしまから、 体の存在も、思考もあいまいなまま、あいまいなまま・・・。
 僕はその瞬間が眠りに入る境界線だろうと勝手に思っている。そしてその瞬間がとても好きだった。

 沈んでいくというより落ちていく。段々軽くなるのではなく突然ふっと体がなくなる感覚。 その日はそんないつもと違う状態で、意識だけが体から引き離され自由になって飛んでいるって思った。 それともこれは既に眠りの中の夢の出来事なのか・・・。
 意識の飛んだ先は茶色い砂と暗い空の中。辺りを見渡そうとして体を感じた。いつもよりは 随分と軽いけれど、確かに首を動かして見渡すことができる。視線の先にあるものを見つけ、 この茶色い世界がどこなのかわかった。昔写真で見た世界。アポロの撮ってきた写真だったっけ・・・。 月から見た地球。ここは月なんだ。だから体も軽いのかな?
 夢の中のはずなのにとてもリアルな感覚。足を動かすと砂に後が着いていく。 でも何だか感覚が変? 硬い物の上に薄く砂が積もっているという感じ。そう不思議に思ったとき、僕の意識は薄れていった。 今度は本当に眠りの中?

    2
 ある夜、帰り道の路地を歩いていたときのこと。
ねぇ
 と後ろから声をかけられ、驚いて動きが止まってしまった。 人通りも少なく、気配もなかったので、心臓が飛び跳ねてしまったのだ。 一瞬ためらい、後ろを振り向く。しかし振り向く動作すら止まってしまった。
 月だった。
 いや月のマスクを被った人?何か言いたくても声にならず、ただ振り向く姿勢のまま立ち尽くしていた。 そんな僕をよそに彼(?)は話始めた。
そう、見ての通り僕は月だよ。あんな風景を見られる君に会いに降りてきたんだ。
 本当に月?降りてきたって?僕は思わず彼の頭に手を伸ばした。
おっと、駄目だよ。夜光塗料が剥がれちまう。
夜光塗料って・・・?本当に月なの?
 僕の頭はこの状況をうまく飲み込めていなかった。 何かのいたずらだろうと、それにしてはとても変ないたずらな気がする。
本当だよ。知らなかったかい? 夜になるとこうしてお化粧をするんだ。 その日の月齢にあわせてね。今日は全面だよ。
 あぁこれは夢なのかもしれない。随分と変な夢を見るものだ・・・。
 きっと夢だ・・・。
これあげる、美味しいから食べてみて。じゃあまた会おう、その時はよろしく。
 夢・・・
夢じゃないってばさ。

っん!!。
 気が付くと路地を歩いていた。歩きながら夢でも見ていたのか、 でも手には確かに話していたお近づきの印とやらがあるし・・・。 それが何だかとっても変なものなのだ。 見たままを言うと色がとてもカラフルなエニッタのようなもの・・・。
これって何なのだろう・・・。

    3
 おかしな貰い物何て食べて大丈夫だろうかと悩んでしまう。 でもなんとなく本当に食べられそう・・・。
ちょっとだけ舐めてみようかな・・・
 ためしに少し欠いてみて、一欠けをおそるおそる口へ運ぶ。すっと融けていく感じ。
なんだろうこれ・・・。薄荷・・・?
 頭の中を星が飛び交う。流れては消えまた流れ。これは頭の中のこと?
 大きな火球が・・・、ぶつかる!
 頭ふわふわする、あぁ体もふわふわしてる。
これってこの間寝ていたのと同じ感じだぁ
 ってことはここは・・・。
 あれまた夢でも見てるのかな、さっきまできちんと起きていた筈なのに。
でもマスクしてないし、僕の体月に対しなんだかおっきいし、なにより夢の中でこれが夢なんて認識するなんて変なの。
・・・。
 気づくと周りは自分の部屋。
 へ?
 あの星が飛び交う様子ってもしかしたら・・・。 貰い物を少し指先で粉々にしてみる。手を開くと、シパっと星が2、3個逃げて消えていく・・・。
そうだっ!
僕はアクアリウムの空の容器に小さいジオラマを吊り、
(地球のがよいかと思うかったんだけど生憎僕は月しか持ってなくて)
そうして砕いた粉を振り掛けたらすぐ密閉した。
昔読んだ本にあった様に旨くいくだろうか・・・。
 星が流れ始める。水槽の壁に当たって行き場なくいつまでも飛び交う。 そうして吊ってあるジオラマの周りを周りだし、小さな宇宙が・・・。
ここには生き物がいるのだろうか?

    4
 夜電気を消して眠りに入ろうとすると水槽がぼんやりと光を放っている。
 いつの間にか、ジオラマの周りに白い雲のようなものが包んでいて、そこここに銀河のような渦もできていた。
凄いことしてくれちゃったね。やっぱり君で正解だった。
 突然現れるのが趣味なのかしら?
あげたものはまだ少し残っている?残っていればこの小さな宇宙に連れていってあげる。 君はこの星の管理人ってこと。
 そう言いながら、僕を勝手に動かしていく。
それって僕は君に囚われたってこと?
 うんでも悪くないかな。一面緑の森と、色とりどりの花と、心まで洗い流してくれそうな澄んだ川と、 そして月うさぎたち。そんな月と一緒に暮らすのも・・・。


 ねぇ。いつか輪の消えた土星を見たら思い出してくれるかなぁ、僕を。





5  見たい空
空に星、足元に落ち葉。
なんか嬉しくなって夜の散歩に出掛けてみる。

落ち葉まるで絨毯のようにつもり、道と林の境を隠していた。
それは枝の間から降る星明かりを頼りに進む僕を迷わすには十分すぎて。

あっドングリ。

よく見てみると、そこらじゅういっぱいに落ちていた。綺麗に帽子かぶったのないかなと、歩きながら探してみる。
ドングリ追いかけるなんてまるでメイみたいだ(笑)
と考えていたら、形のいいのが見つかった。

拾いあげ、星明りにかざしてみる。なんかちょっと得した気分。
ちょうど後ろに見える星たちが、細長い五角形をしていて、なんだかドングリみたいに見える。
ドングリ座か・・・。

そうなると今度はトトロを探したくなってくる。
オリオンの盾のところが、穴が開いてドングリを落とした袋みたいにみえてきて、こう耳があって、ぷくっとしたお腹がこんな感じで・・・。
空にむりくりトトロを描いていく。
表情は大きすぎるドングリに困惑した感じで。

・・・

ここどこだ?
迷いの森へ?

・・・

あれなんだろう。
迷いながら歩いていたら、ドーナツ盤のようなものが枝にひっかかっていた。
いや穴が大きいから、天使の輪か?
背伸びして手にとってみる。
あれ、これってなんていうか土星の輪?
そういえば、来年土星の輪が消えるって何かで読んだな。こんなところに落ちてたからなのか・・・。

なことあるはずないよね。
思わず空や周りを見渡してしまう。
輪を空に透かしてみる。さっきのドングリといい、僕は空ばかり見ている気がする・・・。

ちょうど輪の中に、明るい星が入っていた。
あの星の配置はしし座。ってことはあれ土星?
ってもうこんな時間・・・

・・・

こんばんは。
ようこそ、僕の箱庭宇宙へ。
って急に連れてきちゃってごめんね、君も土星の輪を拾ったみたいだから。

よくわからずボーっとしてしまう。
目の前に、多分同じ歳くらいであろう人。
足元は小さな星(まるで星の王子様の挿絵のような)そして遠くに青い星が・・・。

今年は輪を拾う人多いみたい。来年は消失の年だしね。
この箱庭は、その輪で作ったんだ。
僕がテレビでみた、宇宙からみた地球にあこがれたから。
君はどんな宙を見たい?

えっと・・・、この輪で作れるの?
よくわからないまま質問をしていた。

そう、でもそろそろ陽が昇るから、詳しく説明できないや。
この箱庭には夜しかないからね。
君はもう帰らなきゃ。

・・・

あれ?
辺りが少し明るくなってて、森に入る前の処に立っていた。
手には輪。
とりあえず帰らなきゃ。


どんな宙を作ろうか・・・。



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