MOON
1
満月の夜のお茶会も3回目だろうか。
ついに望遠鏡を買ったのだ。使うのは今日が始めて。
最初に見るのは満月と決めていたから。
見始める前に綾さんの持ってきたお茶を飲む。お茶会だしね。
「本日のお茶菓子は私の焼いたスコーンと、叔母特製のジャムです。
それに合わせて今日は紅茶をお持ちしました」
彼女はウエイトレスのような口調?でふざけてみせる。
なんだかその言い方がとてもおかしく二人で笑いだす。
お茶会を繰り返してわかったこと。
それは彼女がかなりの料理好きということ。
先月は僕が誕生月だと知ってケーキを焼いてきてくれた。
それにおいしいコーヒーを。
「いつもすいません。いただきます」
お茶の間は1ヶ月間の出来事などを話していた。
不思議なことに、お茶会以外の場所でばったり会ったことがないのだ。
お互いの家もしらないしね。
「これ以上月が昇ると見えにくくなってしまいますね。始めましょうか」
僕がそう言って立ち上がる。
「探しましょっか。声とうさぎを」
あれから満月のたびに月を見上げてきたのだけれど、再び声を聞くことはできなかった。
僕がどうにかして月をファインダーにいれる。(まだ使い方がよくわからなくて・・)
「多分見えると思うんだけど、お先にどうぞ」
「え、いいんですか?」
「お茶のお礼に。こんなことをお礼にしてしまっていいのかわかりませんが」
彼女は「じゃお先に」と言って覗き始める。
「わぁ」
そう感嘆の声をあげた瞬間、彼女の体か崩れた。
驚いて近づいて声をかけても返事がない。でも呼吸はあるし・・。
これって気絶と言うのかな。何か変なものでも映っていたかな。
以外に冷静なことに驚いた。命に危険はなさそうだだからだろうか。
彼女をベンチに横にさせ、僕も望遠鏡を覗いてみる。
そこにはただ満月が広がっていた。
肉眼よりとても明るく見えて、黒い模様がやけに目立った。
昔の人はこれが餅をつくうさぎに見えたのか・・・。
とたんに体が浮くような感じがして・・・。
2
「そろそろお目覚めかなぁ」
その声に目を開けると、目の前にライオンがいた。そしてしゃべっている。
しゃべっているせいなのか、不思議と恐怖感は感じなかった。
さっきまで月を見ていたと思ったのに・・・。これは夢?
「言っとくけど、これは夢なんかじゃないよ。」
夢じゃない!
現実なら綾さんはどうなったの?
そんな疑問達が沸いてきたけど、ライオンの落ち着いた声に安心したのか、だんだんと冷静になっていった。
周りを見渡すと、草原が広がっていて、遠くには森も見える。
やさしい緑の世界だった。
その色がとても懐かしく思えて、自然と微笑んでいた。
「どうしたんだい?」
ライオン君に話しかけられて、現実に変える。
「この世界って・・・。ところで君はなんてライオンなの? 何で話せるの?
ここはどこなの? 女の子こなかったかな? 綾って名前なんだけど・・・」
気づいたときには遅かった。一気にいくつもの質問をしてしまっていた。
「そんなに質問されてもさ。とりあえずここは階層惑星だよ。
この時期にお客様が来るなんて珍しいんだけど。ほら」
そう言ってライオン君は、空を指差した。
ライオンがあの足で指を差すんだよ。その姿がかわいく・・・。
「あの穴から太陽の光が入ってくるんだ」
指先をたどると雲の切れ間に穴が見える。
「何重にも地殻があってね。下にも上にも、まだまだ世界があるんだ」
階層惑星・・・?
「その顔じゃ・・、口では説明しにくいんだよ。実際に上か下に行って体験したほうがわかりやすいと思うよ」
「ふーん、ねぇ、さっきも聞いたけど、ライオン君は何てライオンなの?」
「ライオン君・・・」
その呼び方に少し、しかめっ面をして「多分その答え、君はすでに知っているはずだよ」
僕が知ってる?
僕が首を傾げると
「この一面の緑の世界がヒントになるよ。とりあえず彼女を探すなら、
上に行ってみれば。あの森に上に行く階段があるから、行ってみるといい」
そう言ってまたあの足で森を指差す。
「ありがと」
僕は少し考えてから思っていたことを口にしてみた。
「ねぇ、もしまたここに来たら、今度は麦藁帽子持ってくるからかぶってくれる?」
「麦藁帽子?」
「うん、緑の草原に麦藁帽子。お似合いだと思うんだ」
そう言いながら、僕は麦藁帽子をかぶったライオン君を想像して笑ってしまった。
「じゃ、待ってるよ。思い出してね」
ライオン君が足を振る。足振ってる!!
その姿に笑いながら、森に向かう。
思い出してねってなんだろ。
遠いと思っていた森は、案外近かった。なんか空間がおかしい気がする。
そのなことを考えていたら迷った。
階段はどこ?
困っていると、人が見えたので、すかさず道を尋ねた。
その人は薪を背負った木こりだった。
「私の家のすぐそばですよ。よかったらお茶でも飲んできませんか」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて」
彼のうちは、木こりさんらしく木に囲まれていた。というより木そのものだった。
まるで木が木こりさんに感謝して、自ら体の中に空間を作ったようだった。
中は、とても暖かみがあった。
一度入ってしまったら時を忘れてずっといてしまいそうなほど。
「ね、これ何?」
〈これ〉は暖炉の上に沢山置かれていた。
「それは油差しさ。昔よく使っていたんだ」
使っていた? 油差しをどこに・・。
「はい、どうぞ」
とてもいい香りがしていた。でも嗅いだことのない香りだった。
「これは?」
「メイポロっていうんだ。蜜雲を樹液でわったものだよ。
あぁ、お茶菓子切らしてるよ。誘っておいて、ごめんね」
忘れられたお茶菓子。思い出して笑ってしまう。
「前にもね、こんなことがあったからつい・・」
「ふーん、そうそう、階段はこの家の裏を少し行ったところにあるんだ」
窓から見ると、確かに階段が見える。
「道を教えてもらった上に、お茶までご馳走になっちゃって。ありがとうございます」
その途端、木こりさんが涙を流した。
「どうしたの?」
「人に優しくされると嬉しくて、人に優しくできると嬉しいんですよね。
これは嬉し涙です。嬉しいと思えることも嬉しくて・・・」
わかる気がする。ちょっとした存在理由にもつながってる。
でも思えることが嬉しいってどういうことなのかな。
「わかります。うーん、もっとお話してみたいけど、行かなくちゃいけないから。
今度また寄らせてください。そしたらそんな話もじっくりしてみたいなぁ。」
すると木こりさんはにっこりと笑った。
「是非来てください」
「ありがと、そのときはお茶菓子持ってきますから」
階段はすぐに見つかった。でもそれは先が見えないほど長かった。
「とりあえず登るしかないか」
一歩づつ登り始める。しばらくたつとまるで空に浮かんでいるような、錯覚を覚えて・・・。
3
私はどこまで降りていくのだろう。
月を見ていたと思っていたのに、いつのまにかうさぎに囲まれてて・・・。
これって月のうさぎなのかな、だとしたら数えないと。
そう思って数え始めたら、うさぎさん達が
「下で誰かが呼んでるよ」
「こっちだよ」
って、階段に連れて行かれて・・・。
まだ13匹しか数えてなかったのになぁ。
惜しいことをした。せっかく念願だったのに。
それにしてもここはなんなのだろう?
どこに行くんだろう?
下で呼んでるのは誰なのかな?
耀人さんはどうしてるんだろ?
最近頭の中に?マークが多くなってる。
この螺旋階段人すれ違わないし、ぐるぐるしてるし。目回ってきた・・・。
まだ底が見えない。
「こんな風に地中深くに降りていくのって、まるでありすのよう」
そう思ったことを口に出した途端、頭の中に映像が浮かんできた。
「なにこれ、頭の中に入ってきてるの?」
・・・
この映像って・・・。目の前を白うさぎが走ってく。
突然空しか見えなくなったり、横も上も草原の中にいたり、
チェシャ猫、ハンプティダンプティ、イモムシ、眠りネズミ、ドードー鳥、マッドハッター、公爵夫人に豚の赤ん坊、トランプ達。
まるであの話の視線そのもののようで・・・。
「ねぇ起きてよ」
そんな声が聞こえてきて・・・。
4
しばらく登ったら急に雲の上にでた。そこには天井があった。
なんで? まだ数十段しか登ってないのに。
そんなことを考えていると、階段の先の地面がぽっかり口を開けて・・・。
入り口の向こうは青かった。
砂浜が広がってて、空が高くて、海が果てしない。
そして空も海もただ青かった。
しばらく寄せては返す波に見入っていると、波の音も手伝ってか、自分の気持ち達まで連れて行かれそうになる。
でもその感覚までもが心地よい空間だった。
このまま連れて行かれるのもいいかなと思ってしまうほど。
突然声をかけられ心臓が飛び跳ねた。かにが話しかけてきたのだ。
「ごめんね、ちょっと足をどけてもらっていいかな。なんせ僕は横にしか歩けなくてね」
気持ちを連れ戻すのに時間がかかり反応が鈍る。
「ああ、ごめん」
僕は足をどけた。ライオン君と同じようにかにも話しをしている。やっぱり変に思える。
「ね、聞きたいことがあるんだけど」
そうかにさんに聞くと、後ろ向きのまま
「いいけど、僕の向きを変えてくれないかい」
と言うので、向きを変えてあげる。
「何で話せるの? あ、でもそれよりまず急いでどこに行こうとしてたの?」
この世界では話せることはあたりまえなのかもしれない。
そう思ってそのことはそのまま受け入れるしかないとあきらめた。
「口に出して言うことでもないんだけど、悲しい出来事があったんだ。だからさ服もこのとおり・・・」
そう行って彼は黒い服を着てみせた。
喪服ってこと? それにしても殻の上に更に服着てる。材料は海苔?
「君もくるかい。知らないわけでもないだろうから」
僕が知ってる・・・?
「ごめんね、探さなきゃいけない人がいるんだ。かにさん、女の子見なかった?」
「あり、おっと、彼女は下へ下へ向かってるよ」
あり・・何のこと?
「じゃ、僕も下に追いかけないと」
「だめだよ、それじゃ」
かにさんは、はさみでちっちっと人差し指を振るかのように振って見せた。
なんかその姿がおかしい。
「下に向かっても、追いつけないよ。ライオンさんの通りに上に向かわなきゃ」
上に、なんで?
「知らないって顔してるね。でももう行かなくちゃ。ごめんね。
昨日は魚の群れが押し寄せてきて、彼らがたくさん・・・」
かにさんが急にしょんぼりしてきた。
「ねぇ、待ってよ。何で上に向かうのさ、ありって何、僕が知ってる彼らって誰」
そう質問で呼びとめると、かにさんは、
「上への階段はあっちだよ」
と、硬い体を曲げて後ろ指差す。
そのがんばりかたがおかしくて笑っていたら、かにさんはいつのまにか歩き出していた。
「こんどお酒でも飲みながらゆっくり話そ、やまなしのお酒でも・・・」
そう言いながら、はさみを振って横向きに走っていく。かに歩きってかわいい。
晩酌ね・・・。また一つ約束が増えちゃった。
とりあえず、かにさんの指差したほうを見る。
かにさんが差していたのは海の中の島だった。それもずいぶん遠くに見える。
どうしよう。海の中を泳いでいけってことかな。
そんなことを考えながら、とりあえず波打ち際ぎりぎりまで島のほう近づいてみた。
すると急に潮が引き始めて、砂が見えてきた。
何でこんなことが・・・。
ボーっとその不思議な光景を見ていると
「早く渡ってしまったほうがいいですよ。気まぐれな潮が戻ってくるかもしれないし」
と言う声がしてきた。よく見ると魚が浅瀬から顔を出していた。
もうそんなことにも驚かず、「ありがとう」と言って僕は水の引いた砂の道を歩き始めた。
気まぐれな潮、潮の干満って月の影響じゃなかったけ。
海は限りなく透明で、魚達がたくさんいた。
その泳ぐ姿にどうしても足を止めてしまう。
気持ちよさそうだよなぁ。
こんな風にのんびりと泳いでみたい。魚さんだって悩みはあるんだろうけどね。
そんなことを考えている僕の目の前を、飛魚が砂の道を飛び跳ねていく。
気持ちいいって言いたいのか、悩んでるさと言いたいのか、どっちなのかはわからないけど。
さて早く渡らなきゃ。僕は再び歩き始めた。
あれだけ遠くに見えた島がすぐそばまできていた。それほど歩いてないのに・・。
してあれほど大きく見えた島もたいして大きくない島だった。
「この世界ってどうなってるんだろ」
思わず独り言がでてしまう。
「だって空間なんていいかげんなものだから」
不意に声が聞こえてきた。よく見るとかえるが砂浜にいた。
「ねぇ、階段を登るんでしょ? そしたらそばの泉まで連れっていてくれないかな」
何でかえるが海にいるのだろう。おかしい気がする。
「どうしてだい?」
とりあえずかえる君を手のひらの上に乗せ、目を合わせてみる。
「それが・・・」
ちょっと言いにくそうにもじもじしている。いやそう見えるだけかもしれないけど。
でも小さなかえる君が、そんな風にもじもじしている姿を見ると、ライオン君の指差す姿を思い出した。
思わず頬が緩んでくる。
「実は泉で昼寝をしていたら、いつのまにか小川を流れてここまで来てしまったんだ」
「え、途中で起きなかったの?」
ちょっと言い方がよくなかったのかもしれない。少し臍を曲げてしまったようだ。
「だからこうして、ここにいるんじゃないか」
あ、でもかえるに臍ってあるのかな?
「わかりました。じゃ肩にでもどうぞ。そのかわりさ、さっき言ってた空間がどうのって話し聞かせてよ」
僕はかえる君を肩に移し、小川をさかのぼり始めた。
「実際より、近く見えたり、遠く見えたりすることだろ。
でもその時々の空間全てが本物なんだよ。気まぐれな大地が伸び縮みして動いてるのさ」
動いてる・・・?
「だから僕も君に連れていってもらうわけ。
だって、たまには短いときもあるけど僕の足ではそれでも長いから」
「ね、たまにはってことはさ、何度も流されてるの?」
かえる君が黙ってしまった。
「だって、すごく寝心地いいいところなんだ、その泉って」
「ふーん、でも動いてるってどういうこと?」
その質問にかえる君があきれたねという風に掌を上に向けた。
「まだわからない。君、階段登ってきただろ。
あれだって全ての地殻が別々に自転してるのに、いつもどこかでつながってる。
その辺がいいかげんってこと。どこに着くかは、空間しか知らないのさ」
頭ではわかってみても、常識という古巣が受け入れてくれないらしい。
「ね、それって、下に向かっている人を上に追いかけることと関係あるの?」
さっき、かにさんが言った不思議なことを思い出したのだ。
「彼女のこと? 彼女が下へ向かっていても、いつのまにかそれは上の階層だったり。
君が上へ階段を登っていても、着いた先は下の階層だったりするのさ。
それほど空間は気まぐれなんだ」
気まぐれな空間・・・。この世界って何だろ。
それになんでみんな綾さんのことを知っているんだろ。
ふとあたりを見ると、いつのまにか海が見えなくなっていた。
小川の上にかかった緑樹のアーチの中を歩いていたのだ。
木漏れ日が、あたりの景色を神秘的にしている。
「ね、もうすぐかい?」
かえる君は首をかしげたように見えた。かえるの首・・・。
「さっきは島が小さく見えたからすぐつくと思ったけど・・・。
どうやらあくびでもしてるのかな、こんなに長く伸びてるなんて」
「あくび? だれがしてるの」
「だから空間だよ。地殻さんだって生きてるんだ、それくらいするさ」
今までいつも遠そうに見えて近かったのに・・・。どれほど歩いたのかな。
やっと泉が見えてきた。
水面に木漏れ日や緑樹が反射して、とても澄んだ世界というか透明感のある空間だった。
「僕もこんなとこで昼寝してみたいなぁ。ほんと気持ちよさそう」
「だろ。君も休んでけばいいじゃないか」
僕の言ったことにとても満足げにかえる君が言う。
「でも女の子を探してて・・」
「ま、昼寝はまた今度ということで。
今度来るときはさ、頼みたいことがあるんだけどいいかな」
「なに?」
「君ならわかるはずなのに。やっぱりさ、手紙はなるべく早く着いてほしいじゃない。
だから君に郵便屋さんを頼みたいなって。ゆっくりっていうのもまた良いものだけれど・・・」
「また、来られるならね」
「来られるよ、ぜったい。早く思い出してよ。そうすればもっと話ができるのに・・・。じゃ」
そう言うとかえる君は草むらの中に消えていった。
ライオン君はここが現実だって言ったけど、それにしてはよくわからないことが多すぎる。
このまま上に進んでいいのかわからないまま、泉のそばの階段を登り始める。
今度は長いのか短いのか・・・。
5
へ、誰? そう思って辺りを見回すと、月がたくさんいる・・・!?
「あなた達は・・・」
まだよくわかっていない頭をなんとか動かして質問する。
「もちろん月さ」
みんながそろってそう答える。ちょっと圧倒される。
みんなで28人? 真っ黒な月、三日月・・・。
「なんでこんなにいっぱいいるの? 月は一つでしょう?」
「何故って最近太陽君が疲れたって、夜寝ちゃうから・・・。僕らがこうして一日ごとに交代で月をしているのさ」
「寝ちゃうって、どういうこと?」
「だからぁ」
またいっせいに話す。一人づつ話してねと頼み込む。
「今日は、15番目君の当番なの」と半月君。
「今までもたまには休んでたんだけど、なんか疲れたまっちゃったらしくて」
彼は何日目ぐらいだろうか。
「普段の月は、太陽君から受け取って地球君に渡すだけだけど、太陽君は渡しっぱなしだしね」
え、え・・・。
「太陽の光を反射してるんじゃないの」
「まぁそんな感じ、でも今は僕らの顔が光ってるように見えるだけだよ」
「それじゃあそのいつもの渡してるっていう月君は今どうしてるの?」
すると真っ黒な新月君が
「僕みたいなかっこうになる位置をずっと回っているよ」
「それっておかしくない?」
「人間達が気づかないほうがおかしいと思うけど。常に真っ黒でいるために時間まで調節しているんだから・・・」
頭がついていけない。ここには私の常識なんて通用しないのかもしれない。
さっきのよくわからない映像にしてもそうだし。
「よくわからないけど、今日は満月だから15番目君の当番なんだね」
そしたらみんな不思議な顔して
「満月って何? 15番目君のこと?」
「そうだよ、15日目の月を満月って言うでしょ」
みんな知らないって顔で見合わせた後いきなりの質問攻め。
「僕は何て言うの?」
「僕は・・・」
私だって新月、満月、三日月ぐらいしか知らない。
それにしてもここではそういう呼び方がないのかぁ。
そう説明すると
「じゃ今度までの宿題ということで」
「え、またここに来れるかわからないよ?」
するとある月がポットを取り出して言う。
「このポットをあげるよ。このお茶を飲んだらいつでもここに来れるよ」
「一つだけ気をつけてね。毎日ポットの蓋を取って呼吸をさせてあげて。そうすれば自然と紅茶が作られるから」
「そうそう、それだけは守らないと、ポットさん窒息しちゃうから」
生きてるポット? よくわからないながらも一つの疑問が浮かんだ。
「飲まないとき呼吸して作られてしまう紅茶はどうするの?」
「ポットが飲むから平気だよ。さっそくお茶にしよっか」
そう別の月が言うと、目の前にはお茶のテーブルが・・・。
「ねぇ普段からこんなことしてるの?」
「そうだね、当番以外は暇だから。毎夜お茶会をしている気がするねぇ」
私は目の前に注がれたお茶を飲む。
「あっ」
まただ。意識が・・・。
「あ、やっちゃった。このポットのお茶出しちゃった」
そんな声がうっすらと聞こえる。
「とりあえずポットだけでも持っていて」
手に何かの感触がある。でもそのまま・・・。
6
階段の先には、また地面が人一人分ぐらい開いていたた。
潜り抜け上の階層へ入ろうとすると突然「いらっしゃい」と声をかれられた。
驚いてあたりを見渡すと、たくさんのうさぎがいた。
これって待ち伏せされてたの?
「珍しいねぇ。10月でもないのにお客様だよ」
「お客様だよ、うれしいね、うれしいね」
あたりは一面雪景色で真っ白な世界だった。
空も白くて(雲があるわけじゃないのに)
太陽が暖かくて(かといって雪は冷たいわけではなく)
そこに真っ白な雪うさぎさんたち。
あぁ、溶けそう。
うさぎ!? 綾さんが探していたのもうさぎだったけ。
「餅をつくからね、こっちに来てよ」
「おもてなし、おもてなし」
うさぎさんがひょこひょこと歩いていく。はねてない・・・。
このせかいの人たちっておもしろいなぁ。
その様子を見ていたら早口言葉を思い出した。
うさぎぴょこぴょこみぴょぽ・・・。
言えない・・。
それに確か早口言葉はかえるだったし、うさぎさんも6人以上いるし・・・。
そのうちあちらこちらで持ちつきが始まった。
そんなにつかれても全部食べられないけどな・・。
何をしていいかわからず、うさぎさんを数えることにした。
綾さんも月のうさぎ数えたがってたし。
―餅つきしてるうさぎが1人、2人・・・(1羽なのかなぁ)
あ、月のうさぎ。そっか何でこんなに気づくの遅いんだろ。
今までの全部月の見え方だ。
でもそれってどういうことだろ。なんで模様が実物に・・・。
その瞬間、意識が・・・。
「あぁ、待ってよ。餅食べてってよ。ついてる途中で行っちゃうなんて・・・」
「またきてくれるよね。そのときには必ず食べてよね。おいしいんだから」
「おいしいよ。おいしいよ」
「またきてね。またきてね」
うさぎさんたちの声がかすかに聞こえる。
7
「ここは・・・」
海の中にいるみたい。だけど息ができるし、普通に歩ける。
これは何?
でもそんな疑問もすぐに去ってしまう。
だってプールの中から上を見上げたときのように、光がゆらゆらと揺らいで、とても綺麗だから。
―そこで彼が探していますよ―
えっ、耀人さん?
いやこの声って・・・。
あたりを見回すと耀人さんいる。彼に近づいて声をかける。
「あれ? 綾さん。うさぎは・・・」
「私もさっきから頭ぐるぐるです。なんで月を見ていたのにこんな変な世界にいるのか・・・」
「やっぱり二人して同じ夢でも見てるのかな。とりあえず会えてよかった」
私も少し安心。そしてふと思い出しさっきのことを言う。
「あ、さっき声が、声が聞こえたよ」
「ここにいるの?」
耀人さんが驚いて、そう私に言っているのか、声によびかけているのかわからない感じで声を発した。
・・・
―ここにいますよ―
しばらくしてさっきと同じまるで海のように包み込んでくれる、暖かい声が聞こえてきた。
「あなたは海なの? この海はどこなの?」
「耀人さん、ここ月です。さっき不思議なお月さん達に会いました」
声の変わりに私が答える。
「海・・・。そっか月の模様って月の海だ。きみは月なんだ」
耀人さんが私に今までのことを簡単に話してくれる。しばらくして声が、話しかけてきた。
―私の役目は眠れない人達に、心地よい眠りをあげることですから・・・―
「そうなんだ・・・」
二人して驚きのような、納得のような声をあげる。
―さぁ、もう眠りなさい―
声のそのせりふとともに、再び目の前が真っ白になって・・・。
8
気がつくとさっきの公園にいる。月の位置もさっきのままだ。
あ、綾さん。
はっとしてベンチを見ると、綾さんはすでに起きていて、
「今までのなんだったんでしょ」
と不思議そうな顔をする。
「うーん・・・。あ、約束。いろんな約束したまま戻ってきちゃって、もう一度行けるのかな?」
ライオン君に、木こりさんに、かにさんに、かえる君、うさぎさん達。会った人たちみんなに約束したままだ。
「そういえば・・・」綾さんがそう言って後ろに背負っていたかばんを開ける。
「夢じゃないんだね。ほら」
僕に見せるように差し出したのは紅茶のポットだった。
綾さんがポットの説明してくれる。
とても不思議な生きているポットの話と月たちの話を。
僕も出会った人達の話をする。
「さっきさ、声が眠りを与えるのが役目って言ってたけど、余計眠れなくなっちゃいそうですね」
そう笑って言う。
「ちょっと間抜けなお月様ですよね」
二人で月を見ながら笑い出す。
どことなく満月が怒っているような、ふてくされているような顔に見えた。
おっと近所迷惑・・・。
―ねぇ綾さん。今度は昼間にお茶会しませんか?
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